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【本を読んで思ったこと/感じたこと/考えたこと vol.3】

▼サクリファイス/近藤史恵

この本は、神戸市の岡本駅から歩いてすぐのところにある「ダイハン書房」という本屋さんで見つけた。見つけた時、私は懐かしさと驚きを同時に感じた。同じ名前のピアノ曲(※)を知っていたからだ。その曲は映画「ピアノ・レッスン」に使われた曲で、兄が10代の時に家でよく弾いていて、真似して私もよく弾いた、思い出の曲だ。

あらすじは、本書の解説から引用する。(以下、あらすじ)

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主人公の白石誓(しらいし ちかう)は、もと陸上選手。オリンピック代表を期待されるほどのランナーだったが、勝つための走りに疲れ、引退。たまたま知ったサイクルロードレースの、「自分が勝つために走るのではない」アシストというシステムに惹かれ、自転車競技に転向する。ところが、彼と同じチームのベテランエース・石尾には、過去に自分の地位を脅かす若手を事故にみせかけてケガをさせ、再起不能にしたという黒い噂があった。それを承知で次期エースの座を虎視眈々と狙う新人レーサーの伊庭(いば)。アシストの役割に満足しているのに、その実力からエース候補だと思われてしまう白石。そしてついに、再び「事故」が起きてーーーー。
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私が読み進める内に一番共感したのは、本音を言えば言う程、異星人を見るような目で見られる、白石の「真意の伝わらなさ」だ。

家族でも友人でも、仲が深まると本音を語り合う機会が増える。そこで、「完全に分かり合う」事などできないことは百も承知だが、ついつい本音がこぼれる事がある。私の場合、大体の反応は奇異なものを見る目か、「偽善者ぶるな」「嘘をつくな」という、怒りである事が多かった。それは、私の伝え方の問題もあるだろうが、そもそも、「どんな時にどんな事を感じるのか」、人によって千差万別なので、「分かりたい」と想像する気持ちをお互いが持っていなければ、分かり合えないのは当然である、と色々な経験を経て気付いた。

主人公の白石は、本書の前半でこんな本音をチームメイトの伊庭(いば)に吐露している。

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「わからないんだ」

「なにが」

「ゴールに一番に飛び込む意味が」

勝つことの喜びだとか、誇りだとかそういうものが。自分の足で走っている時もそうだった。ただ走ることは好きだったけれど、ゴールは少しも輝いて見えなかった。必死にゴールへ飛び込む他の選手は、きっとぼくと違うものを見ているのだと思った。ぼくにはそれは見えない。どんなに目をこらしても。一着でゴールを切っても、感じるのは困惑だとか、居心地の悪さだけだった。なにひとつ、そこには自分にふさわしいものはなかった。ただ、走るだけ走って、あとは放っておいてくれれば、どんなにいいだろうかと思ったほどだった。「たぶんちょっとどこかネジが外れてるんだと思っている」ぼくは笑いながらそう言った。
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物語の後半にかけて、白石の心境がどう変わっていくのか、ぜひ読んでみて確かめてほしい。

そして、分かり辛いけれど、苦しかったり楽しかったりする白石の心の有り様は、最初に紹介したピアノ曲と重なる。

同じ音を奏でている様で、同じ音など一つもなく、もの哀しく聞こえるかもしれないが、悲しいだけでもないのだ。

さて、あなたは、この本を読んで誰に共感するだろうか?

・チームのエースの石尾

・エースを女房役として支える赤城

・チームの監督

・次期エースを狙う伊庭

・白石の元恋人の香乃(かの)

・香乃の新しい恋人の、車椅子ラグビー選手の袴田

あるいは、ここでは紹介していない、他の誰かだろうか?

いつか会える日が来た時には、気が向いたら教えてほしい。

◆小説
サクリファイス (新潮文庫) https://www.amazon.co.jp/dp/4101312613/ref=cm_sw_r_cp_apa_i_TX57CbPNBGA8J

◆本だけ参加した大阪のイベント↓
https://www.facebook.com/events/2394804434072967/?ti=cl

(※)ピアノ曲↓
https://m.youtube.com/watch?feature=youtu.be&v=IT0O-PL-GDU

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