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富有柿はふるさとの味

東京在住の高校の同級生から柿を送ってほしいと依頼があった。
向こうでも季節になればスーパーマーケットに柿は並ぶのだが、こちらの物とは味が全く違うのだという。
去年まではおかあさんが送ってくれていたそうだが、諸事情で今年はそれが叶わなくなった。そこで頼みやすい私に言ってきたらしい。しかもどんな種類の柿でもいいのではなく、富有柿がいいのだという。

日本には約1000種類もの柿があるそうで、甘柿と渋柿に大別される。甘柿の中で最初から渋味が全くないものが完全甘柿、種が入ると渋味が抜けるものは不完全甘柿といい、渋柿の中で種が入るとその周辺だけ甘くなるのは不完全渋柿、種の有無にかかわらず渋いものは完全渋柿という。渋柿は皮をむいて吊るして、陽に当てると渋が抜けて甘くなる。これが干し柿だ。

富有柿は甘柿の代表格である。富有柿は岐阜県の特産品だ。しかも、原産地は旧本巣郡巣南町(現在の瑞穂市)で、同地には今も原木が残っている。

ぽってりとして安定感のある形をしていて、10月ぐらいから大きくなり、木の上で天に近い物から赤くなる。うちには祖父が植えたという7∼8mもの高さのある柿があるが、今年は大豊作だった。あまりに豊作なので捨てておくにはもったいないと思い、柿をちぎるための長いはさみを持ち出してきて届く限りは収穫した。ところがこれがけっこう重い。主人もかなり採ってはくれたが、自分は食べない。子どもたちも食べない。家族で食べるのは私一人だ。

昔は竹の棒の先を割ってそこに木の枝を入れてそこに柿のついている細い枝を挟んでとった。そう・・確か、ハサといってたような気がする。甘い物がない時代、柿はおやつだった。

ただ残念なことに、柿にはリンゴやミカンのような香りがない。だからお菓子作りには向かない。若い人に今一つ不人気なのはそのせいだろうか。でも、総菜として用いられる場合がある。柿なますといって、普通は大根とニンジンの紅白の酢の物をなますというが、母はこれに柿を細かくして入れていた。しかし、主人も私も柿なますを好かなかったので、作らなくなってしまったが・・ほかには豆腐とあえた白和えにも柿を用いることを、柿を使ったレシピを探していて最近知った。

さて、同級生のことに話を戻そう。A君は東京に住んではや40年。たまに戻って来る岐阜のことなどすっかり忘れてしまったかと思ったが、そうではないらしい。彼の胃袋は故郷をしっかり覚えていた。

おかあさんは本巣で買って送っていたというが、私は「うちからだと南濃の方が近い」と言ったら「それでいい」という。

けっきょく11月はじめに南濃町のJAで柿を購入した。やや色味が薄かったので、「もうしばらく赤くなるのを待って食べた方がいい」といったら、「ジュクジュクになった柿は嫌いだから硬い方がいい」というので、まあいいかと思った。

それにしても東京の人は柿なんか食べるのだろうか。柿はブドウや桃、梨といった果物と違って高級感はない。ところがA君はおかあさんから送ってくれた柿を友人知人に分けると、みんなとても喜んでくれるのだという。子どもの頃に、秋になると柿をちぎって食べたという共通の思い出がよみがえるのだろうか。

胃袋でわかりあえるっていうのは、こういうことなのかもしれない。

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