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いつかの冒険 毎週ショートショート

ある夏の日、僕は友達と洞窟に来ていた。理由は単純冒険をするためだ。
「ねえ、本当に行くの?」薄暗く湿り気のあるその空間は、僕たちの不安を煽る。
「行くぞ」友達が懐中電灯を前に照らしてそう言った。足は少し震えてた。

覚悟を決めて入った洞窟はそこまで大きくなく、教室の半分くらいの大きさだった。なにかないかと洞窟をうろうろしていると、不意に友達が肩を叩いた。
「おい、これ見ろよ」
「ただの壁じゃん」
「よく見ろって」照らされた岩壁をよく見ると、うすく白い線が書かれているのに気がついた。それはチョークで、カタカナで、言葉だった。
『オコサマランチ タベタカッタ』その字はとても弱々しく、強い思いが乗っていた。

しばらくしてそこは昔、防空壕だったと知った。でも誰があれを書いたのかはわからなかった。
僕が中3になった頃、洞窟には蓋がされ、中に入ることはできなくなった。それでも、町中でお子様ランチを見かけると、あの日見た切実な願いを思い出す。

お題 洞窟の中はお子様ランチを冒険小説で
 410字

あとがき

お子様ランチは第二次世界大戦前にはあったらしいので、もしかしたらこういう子もいたのかなと思いながら書いた。なんか寂しい話になりました。

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