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富士山で高山病になった私がキリマンジャロへ行く

2008年ことですが、いつかは、行ってみたかったアフリカのキリマンジャロ山に夏休みを利用して登ることを決めました。キリマンジャロ山の標高は、5895m。

標高は高くても、ロープを使うような登山技術を必要とする場所は全くありません。体力があって、高山病対策ができていれば、登れる山なのです。誰でも挑戦できる山なんです。決断したのは出発の1ヶ月少し前。トレーニングがちょっと心配でした。

体力トレーニングは、朝早く起きて毎日ランニングすることにしました。
問題は、高山病対策の高度順応です。こればかりは、標高の高い場所に行くしかありません。日本で一番標高の高いところと言えば、富士山ですね。

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これまで、標高3000mの山はいろいろと登っていましたが、富士山には行ったことがなかったのです。これを機会に行くことにしました。インターネットを見ていたら、ちょうどいいツアーがあったので、早速申し込み。ツアー当日。参加者は15名ほど。各々が自己紹介。

私の番、
「来月、キリマンジャロに登るのでトレーニングに来ました!」
ちょっと、かっこつけちゃってます。これが、かっこ悪いことになることも
知らずに。。

昼前に5合目から登り始めて、夕方8合目の山小屋に到着。定番のカレーライスを食べて仮眠です。11時頃、起きた時のことです。

「頭がガンガンする。。」
「カレーが胃から込みあげてくるようで気持ち悪い。。」
「気力がない。。」
うわさに聞いていた高山病の症状が出てしまったのです。

これまで、高山病は経験したことがありませんでした。気分は悪いし、
頂上に登る気力がありません。ただ、ここで止めてしまっては意味が
ありません。。と、なんとか気合を入れて、頂上を目指します。

頂上目指して山道を登っている途中、
「なんとか頂上まで、たどりつくぞ!」と前向きな気持ちと、
「なんでこんな体調が悪いなか、無理して山登っているんだろう。。
下に戻りたい。。」
と消極的な気持ちが、ずっと、入り混じっていました。

数時間かけてなんとか、頂上に到達。他のメンバーは、御来光を見ながら
感動しています。私には感動する余裕はありません。
「早く降りたい。」と思うだけでした。。

高山病の症状が出ているのは私だけ。キリマンジャロのトレーニング目的
で来ている私だけです。。他の参加者は体調も良いようで、その後はお鉢巡り。私は、気分が悪いと言って、すぐに山小屋まで下山しました。。

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下山している途中、「あの人、ここで高山病になっちゃってほんとに来月キリマンジャロへ行けるのかな??」そんな会話をしている声が、心の中から
聞こえてきました。。

3100mの標高の山小屋で高山病。
目指すキリマンジャロ山は標高 5895m

「3000mで高山病になるんじゃ、
     5000m超えるなんで無理だよなー。。」

「自分は高山病になりやすい体質なのかな。。」
「標高の高い山は、自分に向いてないのかな。。」と、
 段々と気持ちが消極的になっていきます。

そして、
「東京帰ったらツアー、キャンセルしようかな。」と真剣に考えたのです。高いお金払って、時間も使って高山病になりに行くのはもったいない。。
気持ちはかなりネガティブになっていました。行かない理由を、自分で探し
ていたのです。

ただ、なんとなく心がスッキリしません。キリマンジャロへは、
【行かされる】わけではないのです。

【自分で行くと決めた】ことなんです。

「じゃあ、止める。。」と簡単に決断はできませんでした。
気持ちを切り替えました。

できない理由を考えるのではなく、「できるために何ができるか」
を考えることにしたのです。


そうすると、考え方が変わってきます。
そして、行動も変わってくるんです。

本を読み漁って、高山病に関する知識を学びました。
「なぜ、高山病は起きるのか?」
「体質なのか?」
「予防するにはどうするのか?」

そして、翌週も富士山に行くことにしました。。

また、登山者向けの【低酸素室トレーニング】というサービスを知り、
すぐに申し込みました。さすがに、登山者向けの専門家です。高山病
にならないためのトレーニング方法をいろいろと知ることができました。

2回目の富士山登山。前回ほどではありませんでしたが、高山病の症状
がでてしまいました。。ただ、気持ちは前向きです。「来週、もう1回富士山に来よう!」と、その場で決めたのです。

3回目の富士山登山。ゆっくり登る。水をいっぱい飲むトイレに行く、
など、学んだことを実践しました。高山病の症状は全く出ませんでした。
自分の身体が、段々と高山に慣れてきていることを感じていました。

日々の体力トレーニング、低酸素室でのトレーニングはその後も続けました。そして、期待と不安を抱えながら、キリマンジャロへ向かうのです。

アメリカの心理学者、【ウィリアム・ジェームズ】の言葉。

心が変われば行動が変わる。
行動が変われば習慣が変わる。
習慣が変われば人格が変わる。
人格が変われば運命が変わる。
最初に変えるのは、【心】なんですね。

「できることはやった!」という気持ちで、アフリカへ旅立ちます。
関西空港から、ドーハを経由して、ケニアへ。ケニアから、タンザニア
のキリマンジャロの麓までは、バスで8時間。かなりの長旅。

