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「途立つ」旅人よ。


「名にし負はば いざ言問はむ 都鳥 わが思ふ人は ありやなしやと」

 伊勢物語9段『東下り』で在原業平が詠んだ歌だ。

 京の都を離れ、隅田川まで足を運んだ一行が、都に残してきた人たちのことを想う気持ちが強く込められた歌である。

 この歌を逆さから読めば、「途立つ/みちたつ」には必ず「残される側」が存在する。

 「途立つ」側が「残される側」を想うように、いつの時代も「残される側」は「途立つ」人を見送り、その無事を願う。

 「途立つ」人がどんな道を歩むのか。願わくば何事もなく笑顔で帰ってきてほしい。「残される側」は行く末に想いを馳せ、胸に寂寥感をぐるぐると渦巻かせる。

 これから旅に出る方へ。

 あなたにとって見知らぬ私ですが、無事を願わせてください。

 そしてふとしたとき、あなたにとって「残される側」に想いを馳せてください。

 目の当たりにした感動を、多くの人に共有してください。


 いってらっしゃい。

 

 

 



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