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パパがスカートをはき、ステップママは坊主頭

"Eddie får en hund" af Tess Natanelsson, Sarah Vegna. IDUS förlag 2016 Sverige. 「エディ、いぬをかう」テス・ナタネルソン作、サラ・ヴェグナ絵 スウェーデン 絵本

久しぶりにうーんと唸った。このシリーズの一作目「エディ、お仕事についていく」は以前紹介し、パパと主人公エディの見た目についても少し触れた。そしてこの二作目。まず1ページ目を開けて、しばらく考えてしまった。

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パパはロングスカートをはいている(ここではわかりにくいけれど、後半のイラストからスカートであることがわかる)。そしてNoaという名前で紹介されているもう一人の大人、こちらは、ステップマザー、つまりパパの新しいパートナー(女性)ということらしい。

ストーリーは、エディが新しく「いぬ」を飼い始めたお話。大人は猫だよと言うけれど、エディは、大人は何をいってるんだか、とあきれている。そして、「いぬ」に芸を教えたり一緒に遊んだりする。パパが「犬は外を散歩するのが好きだから、連れて行ったら?」と提案し、エディは「いぬ」を散歩に連れ出すものの「いぬ」はあまり乗り気ではない。そのうち雨が降ってきて、エディたちは家の中へ入る。ノアが「いぬは散歩、よろこんでた?」と尋ねると、エディが「いぬじゃないよ、ねこだよ!」と答えるところでお話は終わる。

犬か猫かはまたあとで触れるとして、正直、この絵本ではまず大人二人の見た目に圧倒される。スウェーデンの新聞記事を見ると、このステップマザーの様子は、この作品のイラストレーター、サラ・ヴェグナと同じなのだとか。彼女は髪を剃って坊主頭で、体中刺青だらけなので、自分の子どもの友達が遊びに来た時、よく自分は母親なのか父親なのかと尋ねられることが多かったという。そういう時、彼女は、自分の見た目がきっかけとなって、他者の見た目やイメージについて自然と子どもと話せる機会が得られるのだなと感じたのだという。

お話自体も、固定観念に縛られないで、自分の信念を貫くというテーマが、大人二人の容姿とも共通してあり、猫を犬と言い張る主人公エディに対し、大人二人は自分の意見は言うものの、エディを正論で追い詰めない。正論はこのお話では意味をなさない。エディの思うことがエディにとっては重要で、正しいのだ。それをエディは確信している。そしてそれは大人たちの容姿にもあらわれている。この絵本では、家族の姿自体は物語りの焦点ではないが、テーマとして、多様性と、それを受け入れる寛容さを扱っているのがわかる。

スウェーデンは北欧の中でも特に、ジェンダーや人権を扱う部分がとても進んでいるなと感じる。この作品の作者たちが、家族の多様性を扱いたかったと述べているが、その点で言えば、デンマークも世界で初めて同性パートナー制度が1989年に認められた国(同性婚が可能になったのは2012年から)で、児童文学においても家族の多様性への関心は高い。離婚、再婚家庭だけでなく、同性夫婦が子どもを養子縁組したり、女性同士であれば一人がドナーを受けて妊娠し、夫婦で子どもを育てるという内容の絵本もある(また改めて紹介します)。また図書館の検索システムで、家族の多様性をテーマとした絵本を探していると、"Regnbuefamilier"(虹色家族、同性の親とその子どもたちで成る家族)というキーワードも出てくる。北欧の家族のあり方は多様性を極めているが、それを道徳的に子どもに教えるというかたちをとらず、さらりと、絵本に、ありふれた物語りの背景として反映しているのは良いなと思う。

 "Här är boken som utmanar normen" Expressen Kvällsposten, 20.08.2016.

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