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春の空気みたいに軽やかな苺のお菓子 〈菓子四季録 vol.11〉

可愛くて、軽やかで、春にぴったり。そんなお菓子のこと。

菓子四季録では、菓子研究家 福田淳子先生と一緒にお菓子のレシピをご紹介しています。ひとつのお菓子の魅力を、ふたりそれぞれの視点から綴る菓子四季録のマガジンページはこちら。今回紹介するお菓子は、軽やかな口どけを味わう「苺とミルキークリームのブッセ」。

今月の菓子四季録でレシピをご紹介するのは「苺とミルキークリームのブッセ」。ブッセというお菓子は、丸い形のビスキュイ生地でクリームやジャムなどをサンドしたお菓子だ。洋風のどら焼きだと想像していただくと見た目がわかりやすいと思う。

フランス菓子のように見えるブッセだが、発祥地はフランスではなく日本ということなので(生み出したお店や菓子職人の公式な記録には辿り着けなかった)、洋菓子ではなく和菓子に分類されることもあるらしい。今回レシピを紹介する「苺とミルキークリームのブッセ」では、カットした苺と練乳風味の生クリームをサンドしている。

苺とミルキークリームのブッセの魅力

わたしが思うこのお菓子の魅力は3つある。可愛さ、軽やかさ、春らしさだ。

〈可愛さ〉
「お菓子というものは全て可愛いのでは」と思った方がいれば、わたしも大きく同意です。それは大前提として、このお菓子は、なお可愛い。ころんと転がるような丸いフォルムだし、絞り出しで生まれた小さなツノがおちゃめだし、苺が生地の隙間から愛らしくこちらを覗いている。

星口金で絞った白いクリームはレースのドレスみたいで、表面の粉砂糖は粉雪のように儚げに、ふわふわした雰囲気をさらに際立たせている。苺の赤とクリームの白の組み合わせの相性は言うまでもない。

〈軽やかさ〉
ビスキュイ生地は空気をたっぷり含んで軽やかだから、口の中で「ほあっ」「ふしゅう」と消えていく。甘い綿菓子を食べているみたい。

洋酒を使っていないところも、軽やかさのひとつ。このブッセから感じられるのは、洋酒の奥ゆかしい香りではなく、卵やお砂糖、生クリームや苺のストレートな味。まっすぐ。素直。ふわふわを生み出している卵の味は、ブッセの形みたいにまぁるくて、誰に対してもやさしい。

〈春らしさ〉
春。それは冬眠から目覚める季節。長かった凍てつく寒さから解放され、重い瞼を開いて外に出ていくとき。洋服は薄着をしたくなる。色はもちろん、明るい色で。そんな気分にビスキュイ生地はぴったり。ふわふわなビスキュイ生地は薄手のトレンチコートみたいなやさしいベージュ色をしているし、とっても軽いから。

それから、春の苺。この季節の苺で作るブッセは格別。春の苺は、冬の苺よりも甘い香りを放っている気がする。冬の苺が寒い季節の中で凛と輝くロマンティックな苺だとすると、春の苺はあたたかな陽の光に照らされてぴかぴかと笑っている苺だ。満面の笑顔。苺はカットしてからサンドされているので、自身から出た水分で、マリネされたようにみずみずしい。

苺と生クリームを使ったお菓子であることは同じだけどショートケーキと異なり、手で食べられる点もブッセの春らしさのひとつ! 手で食べられることはピクニックを想い起こさせる。芝生にレジャーシートを敷いて、太陽の下で食べたい。そんな気持ちにさせてくれるお菓子だ。

わたしは、両手でふわっとブッセを割る瞬間が大好き。クリームがこぼれないように慎重にブッセを割るとき、ほあほあ感を体で感じることができるから好きなのだ(手で食べられると言っても慌てると粉砂糖をこぼしてしまうし、がぶりとバーガーのようにかぶりつくと生クリームがこぼれて洋服が大変なことになるので注意です)。

春とブッセ

何度も書いたように苺とミルキークリームのブッセは「軽やかさ」が魅力なので、完成したブッセは、ぱくぱくとあっという間に食べられてしまう。そして、軽やかさゆえ、食べ終わったばかりなのにまた食べたいなぁという気持ちになる。ふわぁとやってきて、あっという間にいなくなって、名残惜しく感じるのは桜みたいだなと思った。

可愛くて、軽やかで、春を味わうお菓子。毎年この季節に作りたい、大好きな味になった。


苺とミルキークリームのブッセ

春。ぴかぴかな苺がお店に並ぶ季節。この季節の空気みたいに軽やかなブッセを作ってみるのはいかがでしょう。道具としては口金が必要になりますが、特別な材料は必要ありません。苺がとっても美味しくて、ピクニックに出かけたくなる春の季節に、ぜひ試してみてくださいね。

材料

作り方

詳しい作り方やポイントは
淳子先生の解説をご覧ください

作り方(全文)

下準備:卵を冷蔵庫で冷やし、使う直前に卵黄と卵白に分ける。薄力粉をふるう。オーブンを180度に予熱する。天板にオーブンペーパーを敷く。丸口金と星口金をつけた絞り袋を用意する。

