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Zへのメッセージ(1)(2022)

Zへのメッセージ
Saven Satow
Dec. 10, 2022

「明日の私を 気づかうことより
あなたの未来を 見つめてほしいの
涙で綴り終えた お別れの手紙」
由紀さおり『手紙』
1 Z世代
 「天気晴朗なれども波高し」ならぬ「天気蒼穹なれども赤波高し」と予想された2022年米中間選挙でしたが、それは外れます。当初は、連邦最高裁の中絶権をめぐるロー対ウェイド判決の判断見直しにより、世論が共和党から離れ、民主党有利の選挙になると見られています。ところが、インフレが進み、ジョー・バイデン政権の支持率が低迷したため、民主党に代わって共和党が勢いを増し、圧勝するとの予想がメディアで支配的になります。もともと中間選挙は与党が不利とされています。上下両院で野党が多数派に躍進、少数与党のバイデン大統領は苦しい政権運営を強いられるというわけです。しかし、開票されると、青空の下、赤いビッグ・ウェーブは起きず、小波《さざなみ》にとどまっています。

 『ニューヨーク・タイムズ』のコラムニストのチャールズ・ブローは、『朝日新聞デジタル、2022年1月18日5時00分配信「中間選挙、破滅への道を拒否」において、その結果をめぐり次のように吐露しています。

 今回の選挙は、激しい選挙戦に関する多くの予測がいかに無意味で、誤解を招くものであるかを浮き彫りにした。その多くは、単なる無駄話であり、根拠のない推測であり、データを紡いで確たる事実のように見せていたに過ぎない。
 他の人が気づかないようなことを数字の中に見いだす賢い人物になりたがる評論家が多すぎる。予言者になりたがりながら、結局は誤った情報の伝達者になってしまう。そして、その見当違いは広まりやすい。評論家は他の評論家から聞いたことを採り入れ、それをまた別の人に伝えて集団思考が進行していく。一般の人々にとっては、様々な情報源から同じことを飽きるほど繰り返し聞かされることで、根拠のない思い込みを信用するようになる。
 私たちは、この数週間で共和党に明らかに勢いが傾いたと信じ込まされていた。だが、そうではなかった。共和党の「赤い波」は起きなかった。

 選挙の争点は、一般的に言って、経済問題が最優先です。アメリカは石油危機以来のインフレに見舞われ、世論のバイデン政権への風当たりは強いものです。この状況では、統治を担当している与党が票を減らすとの予想をメディアが流しても違和感はありません。

 けれども、結果は共和党の票が予想より伸びず、民主党が善戦したというものです。その一員として挙げられているのが「Z世代(Generation Z)」と呼ばれる若者の投票行動です。若年層は概して投票率が低いものです。日本だけでなく、アメリカも同様です。過去のデータを参考に予想するなら、若者の票を少なく見積もるでしょう。ところが、若者たちは選挙に積極的に参加し、そうした見下しを覆しています。

 『デイリー新潮』は、2022年11月21日11時01分配信「米中間選挙で存在感を示したZ世代 暗号資産FTX崩壊で大打撃」において、タフツ大学の分析を次のように紹介しています。

 起きると予想されていた赤い波を阻止したのは若者の力だった。
 米タフツ大学によれば、若者(18~29歳)の27%が投票に出かけ、過去30年間の中間選挙の投票率としては2018年の31%に次いで高かった。若者の投票は圧倒的に民主党に集まった。各種の出口調査は一様に「若者の6割以上が民主党に票を投じた」と伝えている。
 1997年から2012年までに生まれた世代は「Z世代」と呼ばれ、注目されることが多い。生まれた時に既にインターネットが普及しており、前の世代と価値観やライフスタイルが大きく異なっているからだ。
 今回の中間選挙の争点はインフレ対策だとされていたが、Z世代の最大の関心事は人工妊娠中絶の権利だったと言われている。前回の大統領選挙の結果を認めない「選挙否定派」が多数を占める共和党に対し「自らの投票行動を否定する存在だ」と反発し、民主党に票を投じたZ世代が多数いたこともわかっている。
 フロリダ州ではZ世代初の下院議員(25歳)が誕生しており、Z世代は今回の中間選挙でその存在感を大きく示した形だ。

