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Letters 3通目

3通目

久しぶりに残業となった水曜日。営業部門の新人の一人が、取引先との打ち合わせを何故かダブルブッキングしてしまい、時間になっても担当者が来ないのはどういうことか、とクレームの電話があった。
クレームの電話を受けるまでは良かったものの、これまた電話を受けたのが金子さんだった。彼女は電話の保留をしなかったのだ。

「なんか、ちょぉ怒ってる。あたし、悪くないのにぃ」

保留をしていないものだから、金子さんの文句が取引先に聞こえてしまい、更に怒らせてしまった。この会社に勤め始めて6年目になるが、こういったトラブルを発生させる子は初めてで、内勤も営業担当も頭が真っ白になった。取引先の人も虫の居所が悪かったのかもしれないが、さすがに金子さんの対応はない、ということで部長は金子さんに反省文を書き上げるまで会社から帰るなと命じ、内勤と営業で協力して、様々な取引先とのスケジュールを調整し、なんとか今週中に改めて話を聞いてくれると了承してくれた。
会社を出ることが出来たのは22時過ぎたところだった。

「あれぇ、煙草はやめたんじゃないんですか」
「…あなたもね」

I駅前にある喫煙所で久しぶりに煙草を吸っていると、村田くんが喫煙所に入ってきて、私を見つけてニヤリと笑った。
確か、奥さんに煙草をやめて欲しいと言われて、半年前くらいに禁煙外来に通い始めたと聞いた記憶がある。だけど、目の前に佇む長身で華奢な男は、美味しそうに煙草を吸っていた。

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