〈ブッセを焼く〉
1. ボウルに卵黄とグラニュー糖の半量を入れ、白っぽくふわっとするまでハンドミキサーで泡立てる。

2. 別のボウルに卵白を入れ、ハンドミキサーで泡立てる。やわらかい角が立ったら、残り(半量)のグラニュー糖を2回に分けて加え、しっかりした(ピンとした角だが、ほんの少しお辞儀するくらいの)メレンゲを作る。

3. 1の生地にメレンゲの1/3量を加え、泡立て器でムラなく混ぜ合わせる。残りのメレンゲを2回に分けて加え、その都度泡立て器でムラがなくなるまで混ぜる。

4. 牛乳を加えてなめらかになるまで泡立て器で混ぜる。

5. 薄力粉の半量をふるい入れ、ゴムベラで切るように混ぜる。粉が見えなくなったら残り(半量)の薄力粉を同じように加えて混ぜる。

6. 丸口金をつけた絞り袋にの生地を詰め、オーブンペーパーに5.5cmの円形を16個絞り出す。
*少し膨らむので、生地と生地は間隔を空けて絞りましょう。
*天板と同じ大きさの用紙に5.5cmの円を書き、オーブンペーパーの下に敷いて絞り出すとサイズが揃いやすいです。焼く前に、この紙はそっと外します。

7. 粉砂糖を茶こしでふりかけ、180度に予熱したオーブンで13〜15分焼く。

8. 焼けたらオーブンペーパーごとケーキクーラーの上に置いて冷ます。冷めたらオーブンペーパーから生地を外す。
*カードやナイフを使うと生地をはがしやすいです。
*サイズにばらつきがある場合、似たサイズ同士でペアを作っておくとクリームを挟みやすくなります。

〈フィリングを作る〉
9.ボウルに生クリームを入れ、ボウルの底を氷で冷やしながら八分立てにする。練乳を加えて泡立て、再度八分立てにする。星口金をつけた絞り袋に詰める。

10.苺を約7mm角に切る。

〈仕上げる〉
11.ペアのうち片方のブッセの外周にクリームを丸く絞る。苺をのせて、その上から中央にクリームを絞る。もう片方のブッセをかぶせて上から軽くおさえる。仕上げに粉砂糖をふりかける。

作ってみて感じたポイント(備忘録)

作業自体に難しい部分はないけれど、ワンボウルで出来上がるお菓子と違って工程の数や必要な道具が多いことは事実です。でも、出来立てのブッセを食べられるのは家でお菓子をするからこそ! ぜひ試してみてほしいです。ふわふわブッセが売られているのはなかなか見かけません。

実際に調理をしてみて特に重要だと思ったポイントは「道具と材料の準備」と「苺をカットするサイズ」。

生地を上手に焼き上げるには、ふわふわに泡立てたメレンゲが潰れないうちに素早くオーブンに入れることが肝心なので、作業をしながら「冷蔵庫から牛乳を出さなきゃ(ごそごそ)」「ゴムベラはどこだ?」「絞り出し袋が見つからない…」と悩んでいる時間がないのです。シミュレーションが大切。お菓子作りはどんなメニューでも準備が大切ですが、ブッセにおいても非常に大事だと思います。

そしてブッセ初心者の方は、ぜひ「ガイドシート」を作ってチャレンジしてほしいです。これは、ブッセの生地をオーブンシートに絞り出す時にガイドとするために5.5cmの円を書いた紙のことで、オーブンシートの下に敷いて使います。

ガイドシートには16個の円を書いておく必要がありますが、わたしは誤って8個の円を書いていたので絞り出し直前に大慌てすることになりました(材料に「ブッセ8個分」という記載があるので、8という数字に意識が引っ張られました)。生地2つがサンド上下のパーツになり1つのブッセが出来上がるので、必要な絞り出し数は8×2=16個です。

苺をカットするサイズについては、レシピに記載されている「7mm」が絶妙なサイズなので、ぜひ気にかけてみてください。わたしは勢いでカットしたところ、少し大きめのカットになってしまい、サイズ違いで食べ比べてみて、いかに7mmというサイズがちょうどいいのかということがよくわかりました。7mmは、苺の食感は十分に感じられ、だけど口の中でクリームと調和するのにぴったりなサイズなのです。

作り方のポイントをご紹介したものの、それでも作るのは大変という方は、淳子先生の記事にブッセの写真がたくさんあるので、目で味わってみていただけたら嬉しいです。


菓子研究家 福田淳子先生のレシピ解説はこちらです。レシピのこだわりや、作り方や材料のポイントが掲載されています。

淳子先生の記事を読んだら、ブッセの写真すべてがタイトルの通り「軽やかなダンス」に見えるようになりました。タイトルを感じながら、まずはブッセを目で味わってみてください。クリームの配合や絞り方、苺のサイズなど、レシピに詰まったこだわりを読みながら眺めているうちに、食べたくなること間違いなしのキュートさです。

苺のブッセの菓子四季録、おしまい。

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