 このように、Z世代の投票行動が共和党の波を抑えたというわけです。しかも、その中から立候補者も現われ、当選もしています。

 Z世代にとって最も重要なツールはTikTokです。CMを思わせる映像や音楽、音声によって知識や感情、行動を共有します。検索も年長者の手あかのついたGoogleばかりでなく、Instagramを始めSNSを利用しています。そうして情報の送受信を通じて社会変革の行動に取り組んでいます。

 このZ世代を象徴する人物がグレタ・トゥーンベリ(Greta Thunberg)さんでしょう。2003年生まれの彼女は環境問題について極めて深刻に考え、迅速な対策の必要性それを訴えるため、2018年夏、学校を休み、スウェーデンの国会議事堂前で「たったひとりのストライキ」を始めます。この行動が主に若者たちに共感され、連帯を生み、世界的うねりとしなったことはご承知の通りです。

 アメリカのZ世代も、環境問題を始め政治的諸問題に対して非常に積極的に発言・行動しています。連帯して気候変動や銃規制、社会正義に関するデモやストも行っています。そのためには学校を休むことも躊躇しません。政界や財界、教育界などに自分たちを思い通りにしようとすることは間違いであり、そちらの方がこちらの意思に近づくべきだと要求します。企業の経営方針や政府の公共政策、議会の法案審議を変更させようとする強い意志と柴や胃行動力、広範囲に浸透する連帯を持った彼らに年長者は頼もしさを覚えたり、恐れおののいたりしています。校訂・否定何れの立場であっても、彼らの政治力は侮れと思っていることは確かです。

 もちろん、それはあくまでアメリカのZ世代であって、必ずしもあなた方のことではないでしょう。日本では、団塊の世代以外「世代」という共同意識は人々の間で弱いように思えます。世代として連帯して発言・行動することがあまりないため、政治的諸問題への関心に大きな格差があり、行動力のある奇特な個性的人物が出現する反面、大半は活動家スピリッツの人がないのが実情です。

 若者は社会変革を担う活動家ではなく、新たな経済的・文化的行動をする消費者として扱われるのが常です。日本では、機会費用の奇妙な言い換えである「タイパ」と略される「タイムパフォーマンス」を代表にあなた方の消費行動ばかりがメディアで取り上げられがちです。 

 例えば、『朝日新聞デジタル』2022年12月6日5時00分配信「Z世代の男性向け化粧品 花王」は次のように伝えています。

 花王は、10~20代の「Z世代」の男性をターゲットにした新化粧品ブランド「アンリクス」を立ち上げた。同社の調査によると、化粧品を購入する男性は年々増加傾向にあり、特にZ世代の伸長が目立つ。男性の肌によくみられる赤みやひげなどをカバーする4色のメイクアップベースと化粧水を発売した。メイクアップベースは税込み3080円。化粧水は本体が同3080円、詰め替え用は同2640円。

 もっとも、流行はロジスティック曲線をたどるものですから、大手メディアが取り上げる頃にはもう若者の間では廃れていることでしょう。「『タイパ』・まだ、そんなこと言ってんの?」と別のことに気が向いているものです。

 ニューメキシコ大学のエベレット・ロジャーズ(Everett Rogers)は、『イノベーションの普及(Diffusion of Innovations)』において、イノベーションについて「個人または他の採用単位によって新しいと知覚されたアイデアや習慣、対象物である」と言っています。さらに、その普及過程は一定の速度で進み、S字型カーブを示すと主張します。当初の受容は少数ですが、時間経過と共に急激に大きくなり、ある時点をすぎるとまた小さくなり、最後には平らになるのです。次の採用者カテゴリーを参照すると、それがロジスティク曲線だとわかります。

革新的採用者(Innovators)
2.5%
初期少数採用者(Early Adopters)
13.5%
前期多数採用者(Early Majority)
34%
後期多数採用者(Late Majority)
34%
採用遅滞者(Laggards)
16%

 ロジスティック曲線は形状がS字型で、変曲点を中心に左右対象という特徴があります。前者三つと後者二つが同じ比率であり、変曲点を中心に左右対称をなしています。この比率をグラフにすれば、その形はまさにロジスティック曲線です。

 戦後、特に80年代以降は若者が消費文化を開拓しています。彼らにとっての流行は「革新的採用者」や「初期少数採用者」の段階です。他方、大手メディアが取り上げる時期は「前期多数採用者」から「後期多数採用者」に至る頃でしょう。報道は現象が社会的になった時点で扱うものですから、そうならざるを得ません。そこから流行が定着するか、衰退するかが決まります。年齢の高い層が受け入れた時、流行は常識になるのです。

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