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【ショートショート】麻子のスマホ または白骨化スマホ

 麻子はスマホ中毒だった。

 クラスメートたちとのLINE……ゲーム……推しの出演動画……
 通学中も画面から目を離すことなく、ひたすらオンラインの世界に没頭する。

 その夜も駅のホームを歩きながら、彼氏とメッセージのやり取りに夢中になっていた。
 しかも、ちょっとした言葉の行き違いで、ケンカが生じそうな雰囲気に陥った。
 何よそれ……
 納得出来ない向こうの言い分に、脊髄反射的な言葉を連発し、トーク画面はますます不穏な空気になっていく。
「やれやれ、虚しいことじゃのお……」
 声に振り返ると、老婆がニヤニヤ笑いながら麻子を見上げていた。
「直接会って話せばいいものを、なんでスマホに頼るんじゃ?」
「え……別にいいじゃん、みんなやってることだし」
「そうじゃのう。そうして皆、絆が痩せ衰えて最後は骨だけのような関係になっていくんじゃ……」
 麻子と老婆以外誰もいないホームを、急行電車が通過していった。
「そのスマホも、最後にはそんな関係にふさわしい形になっていくんじゃよ……」
 見ると、麻子のスマホは外側からドロドロに溶け出し、ついに中の部品を囲んでいたフレームだけになった。
 まるで白骨化したように……
 悲鳴をあげてスマホを取り落とすと、ホームからは老婆の姿も消えていた。
「ちょっと! あんたがやったの?! 私のスマホ返して! 返してよ!」
 スマホを求めて、無人のホームを麻子はさまよい続けた。

 そのスマホは棺の中だった。
「あんなにスマホ好きだったから、せめて一緒に……」
「ダメだよ。燃えないものを入れちゃ。出しとくからね」
「しかし、スマホに夢中になりすぎだったな。電車と接触して亡くなるなんて……」
 火葬場のスタッフが棺を閉じた。
「それでは、お別れでございます……」

 数十分後、スマホの持ち主だけが綺麗に白骨となった。


たらはかにさんの募集企画「#毎週ショートショートnote」参加作品です。
お題は「白骨化スマホ」。
ちょっと皮肉なホラー風味になりました。
火葬の時は、メガネとか入れ歯も外しておくそうなので、くれぐれもスマホなどは入れないようにしましょう。
😑

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