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メイクの魔法にかけられたかぼちゃのお菓子 〈菓子四季録 vol.6〉

菓子四季録では、菓子研究家 福田淳子先生と一緒にお菓子のレシピをご紹介しています。ひとつのお菓子の魅力を、ふたりそれぞれの視点から綴る菓子四季録のマガジンページはこちら。今回紹介するお菓子は、こっくりまろやかな秋を味わう「パンプキンプディング」。

メイクアップ、つまりお化粧。メイクの魔法にかかったかぼちゃを食べたことがありますか。

かぼちゃという食べもの。それは「甘い」「ほくほく」という言葉だったり「まったり」「まろやか」という言葉だったり、時に「もったり」「のっぺり」という言葉で語られる食べもの。そのほとんどが「素朴」寄りのイメージで、かぼちゃに「スタイリッシュ」「おしゃれ」という言葉を使うことはあまりないように思う。

そんな素朴なかぼちゃは、メイクをすると別人に変わる。がらりと変わる。

今月レシピを紹介するお菓子は「パンプキンプディング」であり、食べものの種類としてはその名の通り「かぼちゃプリン」なのだが、このレシピはかぼちゃプリンではなく、パンプキンプディングと呼ぶに相応しい味なのであった。

なぜ、そのような印象が生まれているのか。その答えが、冒頭の話に戻るのだが〈かぼちゃがメイクをしている〉という理由である。メイクのポイントとなる食材が「黒糖」「シナモン」「ラム酒」「カラメルソース」。あのかぼちゃが、きりっとした表情をしている。異国の香りと、ミステリアスさを感じる。

かぼちゃの魅力を引き出しているメイクを説明しよう。

ベースメイクはシンプルに。卵、牛乳、グラニュー糖という定番アイテムで、肌を整える。甘いバニラで、ほんの少しだけ可愛らしいチークを入れる。ここまでは一般的な「かぼちゃプリン」と一緒。大らかで、にこにことした自然体のかぼちゃ。

でも今回のパンプキンプディングのメイクは、きりっとした強さが加わる。
黒糖のアイラインを細く、けれどしっかり引いて目元を目立たせる。そこにシナモンパウダーのアイシャドウ。透明感溢れる夏色とは反対に少し黄みがかった薄茶の秋色は、季節がたしかに変わったことを知らせる。かぼちゃは、甘くまったりしがちだけれど、甘いながらもスパイシーな香りのするシナモンが抜群の相性で瞼にメリハリを、立体感を出してくれる。
バターのヘアオイルで髪はしっとりさせ、ラム酒の香水もふわりと身にまとう。すれ違った人が「何か違う」とわずかに感じるように。黒糖とシナモン、ラム酒によって、プディング全体は卵とかぼちゃの鮮やかな黄色から、熟したように少し暗めで、黄みがかった橙色に変化する。そして最後の仕上げは、深みのあるダークな色合いで艶々と光を反射する、カラメルソースのリップグロス。

ポイントメイク(香水も入れさせてもらう)をおさらいしよう。
【黒糖】後味のくっきり感
【シナモン】味わいの立体感
【ラム酒】ミステリアスさ
【カラメルソース】ほろ苦さ、目を奪われるような最後の仕上げ

想像していただけただろうか。いつものかぼちゃと違うのだ。まったりとした上白糖とほんのちょっぴりのお醤油でほくほくと仕上がった煮物のかぼちゃとは違う。ただ、いつもとは違うけれど、間違いなく彼女はかぼちゃである。メイクをして少しきりっとした表情をしていても、にこっと笑った時にはいつもの大らかさと自然体な空気(=まろやかな味わいと、かぼちゃならではの甘さ)が残っている。かぼちゃらしいけれど、かぼちゃらしくない。ミステリアスな空気がある。メイクはこれほどまでに人(食材)の魅力を引き出すのか。

(ちなみに調理の際のポイントになるが、上記の通りカラメルソースの役割は「甘みづけ」ではなく「ほろ苦さ」なので、香ばしい香りがしてしっかりと濃い焦げ茶色になるまで鍋で焦がすことを忘れずに。)

