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ソニー・ロリンズ『サキソフォン・コロッサス』 

ジャズの入門盤で名盤、ファンの愛聴盤がソニー・ロリンズ『サキソフォン・コロッサス』です。1956年6月22日に録音。演奏メンバーは、テナー・サックスがリーダーのソニー・ロリンズ、ピアノはトミー・フラナガン、ベースはダグ・ワトキンス、ドラムはマックス・ローチです。

レコード基準で5曲収録。曲順は①セント・トーマス、②ユー・ドント・ノウ・ホワット・ラブ・イズ、③ストロード・ロード、④モリタート、⑤ブルー・セブンです。

このうちロリンズ作曲の作品は、①セント・トーマス、③ストロード・ロード、⑤ブルー・セブンの3曲です。

『サキソフォン・コロッサス』からこの1曲「セント・トーマス」

セント・トーマスは『サキソフォン・コロッサス』の特徴を表している一曲と感じます。

曲の構造はテーマが2回、そのあいだに各ソロが入ります。どう演奏しているかと言えば、冒頭よりハイハット・シンバルで「チ・チ・チ・チ」とアフター・4ビートと併奏するようにフロアタムやタム・タムで「ドン・チャラララ」と異国風のパーカシップなリズムが刻まれます。パーカッシブなリズムの違和感はセロニアス・モンクがテナー・サックスの伴奏している時に出す感じに似てる気がします。

どちらの音色にのってテーマが演奏されるのかと耳をすますと、パーカッシブなリズムが引いた瞬間にテナー・サックスが試し吹きのようにテーマを演奏し、ベースとピアノが合奏していきます。

テーマ合奏後はテナー・サックスがソロを弾きます。ドラムはハイハットのアフター・4ビートを続けながら、ざわめくようなパーカッシブなドラミングで伴奏します。

テナー・サックスのソロの後にドラムがソロを引き継ぎます。パーカッション的な叩き込みからはじまりしだいに異国風の音色から異国感が無くなり、ジャズ風のドラムソロへと変奏されていき、ジャズのリズムに回帰したタイミングでテナー・サックスのソロがはじまります。

2回目のテナー・サックスのソロの伴奏のリズムは異国風のニュアンスが消えています。いたって4ビートです。ライドシンバルと思われる「チーン・チキ・チーン・チキ」のリズムが伴奏します。テナー・サックスのソロの後はドラムではなく、ピアノです。ドラムもベースもひたすらバッキングに努める。ザ・ピアノなトリオな演奏です。
最後のテーマ合奏は冒頭のパーカッシブな叩きは退き、アフター4ビートで曲は終わりますが、最初と最後のテーマのリズムが異なります。

謎なアルバム『サキソフォン・コロッサス』

演奏形態はジャズ・セッションで言うところのテナー・サックスのみのワン・ホーン・スタイルです。どうしてソニー・ロリンズはワン・ホーンスタイルを選んで録音したのだろうか。『サキソフォン・コロッサス』を聞くたび疑問に感じます。

同年の1956年5月にもワン・ホーン・スタイルのアルバム『テナー・マッドネス』(プレスティッジ)を制作しているが、そこでの音楽的不足があったから再チャレンジを目指したのだろうか。

であれば同じメンバーのリズムセクションを使えば良いのに『サキソフォン・コロッサス』は『テナー・マドネス』とは違うメンバー。

ミュージシャン仲間がたくさんいたはずで、トランペットに限ってもマイルス・デイビスやクリフォード ・ブラウンにセッション参加を頼めただろうに。

選択肢はある。でもどうしてワン・ホーンなのか。

ソニー・ロリンズのワン・ホーンにこだわる理由を想像しながら収録曲を聞いていると、メロディとリズムを軸とした音づくりを目指したから、という気がします。

音楽は3つの要素から成り立つと言います。メロディ、リズム、ハーモニーです。ジャズ・セッションでワン・ホーンの演奏形態を選ぶと3つの要素のバランスはどうなるか。

ハーモニーの豊さを失うことになります。ワン・ホーンであればトランペット、アルト・サックス、トロンボーン、どの楽器とであれホーン・セクションを形作ることができず音の厚みや重なりがなくなります。

ハーモニーの補助を与えてくれるのがベースとピアノになります。ベースはコードを示し、ピアノはテナー・サックスのように一度に一音しか出せない楽器のためにハーモニーを提供する。その一方でベースもピアノもドラムと一体となるリズム・セクションです。

ハーモニーを損ねてもというかハーモニーはそこそこに、メロディとリズムを重視した音楽を作っていくことになります。

メロディは繰り返しを少なく飽きさせず、リズムはワンパターンにならず。聞く者にハーモニーの存在を忘れさせ、ハミングを誘い、足でリズムをとれる音楽。軽やかだけれども地面をタップする力強いサウンド

入門盤・名盤・愛聴盤の3つの重なり

ソニー・ロリンズ『サキソフォン・コロッサス』以外にもモダンジャズの入門盤で名盤で愛聴盤の3つのキーワードが重なるアルバムはあります。2枚だけあげよと言われるとマイルス・デイビス『カインド・オブ・ブルー』やビル・エヴァンス『ワルツ・フォー・デビイ』だと思います。

たしかにそうなんですが、『カインド・オブ・ブルー』はモダンジャズの枠を大きく広げたアルバム。『ワルツ・フォー・デビイ』はピアノトリオのベースはウォーキングベースである必要がないことを示した。これも枠を広げたアルバムです。『サキソフォン・コロッサス』はメロディとリズムで良質なジャズが出来ることを示したアルバムです。

どうやらですが、入門盤・名盤・愛聴盤と括られるアルバムはジャズの枠をはみ出していくものという気がしています。

ソニー・ロリンズ『サキソフォン・コロッサス』

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