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エヴァーモアがモアだった件〜テイラー・スウィフト"evermore"レビュー

 テイラー・スウィフトが今夏リリースした"folklore"(フォークロア)は、テイラー・スウィフト史上最高傑作であり、テイラー・スウィフト史上最もインディーな作品でした。folkloreもサプライズな形で突如リリースされましたが、今回のevermoreも同じようにサプライズでございました。タイミング的には、クリスマスプレゼントってことになるんでしょうか。サンタはいるんでしょうか。folkloreは最高でした。エヴァーモアは、モア最高でした。

 folkloreに続く「インディー」アルバム

 evermoreはfolkloreの続編、と捉えることがしっくり来る作品です。そう捉えてテイラーが怒ることはないでしょう。実はクリスマスプレゼントっていうより、彼女の誕生日と年齢にサプライズの理由があるらしく。彼女の誕生日は12/13であり、ラッキーナンバーである「13」歳のときから、「31」歳になるのが楽しみすぎて辛いだったというテイラーは、このタイミングでファンを驚かせたかったんだとか。もちろんこのタイミングですから、ホリデーシーズンのテーマ音楽になること間違いなし。コロナによって今年のホリデーシーズンはこれまでと違うものになるでしょう。「おうち時間」なホリデーシーズンに、世界中の家々でevermoreが流れることでしょう。バンジョーの懐かしい流れに、身を任せる事になるでしょう。folkloreに続いてevermore、テイラー・スウィフトは二度、2020年を救ったのです。

(folkloreに季節が追いつき、どハマりしている最中に、まさかの今年二つ目リリース。。)

 質感的にはfolkloreのフォーク感、インディー感、森林感を継承しつつ、何か「出口」が見えるような仕上がりになっていると思います。folkloreはいい意味で森の中に引きこもり続けるようなテイストだった。それが心地よかった。ジャケットも、folkloreのモノクロの森から、ステラ・マッカートニーのチェックコートを着た色付きの後ろ姿に。evermoreを聴いたあと、森の中の夢のような時間が終わり、森を後にするような感覚に襲われました。美しさに磨きがかかり、その美しさの正体は決して触れられないものではなく俗世と繋がったものなのだとわかったとき、この年はクソだったけれど最高だったな、と思うことができました。ケンドリック・ラマーのアルバムを待ち侘び続けた今年、まさかテイラー・スウィフトに二度も感動させられるとは、関係ないけどテラス・ハウスが打ち切りになった変化の年、「私たちは絶対に絶対にヨリを戻したりしない」という言葉を「クソかよ」とか思ってた時代が懐かしい。あの頃の僕に言ってあげたい、「君は数年後テイラー・スウィフトを認めることになる」と。

 Bon Iverとのコラボ、そしてHAIM

 folkloreに続き、この作品にもBon Iver(ボン・イヴェール)のJustin Vernon(ジャスティン・ヴァーノン)が参加しています。"exile"で披露した温かみある低い声ではなく、ジャスティンらしい霧を連想させる高音が、アルバムの最後を飾る表題曲"evermore"では伸びやかに収録されています。

  Bon Iver以外にも、folklore製作にも深く関わったThe Nationalがフィーチャリングとして表示されているほか、あのHAIMも参加!ハイムの今年の新作も、かなりよかった。名前をみたときにはなかなか驚きましたが、"no body, no crime"を聴いてみるとテクスチャー的に何の問題もなくて、なるほどね、と納得。ただ、歌の内容や歌い方なんかは、他の曲に比べて力強いのが興味深かった。

(HAIMの新作"Women In Music Pt.Ⅲも素晴らしい作品だった )

 星たちの輝きが絶えなかった

 evermoreの存在を知った瞬間、Apple Musicでアルバム追加したとき、最初の4曲に星マークが付いていて、少し不安になりました。星マークはめちゃくちゃ聴かれてる曲らしいですけど、大抵シングルカットされる曲が多い。そして星マークがアルバム前半に集中するアルバムは、尻すぼみしてdissapointingな聴後感をもたらすことも少なくない。だからあーあ、なんて思っていたけれど、杞憂に過ぎませんでした。

 アルバム前半集中といえば、アミーネ(Aminé)が"Limbo"のデラックスを出したんですが、デラックスとしては珍しく新曲が7曲ずらりと並んだ後に元のLimboが続く、という形式をとっていました。これめちゃくちゃいいな、と思ってて、新しい曲もほとんど全部よかったんですけど、Limboは今年の俺的ベストアルバム5に入ってるんで、新曲聴いたあとで再度安心できるのはデカかったですねー。

  テイラーの最新作evermorに関しては、出だしの星付き曲がよかったのはもちろんですが、そのエネルギーをアルバム後半の曲たちも保持していた、そして表題曲"evermore"でBon Iverをフィーチャーし、「昇華」も完璧だった。星たちの輝きが最後まで絶えなかった、最高アルバムだったのです!

