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餓 王 化身篇

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紀元前十五世紀の古代インド。  このドラビィダ人が農耕と牧畜で生活している大地に、アーリア人が武力を持って侵入している時代。後のインダス川と名前を変えた七大河に戦乱が満ちている。… もっと読む
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記事一覧

餓 王 化身篇 4-5

 聖職者の矜恃がスンタヌを衝き動かしている。  彼は操作盤の上で、操縦桿らしきものを握り…

百舌
1か月前
11

餓 王 化身篇 4-4

 騒ぎが起きていた。  大声で何事かを呼ばう声が満ちていた。  干し煉瓦貼りの床を踏み鳴ら…

百舌
1か月前
16

餓 王 化身篇 4-3

 死地に堕ちている、という。  スンタヌという年端もいかぬ沙門の言だ。  腹立たしくもある…

百舌
1か月前
17

餓 王 化身篇 4-2

 勝機まで忍ぶのは定石だ。  それは将官の務めである。  闇に兵を伏せ、息を潜め、刃を隠す…

百舌
2か月前
8

餓 王 化身篇 4-1

 地を揺らして轟く瀑布を眺めていた。  私は壁面にへばりついてそれを見た。  巻き起こる水…

百舌
2か月前
13

餓 王 化身篇 3-5

 じわりと距離を詰めた。  ばかりか右手を奮って、バドリの首を引き寄せた。  手加減をせね…

百舌
2か月前
12

餓 王 化身篇 3-4

 昏い斜面を歩いていた。  深く、深く地底を這うような隧道だ。  遠くにパーリ語の叫びが響いている。  私を探索している声か、バドリの無事を哀願する声か。その言葉が耳障りなだけで、私は意味を解さない。  逍遥と首を垂れたバドリに、首縄を自ら繋がせそれを右手で持っていた。片腕となったため、右手には重責がかかっていた。  捕縛した獲物を操る傍ら、己の傷を労わる掌だ。  左手の傷口を撫でるが、乾いた肉があるだけだ。  先刻の死闘の際、左手は素っ気なく外れ落ちた。  治癒しかけた傷か

餓 王 化身篇 3-3

 そこからの回廊は異様であった。  首縄を引きバドリの足を止めた。  岩壁、土壁とは違う平…

百舌
2か月前
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餓 王 化身篇 3-2

 首に縄をうたれ、回廊を肩を竦めて渡る。  背後につくのはバドリという雑種身分だ。  左腕…

百舌
2か月前
12

餓 王 化身篇 3-1

 私は虚空に向けて哄笑した。  呼吸音を潜めている影にだ。  先刻より、その天井裏に潜んで…

百舌
2か月前
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餓 王 化身篇 2-7

 見覚えのある女であった。  だがその顔が間延びして、突き出ていた。両目は正面になく、耳…

百舌
3か月前
6

餓 王 化身篇 2-6

 半裸というには理由がある。  彼の下半身は白馬であった。ちょうど臍のあたりからが、白馬…

百舌
3か月前
4

餓 王 化身篇 2-5

 ひっと声があがった。  私の牙が介護僧の喉笛を裂いたからだ。  顎が驚くほど開いた。ひと…

百舌
3か月前
6

餓 王 化身篇 2-4

 幾度その月は満ちて、欠けたことだろう。  石牢の天窓から、月明かりが降ってきている。  牢には鉄格子が掛かっており、その向こうには石段が見えている。  私の肉体は石牢に仰臥したまま、毛ほどの動きもしなかった。  午後も遅くなってから介護の僧が訪れた。  水を含ませた布をしぼって、この口に水を与え、何かの肉を含ませる。排泄もごく僅かだ。同じ僧がその布で尻を拭い去って、それで終わりである。とても肉体を維持できるような量ではないが、不足は感じない。時には布に獣の血を含ませたもので