美味しい食材は、そのまま食して美味しい。特に旬の食材は、時の流れを閉じ込めてぎゅっと結晶にしたような味わいで口いっぱいに季節を運んできてくれる。季節をストレートに感じられるので、そのまま、もしくはシンプルな調理法で食材を味わう行為がわたしは好きだ。

でも、食材には、他の食材でメイクをしたり着飾ったりしないと見られない一面がある。予想外の姿がそこにはある。これだから、新しいレシピを知りたいという気持ちはなくならない。

これから先も、食材のどんな一面に出会っていけるだろう。

余談:ラム酒と黒糖について

この組み合わせを口にするたびに生まれる「ラム酒と黒糖って、とにかくよく合うようなぁ…」という感想について、最近知ったことがある。

ラム酒はさとうきびの搾り汁から結晶化する部分、いわゆる砂糖になる部分を取り除いた「糖蜜」をアルコール発酵させてできたお酒であり(さとうきびの搾り汁をそのまま原料にする場合もある)、黒糖はさとうきびの搾り汁を精製せずに煮詰めたものであるということ。つまり精製された砂糖と異なり黒糖には、ラム酒の原料である「糖蜜」が含まれている。糖蜜という共通点。ラム酒と黒糖の組み合わせは、再会の味だった。合わないわけがなかったのだ。

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秋色メイクをしたかぼちゃだけでなく、ラム酒と黒糖の相性にも注目しながら召し上がってほしいデザートです。どうぞお試しください。


パンプキンプディング

秋。天高く馬肥ゆる季節。さつまいもも、栗も、美味しい季節。もちろんかぼちゃも外せない。ハロウィンの季節でもあるということで、かぼちゃのお菓子はいかがでしょう。ココットで焼成するとカット不要で盛り付け簡単、だけど素敵に仕上がります。ほろ苦いカラメルソースをたっぷりかけて召し上がれ。

材料

作り方

詳しい作り方やポイントは
淳子先生の解説をご覧ください

作り方(全文)

下準備:オーブンを160度に予熱する(天板も一緒に)。
1.
かぼちゃを一口大に切ってラップに包み、竹串がすっと刺さるまで電子レンジで2〜3分加熱する。

2.1のかぼちゃと牛乳、黒糖、グラニュー糖をミキサーやフードプロセッサーにかけてピュレ状にする。

3.ボウルに卵と卵黄を入れて溶きほぐし、溶かしたバター、ラム酒、バニラ、シナモンを加えてよく混ぜる。を加えてさらに混ぜ、裏ごしする。

4.3の生地をココットに注ぎ入れ、バットに並べる。160度に予熱したオーブンに入れ、湯をバットに高さ2cmほど注ぎ、30分ほど湯煎焼きにする。粗熱が取れたら冷蔵庫で冷やす。

*湯を注いだバットを移動させるのは危険なので、湯を注ぐのは天板にバットをセットしてから行うこと。

5.カラメルソースを作る。鍋にグラニュー糖と水を入れて混ぜ、中火にかける。鍋を左右に傾けながら、グラニュー糖を溶かす。

*火にかけはじめたら、グラニュー糖が色づくまではヘラで混ぜないこと。

6.そのままさらに煮詰める。しっかりと焦げ茶色まで色づき、煙が出て香ばしい香りがするまで加熱したら火を止めてひと呼吸おき、湯をヘラに伝わせながら加え、よく混ぜる。粗熱が取れたら冷蔵庫で冷やす。 

*湯を加えるときは跳ねるので注意。

7.食べる直前にのカラメルソースをかける。


菓子研究家 福田淳子先生のレシピ解説はこちらです。作り方や材料のポイントが掲載されています。
今回のレシピでかぼちゃの魅力を引き出してくれたメイクアップアーティストである淳子先生。記事ではカラメルソースについて盛りだくさんの解説がされており、カラメルソース作りを難しいと感じたことがある方は必見です。そして、キーワードは「お砂糖とスパイス」。先生がパンプキンプディングを食べながら思い浮かべた一節があるのです。甘いだけじゃつまらない、という言葉が綴られた記事を、どうぞお楽しみください。

パンプキンプディングの菓子四季録、おしまい。

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