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「上京したばかり」の賞味期限は過ぎたけど

今朝カーテンを引いたら、窓が結露していた。
まあるくぷっくりと膨らんだ水の玉が、ポロロンと滑って落ちてゆく。あちこちで気ままに流れるのを眺めて、なんだか流れ星のようだなと思う。
私はカーテンを握って自分の方へ寄せた。実家の、裾のカビたカーテンを思い出したのだ。

まだ9月だというのに、それどころかつい先日まで夏日だったのに。
カーテンを端へ押しやり、サッシに手をかける。カラカラという音から少し遅れて、空気がふわっと部屋へ流れ込んできた。水分を含んだ、しっとりと冷たい空気だ。一瞬、山中の川べりに立っている気分になる。

あっ、もう「涼しい」じゃないのね。
秋だ、と思う。私がリモートワークをしたり寝込んだりして、部屋に引きこもっている間に、夏はすっかりバイバイしてしまったみたいだ。

早く秋が来ないかなあなんて思っていたのに、さよならもなしに去られてしまうと、それはそれでさみしいものだ。
「じゃあね、くらい言ってくれてもいいのに」なんて、自分のわがままさに苦笑。はーもう、秋なんだねえ。

夏より秋が好き。というか、だんだんと寒くなっていく過程が好き。

ふわふわのニットや、肩掛けのジャケットなど。秋だからできるおしゃれに心が躍るし、寒さを言い訳に手をとったり、ポケットを共有しちゃったり。一段と可愛くなった私で少し大胆になれるのも最高。

空気が冷たいほど、五感が鋭敏になる。秋の空は夏よりも色濃く遠くて、星が一層うつくしい。
草木の匂いを吸いこみ、夕暮れに輝き始めた星を数えながら歩く帰り道はとても乙だ。

これから来る季節のすべてに、わくわくしている。

胸がはしゃいだ、ときめきのままにニットのカーデガンを羽織って出たら、まだちょっと暑かった。そっと腕を抜いて、肩にかける。
風が二の腕を滑って、汗と体温をいくらか奪っていった。

夏が去ったとか、秋が来るとか。
相変わらず季節にさみしくなったり嬉しくなったりできることに、心底安心して、ため息が出る。

22歳の夏は、「上京したばかり」というセリフの賞味期限は、過ぎたけど。
今のところ、私は私のままで東京にいられてます。

アイキャッチ画像はみんなのフォトギャラリーより拝借しました。
umicoさんの絵はどれも意志があり、目にする絵の一枚いちまいから声が聴こえてくるようで。自然と心惹かれていたのです。

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