  柳、泡酒問題、 金脈殺到

  一曲目の"willow"がまず最高っていう話をさせてくださいよ。テイラーの低音に、一気に引き込まれます。哀愁漂う曲なのに、"Lover"の"Can I go where you go?"というフレーズに通ずる"Wherever you stray, I follow"という歌詞がたまらない。MVが"cardigan"の続編になっているのも、最高すぎやしませんか。

 そして二曲目の"champagne problems"。シャンパンは伝統がしっかりしてて基準が厳しいから、完全にナチュラルな作りがしづらい、っていう自然派ワイン業界の問題かと思ったら、違いました。champagne problemsっていうのは「貧困や災害、戦争に比べたら取るに足らない裕福な人々の悩み」のことを指すらしいですが、この曲で恋人からのプロポーズを断る女性が描かれています。クリスマス直前の設定になっているようですが、男性は指輪をもってくるのに、女性の方は関係を終わらせるつもりだった、という悲しい恋の行方なんですね。興味深いことに、そんな内容の曲のライティング・クレジットに、テイラーの恋人ジョー・アルウィンの名前があります。

(Nick JonasやKaty Perryなども、同名曲を出してます。テイストは全然違うけど)

 三曲目の"gold rush"は、"Lover"を作ったジャック・アントノフが深く関わっている一曲。今作におけるアントノフのお気に入りの一曲だそうで、クレジットを見てみたら、アントノフが関わっているのは10曲目の"ivy"を含めた2曲で、そりゃお気に入りだろうな、ていうか今作ほとんどのソングライティング・プロデュースをしているAaron Dessnerへの当てつけか?(過剰邪推) とにかく素敵な一曲ですけどね。両者ともfolkloreに大きく貢献しており、彼らなしにfolklore、そしてその続編と言えるevermoreは完成しなかったでしょう。仲が良いことを願います(笑)

 いやはや、この"gold rush"という曲、出だしから完璧ですね。穂先を連想するような繊細さ、かつベルが鳴ってもおかしくないコーラスはホリデイ・ソングとしても一興。今年は、テイラーの一強、yeah。

(かつて人々は、一攫千金を狙い、金脈に殺到したのだ)

 ということで星付きの曲は保湿機能がついていて、いいえそんなものついてません、ただ単にタイピングしてたら候補に出てきたんで言ってみました、乾燥がひどくなる今日この頃、しっかりと乾燥対策をしてテイラー・スウィフトを聴きましょうね♪

 Storytellingの素晴らしさ

 星付きの曲たちはさすが、という感じでしたが、他にも素晴らしい曲が沢山あって、どれをピックアップするか悩みました。アルバムのどこを切り取っても、Storytellingの巧みさが光る。

 とりあえず一聴目でのお気に入り曲は、"long story short"、まずタイトルがいい。「早い話」的なね。「要は」的なね。んでもって、メロディが潔くて最高。

Long story short, it was a bad time
Long story short, I survived

 「要するにタイミングが悪かった、結局は生き延びてる」。なんて手短に救済をもたらしてくれるお言葉かしらん。過去の「毒性ある関係性」について言っているとは思いますが、コロナ禍についても当てはまるような。
 また、この曲のYoutubeのコメント欄にこうあって、最高と思いました。
 "Long story short: Taylor Swift is a lyrical genius"
(つまるところ、テイラー・スウィフトは天才作詞家である)
 
「タイミングが悪かった」や"bad guy"と形容されているのが確執の深いカニエ・ウェスト、という意見もありますが、それよりもカルヴァン・ハリスとか元恋人なんじゃないの? て思うのがより非邪推的というか(さっき変な邪推しといて何を言ってるのよ)。ただここでも「ウェスト」ていう繋がりがあるとしたら恐ろしい、っていう話は数十行後に。

(ivyといえば僕的にはフランク・オーシャン。なぜかアレッシア・カーラのカヴァーでごめんなさい。いやそれはアレッシアに失礼でごめんなさい。生まれてきてごめんなさい)  

 あとは、"ivy"も最高。「オー・ゴッデム」の響きもいいですが、描写の素晴らしい歌詞も興味深い。浮気の歌なんだけど、絶妙に綺麗なメロディだし。前作の"illicit affairs"を彷彿とさせる曲でもあります。