キリマンジャロ_バス

アフリカの大地を駆け抜けます。

キリマンジャロ_バスから

タンザニアの入国審査は1時間以上かかってしまいました。
アルーシャは綺麗な街並みです。

アルーシャ

キリマンジャロの麓へ向けてバスは走り続けます。
バスの窓から見えた【キリマンジャロ山】

キリマンジャロ_バスから見える

「あれに登るのかあ。。」と期待と不安が心のなかを駆け巡ります。

夕方、麓の宿に到着。キリマンジャロコーヒーを飲んで一休み。。
翌日からいよいよ山行のスタート。ちょっと興奮気味です。。キリマンジャロ山への登山は、4泊5日の山行。3泊山小屋に泊まりながらゆっくりと頂上へ登ります。帰りは一気に下りてきて、1泊宿泊して下山。

いよいよ登山開始。体調は良好。1泊目の山小屋までは、うっそうとした森の中をゆっくりと進みます。【レインフォレスト】と呼ばれています。

レインフォレスト

2泊目の山小屋までは、歩きやすい登山道をゆっくりと進む感じで快適です。高山病の症状もなく順調に進めました。アフリカの自然のなかを歩けることに喜びを感じました。一歩一歩ゆっくり歩くと、頂上が段々と近づいてきます。

山道

山小屋

3泊目の宿に到着。標高は4700mm。ここで、体調が悪くなる人が
続出するのです。ここで、仮眠をとって出発は夜中の0時。頂上アタックを前に、各国からの登山者が交流しています。私もいろいろな方と交流。そろそろお開きとなったところで、

「日本の方ですか?」と急に女性から話しかけられました。
「連れが体調が悪いので、見てほしい」とお願いされたのです。「なんで私に??」とは思いましたが、困っているようなので見に行きます。

部屋では、男性が真っ青な顔をしてベッドで横たわっています。持参していた酸素計測計で血中酸素を計測すると明らかに異常値。完全に高山病の症状です。男性に横たわるのを止めて起き上がってもらいます。

そして、呼吸の仕方を伝えて、水を大量に飲んでもらいます。呼吸を続けていくうちに、段々と顔色が変わってきます。身体も楽になってきたようです。寝ないで、呼吸を続けてくださいと言い残します。

頂上へのアタックは、5時間後。「アタックは、厳しいかなあ」と思いながら、その場を離れました。あらためて考えると、自分でも不思議なくらい、冷静に対応できました。本を読み漁って、高山病に関する知識を得たことが、こんなところで、役にたったのです。ただ、日本人は私以外にもいたし、「なぜ私に声をかけたのどうだろう。。」と不思議に感じました。。

私の体調は、すごく快調でした。登山は、ここからが本番です。
登頂アタックに向けて真夜中の0時、山小屋をスタート。

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満点の星空を見ながら、歩き続けるといろいろな思いが込み上げてきます。

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一見、点のように見えるひとつひとつの光が地球と同じような星であること。これだけの数の星があれば、どこかに地球と同じような、生命体が生まれてもおかしくないのでは。。

いや、もしかしたら、地球に生命体が生まれたのは、宇宙の星の数分の1の
奇跡だったのでは。。まさに、【ミラクル】なのではないのだろうか。。
そんな思いを頭にめぐらせながら、歩き続けて、5時間。待ちに待った夜明け。太陽の美しさと温かさに感謝。

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あまりの綺麗さに、はしゃぎながら写真を撮りまくります。ガイドから、「元気だねー」と、ある意味でお褒めの言葉。。太陽からエネルギーをもらい頂上に向けて歩く。

午前9時、分岐のピークに到着。標高5681m最終ピーク5895mまでは、あと2時間。これがやたらときつい。

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そして、ようやく頂上へたどり着く。

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とてもつもない充実感が湧き上がってきます。そして、「あとは降りるだけ。もう高山病の心配をしなくていいんだ。。」と安堵感。。

実は、頭の中では、高山病が襲ってくるのではと心配で、ずっとビクビクしていたのです。この恐怖から解放されました。

そして、富士山での高山病で一度は断念しようと考えたキリマンジャロ登山。あの時、本当に止めなくてよかった。。あらためてそんな思いが込み上げてくる。

ここまで、連れてきてくれたガイド、ポーター仲間、自分自身の身体と心に本当に感謝です。

下山途中、山小屋で、高山病の対応をお願いされたカップルに偶然にも遭遇。あの後、体調が復活して、無事登頂を果たしたとのこと。あの高山病から復活できたとはびっくり。「あの時、お会いしてなかったら、絶対に登れませんでした。本当にありがとうございました。」と、感謝の言葉。

「自分の対応したことが人の役に立ったんだ。」胸の奥から、とてつもなく嬉しい気持ちが込み上げてきます。

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山小屋での出会い。そして、下山途中の出会い。人間同士の不思議な
【つながり】そして、一度は断念しようとして、心を入れ替えた自分自身、
自分の心との【つながり】。

「人」、そして、「自分自身」と日常とは違った【つながり】を感じる意味深い旅となりました。

          最後までお付き合いいただきありがとうございます。