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#忘れられない先生 「読書感想文は、こんな風に書くんだよ」

わたしは今でこそ、文章を書いたり、書き方を教えたりしているけれども、決して文章を書くのが得意ではなかった。小学5年生の時の担任からは「佐藤の作文はつまらない。Tが書いた作文を読ませてもらえ。参考にして書き直せ」などと言われ、提出した作文は赤ペンで真っ赤に染められて返却されるのが常だった。

国語の成績がいちばん悪くて、小学6年生の時に書いた夢は「科学者になりたい」だった。理系関係の仕事について、何かを研究する仕事に憧れていたのだった。最先端の機材に囲まれて、スマートにビーカーを傾ける。「これだ! ついに見つけたぞ!」と歓喜の雄叫びをあげる。そんな仕事をしてみたいと思っていたのだった。

そんな子供時代を送っていた私なのだが、一度だけある先生に「文章」について褒められた体験がある。今回は、その時のエピソードをざっくりと思い出しながら書き留めてみたいと思う。

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小学3年生の夏休みだった。

小学3年生の時の話。夏休みの宿題に「読書感想文」があった。課題図書などはなく、好きな本を読んで原稿用紙2枚書いて提出すること。そのような内容だったと思う。

僕は夏休みに図書館で借りて読んだ小説について、書いてみることにした。作品名も作者名も忘れてしまった。たしか、自分と同じくらいの年代の少年が、夏休みにちょっとした冒険に出かける話だったように思う。

その小説を読み終えた当時の僕は、主人公の考えや行動に「なんとなく納得がいかないもの」を感じた。何か変だ。僕だったらこうすると思う。そんな違和感のようなものをそのまま感想文に書くことにした。つまり、ちょっと格好の良い表現をするならば、主人公に対しての批評を行ったわけである。

「今から、ひとつ感想文を読むぞ」

夏休みがおわって、新学期が始まった。
国語の時間に、先生が「今から、ひとつ感想文を読むぞ」と原稿用紙を手に、ある生徒の感想文を読み始めた。それはどこかで聞いたことがあるような内容だった。

ボク ノ カンソウブン ダ!

そう、僕の読書感想文だった。しかし、なんて下手くそな文章なのだろう! 誤字脱字が多すぎる。意味不明なことも書いている。先生は「ダメな読書感想文」の例として、僕のを読んでいるのかな? ああ、もうその辺で止めてくれないだろうか。・・・しかし先生は、最後まできっちりと読み上げるとこう言った。

「これは、佐藤の読書感想文だ。佐藤の文章は、間違いも多いし読みにくい部分も多い。でも、みんなの読書感想文は『あらすじ』を書いて最後に『よかったです』とか『おもしろかったです』で終わっているけれど、佐藤の感想文は主人公に対して自分の意見を書いている」

「読書感想文は、こんな風に書くんだよ。・・・〇〇さん、佐藤の読書感想文を聞いてどう思った?」
「サトーくんの読書感想文は、とてもよかったです!」

〇〇さんは、クラスで人気がある女子だった。普段はおとなしいけれど、ぱっ、と華やかな雰囲気があって「おかあさんに、もっていきなさいと言われました」と、自宅の庭に咲いていた花を教室に持ってきて飾るようなタイプの子だった。

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ほのかな恋心と、とまどいの感情

なぜ、その子に先生が感想を求めたのか? なにか意図的なものがあったのか。もしかすると先生は、僕の中に密かに眠っているほのかな恋心(のようなもの)を嗅ぎ取って、彼女を指名したのか? いやいやそれは深読みだろう。たぶん。

とにもかくにも、その時の僕は「自分の読書感想文が、先生に褒められた」こと。そして、それをクラスの女子にも認められた(らしい)という新鮮な体験で、うれしいというよりは軽く混乱してしまったことを覚えている。

そして、それが「先生に文章を褒められた」最後の瞬間だった。もう2度とクラスの前で読まれることはなかった。むしろダメ出しをされることの方が多かった。国語の成績は、あいかわらずいまひとつだし「自分は文系ではなく、理系向きの人間だ」と思いながら、中学を卒業し高校でも理系のクラスに進学した。そんな私が、大学では「日本文学」を専攻し、今では文章に関する仕事をしているわけだから、世の中というものはわからないものである。

たいていのことは、忘れてしまうものだから。

今でも文章について考える時、このエピソードを思い出す。
たとえ文章が下手くそでも、技術的に劣っていても「今、自分が確かにそう考えたことを軸に、ていねいに表現していこう」と気持ちを奮い立たせる。

たぶん今でも私の中には「あの時の先生の言葉」が原動力となって、生々しく動き続けているのだと思う。それは自覚しているよりも、ずっと大きなエネルギーになっているのだと思う。

#忘れられない先生  というテーマを見て、ここに書いたことを思い出した。そしてこれからも忘れないようにと願いながら、noteに書きとめておくことにした。

・Youtubeチャンネル【佐藤ゼミ】


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