I'd live and die for moments that we stole
On begged and borrowed time

 浮気だからこそ「借りた時間」を楽しんでいるだけ、なのかもしれない。しかしそんな時間のために、「生き」「死に」たいという、ある意味では視野狭窄的な考えこそに、恋愛の儚さと尊さが宿る。

 バイオリンやホーンの音色も、しっとりと活かされている上に、バンジョーの響きが、たまらなくないすか?バンジョーを奏でるのはBon Iverのジャスティン・ヴァーノン、テイラーの原点回帰をしっかりサポート。さらにジャスティン・ヴァーノン名義でトライアングルも加わっているのは、笑いました。スティービー・ワンダーのハーモニカ、ジャスティン・ヴァーノンのトライアングル、なんて括られる日も近いかも?!

 と思ったら続く"cowboy like me"にハーモニカが出てきて笑ったよ。あはは。でもジャスティン・ヴァーノンじゃなくて、Josh Kaufmanていう人だったよ。あはは。

 女性たち

 今作にも、女性たちが登場します。歌の登場人物としても、そして今回は参加アーティストとしても。

 前作の"the last great american dynasty"は完璧な曲でした。"folklore"の中でも一番聴き込んでる曲ですが、同曲は実在の「レベッカ・ハークネス」に関する内容でした。
 
 今作には"dorothea"という曲が含まれています。この曲こそがテイラーが、今作の中で初めに書いた曲だそうです。この"dorothea"は「ハリウッドの夢を追い求めて小さな町を去った少女」の設定であり、"tis the damn season"はそんな彼女の故郷への帰還@ホリデー期間、が描かれているんだとか。
 この二曲に登場するドロシアは、前作"folklore"の"betty"なんかとも繋がりがあるらしく、テイラーの中でもベティーとドロシアはかつて同じ学校に通っていた、という設定になっているらしいです。


 そしてもう一曲。"marjorie"はテイラーの祖母らしいですね。今でも夢の中では会えるという祖母はオペラ歌手だったようで、テイラーに音楽的な影響を与えた人間の一人なのでしょう。

 テイラー自身が祖母のことだと言っているものの、dorotheaとmarjorieに関して囁かれている噂が、テイラーが育ったペンシルヴェニアで失踪してしまった少女の名前が"Marjorie West(マージェリー・ウェスト)"で、その姉の名前がDorotheaということから、関連性があるのではないかと言われています。HAIMをフィーチャリングした"no body, no crime"は、この失踪事件をモチーフにしていると言われていますしね。全体を通して、繋がり&含みがあることは否めませんね。"cardigan"→"willow"の繋がりと言い、さすがテイラーです。さすがにカニエ・ウェストは関係ないだろうが(笑)

 テイラーとワイン

 前作・今作をじっくり聴いてみて思ったのは、テイラー・スウィフトはワインが好きである、ということ。もちろんテイラーがカッシーナ・タヴィンを飲んでいる可能性は高くはないと思うけれど、いろんな曲にワインが出てきますね。「テイラーとワイン」については別記事を作ろうかな、もちろんワインを飲みながら読んでもらうために、ワインを飲みながら書きます。
 あと、普通に前作"folklore"ももう一度聴いて、じっくり考察しなくては。

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(カッシーナ・タヴィンのワインたち。後ろに写っている何かが見えたなら、あなたの来年は最高になるはず) 

 "evermore"は"folklore"に収まり切らなかったものの寄せ集めではありません。"folklore"の妹に当たるアルバムであっても、質の意味ではむしろ"folklore"を食らっている。質感が似ているだけでなく、内容的にもリンクしてるから、エヴァーモアを繰り返し聴いていると、フォークロアを聴きたくなる。今夏リリースの"folklore"でさえも過去であるなら、今は"evermore"を全身全霊で受け止めたい。僕としてはそんな感じっす。

 コロナはクソだし、2020年は予期せぬ事態が多すぎてダメージも受けたけど、テイラー・スウィフトに大満足する自分を見つけられた、いい意味での変化の年だった。食わず嫌いはダメだってずっと前から分かってるから色んなものにトライしがちだけど、その結果喜びを得られるケースって実は少なかったりして、それは自分のテイストが凝り固まってるからなんだろうけど、自分の凝り固まったテイストに向こうから近づいてきてくれると、全体を受け入れやすくなって、細部にまで目が届いたら、新しい発見ができ、結果として自分のテイストがほぐれてる、広がってる。だから、「私たちは絶対に絶対にヨリを戻したりしない」とか決めつけるのってやっぱよくないよ、絶対なんてこの世にないんだからね!別にヨリを取り戻したっていいじゃない、人生よりどりみどり♪

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