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其の二【わたしと落語と】時代劇

子供の頃同居していた祖父は時代劇が好きだった。おじいちゃん子だった私は下校してから夕飯までのあいだ、テレビで水戸黄門や大岡越前を一緒に見つつ干し芋をかじったりお絵描きをして過ごすのが常であった。紋切り型で勧善懲悪な世界観は当時の私には退屈だったが、今思えば変化の少ない日常とマッチして安心感を得ていたのではないかと思う。そんなわけでテレビ時代劇にはどこか懐かしく、好ましい印象がある。

落語の世界を思い浮かべるとき、登場人物の職業や風俗から想像するに江戸時代が舞台であることが多い。そして私にとって江戸時代は祖父と一緒に見た時代劇で慣れ親しんだものであった。柳の垂れる水路をすすむ船、貧しい長屋の暮らし、野菜売りの声……問屋の番頭さんはしっかり者で小僧さんはこましゃくれ、おかみさんは気が強くて嫉妬深い、腕の良い職人ほど酒や博打におぼれて身を滅ぼす……そういった概念的でもあるキャラクターは落語の登場人物を理解するうえで気づかないうちに下地となっていると思う。

落語を楽しむとき、私は目の前で演じる噺家さんの向こう側の落語の世界を見ている。そしてその解像度を上げてくれるのが自分がかつて祖父と見た時代劇だったのかもしれない。


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