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奥浜名感懐ー湖北の初夏/さやのもゆ

連休の初日。

五月晴れの空のもと、淡い新緑も束の間に過ぎていった。

緑も深まってきた日中は、初夏の花が華やかに彩っていたが、日没と共に色を失くしていく。

そのなかで、真昼の花々と入れかわる様にして、存在を現す花があることをー私はずっと前から知っている。

4月も終わる頃。
毎年のように、わが家のまわりは、匂いたつほどの強い香りに包まれていく。

その正体である花の存在を、姿かたちではなく、香りで知らされるのだ。

夜、表に出てみると、坂道を挟んだ反対側の斜面には、蜜柑(みかん)畑がある。

ここには数十株の木が植わっており、木末(こぬれ)が土手に張り出している所に近寄ってみる。すると、枝先にはいつの間にか、無数の白いつぼみが付いていた。

開花したものもあるが、花の頃としてはまだ浅いと見えて、ほとんどが蕾である。

今年もまた、蜜柑の花が咲いたこと。

毎年思うのだがー何故いつも、夜になってから蜜柑の花に気づくのか?

青苦さの入り交じる、それでいて馥郁(ふくいく)とした香りは、柑橘系の果実ならではのもの。

私は、今だけの香りに満ちた空気を幾度となく、呼吸した。
それも、夜のうちに。

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