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『ソニー・ロリンズ ボリューム・ワン』 ソニー・ロリンズ

リーダーアルバムのうちトランペット奏者との共演が最後となり、変化の兆しが見えるアルバムが『ソニー・ロリンズ ボリューム・ワン』(ブルーノート)です。いったん1959年の二回目引退前基準です。

ソニー・ロリンズは1956年12月7日(『ツアー・デ・フォース』基準)の録音を終えてプレスティッジとの契約満了を迎える。契約更新はせず以後、ブルーノート、コンテンポラリー、リバーサイド、ピリオド、ヴァーブ、メトロジャズ、アトランティック、などのレーベルに吹き込みを残します。

■ブルーノートの第1作

まず最初に吹き込んだリーダーアルバムはブルーノートで『ソニー・ロリンズ  ボリューム・ワン』です。トランペットはドナルド・バード、ピアノはウィントン・ケリー、ベースはジーン・ラミー、ドラムは盟友のマックス・ローチを配したクインテット編成で録音は1956年12月16日です。

プロデューサーはアルフレッド・ライオン、録音技師はルディ・ヴァン・ゲルダーです。

■小話をひとつ

当時はそういう時代で当たり前、変なことではなかったのかもしれませんが、その2日前の12月14日はプレスティッジ所属のアルトサックス奏者のジャッキー・マクリーンの吹き込みがありました。

その日の収録曲はアルバム『マクリーンズ・シーン』(ニュージャズ。ニュージャズはプレスティッジのサブレーベル)に収められます。

そのリズム隊であった、レッド・ガーランド(ピアノ)、ポール・チェンバース(ベース)、アート・テイラー(ドラム)らも同じ日にガーランドをリーダーとして録音を残している(これはアルバム『レッド・ガーランズ・ピアノ』(プレスティッジ)としてリリースされる)。

奏者、バンド編成と曲とプロデューサーが違うだけでヴァン・ゲルダーのもとに途切れることなくジャズメン達がレコーディングに訪れています。ジャズあるあるですが、ちょっと不思議な感じがします。

■『ソニー・ロリンズ ボリューム・ワン』

ところで『ソニー・ロリンズ ボリューム・ワン』ですが収録曲は、①「デシジョン」②「ブルースノート」③「グロカ・モラを思う」④「プレイン・ジェーン」⑤「ソニースフィア」です。

「グロカ」はスタンダードナンバーで、それ以外がソニー・ロリンズが作曲したオリジナルナンバーです。

レコード基準でまとめるとA面収録は①と②と③。B面は④と⑤です。両面はサウンドが違う、「別物」という聴後感があります。

とは言えピアノのウィントン・ケリーはマイルス・デイヴィスが言うように「どんなスタイルでもこなせた」(マイルス・デイビス『自叙伝1』)のでどんな曲でも安定した伴奏を聞かせます。

違うと感じるのはトランペットのドナルド・バードの演奏でアルバムの統一感に影響を与えます。

■A面の世界

A面の曲はテーマ合奏のあとにメンバーがソロを回しあうブローイングセッションです。ドナルド・バードは中音域を長く滑らかにメロディを吹いて、テナーサックスとユニゾンをつける。テンポがミディアムあるいはスローで良さが発揮されます。

「グロカ・モラを思う」(How Are Things in Glocca Morraは曲の始まりを開くトランペットが、続くテナーサックスのサブトーンの霞んだ音色と落差をつけロリンズの演奏を引き立て、終わりではテナーサックスの豊かな吹ききったロングトーンをピアノとともに引き継いで曲を閉めます。ドナルド・バードの良さが際立ちます。

■B面の世界

B面の曲はインタープレイの演奏です。ソニー・ロリンズのテナーサックスは音数が多くなりそれにつれてA面では黙々とリズムを刻んでいたドラムのマックス・ローチもバシャ・バシャと叩き出して体温が上がり演奏はホットになります。

メロディとリズムは曲の終わりくるインタープレイに向かって密度を高め、ソニー・ロリンズがテナーサックスでインタープレイの開始を大きなブロウで呼びかけます。ドライブし応えるのはマックス・ローチで、ドナルド・バードはインタープレイに入りません。ひたすらテナーサックスとドラムのインタープレイの世界です。

■なぜ入らないのか

理由は、おいてきぼりなったのか、演奏的に応じない方が良いのかはわかりません。事情はさておき、吹かないドナルド・バードを繰り返し聞けば聞くほど、6ヶ月前に交通事故で亡くなった天才トランペット奏者のクリフォード・ブラウンの演奏と不在を強く感じます。ブラウンであれば、ここでカットインする、ユニゾンする、と。

もし別テイクがあってドナルド・バードがインタープレイ参加バージョンがあれば、聞き比べを楽しめますが、そのような音源は無いです。
私たちが手にとって「いま聞けるテイク」が何はともあれ当時はベストということだと思います。

■聞き比べインタープレイ

ソニー・ロリンズのアルバム『ソニー・ロリンズ・プラス・フォー』の「ペント・アップ・ハウス」のインタープレイ(約6分45秒あたりから約8分8秒くらいまで)と『ソニー・ロリンズ ボリューム・ワン』の「プレイン・ジェーン」のそれ(約7分5秒あたりから約8分48秒くらいまで)を聞き比べるとわかります。参加しなさの違いを感じます。

『ソニー・ロリンズ・プラス・フォー』の「ペント・アップ・ハウス」

『ソニー・ロリンズ ボリューム・ワン』の「プレイン・ジェーン」


■演奏が違うことが別のサウンドを生む

テーマ合奏のあとにメンバーがソロを回しあうブローイングセッションから生まれるサウンドテーマ合奏とソロ、曲の終わりにくるインタープレイから生まれるサウンド。異なるふたつのサウンドが同居しているのが『ソニー・ロリンズ ボリューム・ワン』です。

ソニー・ロリンズは本アルバムから二回目の引退(1959年)までセッションメンバー変えながら演奏を続けます。レコーディング活動ではテナーサックスとトランペットとドラムとのインタープレイが消えていきます。

・SONNY ROLLINS  Vol.1  BLP1542


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