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コミティアで

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Cafe本音の光

Cafe本音の光


本文

「守田、チューしたい」
喫茶店のソファーに座るメイド服姿の金髪碧眼の少女に睨まれながら、守田亘(もりたわたる)は悩んでいた。
「誅(ちゅう)したい?」
守田は読んでいた時代劇小説を閉じ、表紙を目の前の少女に見せた。
「誅殺(ちゅうさつ)じゃないよ」
「チュウってあのチュウか?」
「そう、接吻、キス、とか色々言い方あるけど物理的に他人と自分の唇を重ね合わせるヤツ」
そう言いながら、女の子は

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さわだコミティア20年反省文「10万字の壁のあとさき」

さわだコミティア20年反省文「10万字の壁のあとさき」

かれこれコミティアに出るようになって20年ですが小説・・・のようなものを書いていますが、未だに自分の作品を冷静になって読み直すということが自分にはできなくて、これは「反省」しなければいけないと思って書き始めたのがこの文章です。

本題に戻りますが他の人はどうか分からないけど、僕は自分の作品があまり好きではない、というか嫌いだ。

嫌いというのは本当に感情的な部分の事で、例えるならば「野菜が嫌い」と

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釣れた女の子とこのリバー

釣れた女の子とこのリバー


本文夏の残暑が想像以上に長引いて暖かい日が続いていたのに、数週間たつともうコートを着ていた。

何だが秋が短くて急に冬に放り込まれたので忙しなく流されるままになっているようで嫌な感じがする。

「流されてるなあ」

川を見ながら高校生の高橋みなみ(たかはしみなみ)は溜め息をついた。

昨日母親と久しぶりに口論をした。

理由は忘れたが二人しかいないのだから家事の分担とかの話からなぜかみなみの進学

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喫茶室ルノアールで契約書を結ぶ青春

喫茶室ルノアールで契約書を結ぶ青春


本文

夕方近くの放課後に訪れたのは、学校近くの駅にある雑居ビル二階の喫茶店だった。
お店の名前は「喫茶室ルノアール」と書いてあり、都内の大きな駅の近くではよく見る白地に黒い文字の看板が目に付く事があったが、入るのは初めてだった。
ふとカフェと喫茶室の違いはなんだろうかと高校生の中神立隆晃(なかかんだたかあき)は店内を見渡す。
古い欧風とでも呼べば良いのか、白い壁紙と古風な木枠を組み合わせて構成

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無職、無職、無職!

無職、無職、無職!


本文

四月に入り天気の良い日が続いて朝の肌寒さに上着を着るが、昼は暑くて上着を脱ぐ朝夕の寒暖差がある季節。
県境の大きな川沿いの何もない河川敷、川から土手までは広々と雑草と少し土が剥き出しになった場所があって野球グランドには少し狭く、サッカーグラウンドの横幅には広いぐらいの中途半端な空間があった。
少し急な土手からコンクリートで作られた階段を川沿いに降りたところにはひとつだけベンチがあって、シ

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書くことが無いのに文芸部、遠くに咲く花近くに居る君に見えた。

書くことが無いのに文芸部、遠くに咲く花近くに居る君に見えた。

本文

都外にある高校校舎の一角には小さな部室が並んでいて、廊下には部室を使っている部の名前が扉毎に紙に書いてある。そのひとつに少し黄ばんだ紙に文芸部と書かれた部室があった。
部室の中は縦に広い準備室のような部屋になって真ん中に机が置かれていて、壁の周りには掃除用具を入れるロッカーや扉のない荷物を置くスチール棚に本やダンボールが無造作に積まれていた。
そんな教室の真ん中に細長い折りたたみテーブルを

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1年前の五月コミティアを思い出してみた。

1年前の五月コミティアを思い出してみた。



今日は本来132回目のコミティアがあったのですが、無いので虚無ってるのですが、そういえばなんか1年前のコミティアは自分にとっても凄く面白かったことを急に思い出したので、まとめてみることにする。

一年前のコミティアはいつものようにサークル参加してたけど、まあそれは置いておいて、コミティアの会場で出会った楽しい本探しの事を振り返る。(だいたい一回のコミティアでTOP写真ぐらいの本を買ってます)

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キャンピング・デッド

キャンピング・デッド

あらすじ今年高校生になった小田松美来(おだまつみらい)はテレビで見たキャンプに興味を引かれて、たったひとりでキャンプをしに埼玉県の山奥まで来た、そこには妙に強面のノーマン・リダース似のベテランソロキャンパーの野々村典夫(ののむらのりを)が居た。野々村の事を「ノーさん」っと呼びながら美来は今日もキャンプの基本の火起こしのやり方を教わるが、同じく初心者のマッツ・ミケルセンに似てる中年紳士の松田さんも加

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嫉妬虚無

嫉妬虚無

1.今時珍しい着流しの和装を身にまとった長身の男とヨレたTシャツを着ている男が都内のまだ古い建物と新しいマンションが交互に立ち並ぶ住宅街を二人で並んで歩いていた。
着流しの男は痩身ではあるが肩幅もしっかりして、彫りの深い顔と知性を感じる眼鏡、櫛を通してない少しだけ癖のある髪型が何だか教科書や映画で見たことある明治・大正の文豪の様な印象を見る人に与えていて、その隣の男はまだ中学生かと思うくらい童顔で

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コミティアで15年間毎回本を作って、この前電子書籍を初めて作ってみた話

コミティアが好きです。

好きで15年間サークル参加を一度も欠かすことなく通ってます。

僕はドイスボランチという名前のサークルで文芸ジャンルで毎回コピー本でもいいから新刊を出すという呪いみたいなものを自らに課し、今では「コミティアの地縛霊」みたいなサークルをやっています。

僕が長くコミティアにサークル参加できているのも、いつも僕のスペースで売り子してくれているイケダ君のおかげで、彼は文句も言わ

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サッカーを両手で扱う女子高生と ズラタン・イブラヒモビッチみたいな女子高生

都内の古い典型的な賃貸マンションの子供部屋、白い壁紙に仕切られた狭い部屋にはシングルベットと勉強机、片隅には狭い部屋相応の三十インチほどの液晶テレビが壁の棚に一つあった。
人によっては殺風景と思うような部屋だが、これが女子高生の部屋だと思うとさらに殺風景な部屋だと思う無機質な部屋。
そんな無個性な部屋の持ち主は床に置いた小さな青いテーブルの上に銀色のノートパソコンを置いて壁際の液晶テレビを覗き込ん

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