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【読書】 日本巡察記 ヴァリニャーノ

購入すると高いので図書館で借りることができた。とても面白かったので欲しい。手元にないのでうろ覚えの部分もあるが記事を書いてみる。

巡察師として来日した、イエズス会士・アレッサンドロ・ヴァリニャーノが書いた報告書。(南蛮屏風に描かれた、背の高い黒い服がヴァリニャーノではないかと言われている)日本にいるときは当たり前すぎて気づかないことも、海外に出ると気づいたりすることがよくある。イタリア人のヴァリニャーノが16世紀の日本にきて残した、いわゆる「外から見た当時の日本文化」がわかる。まるで西洋と文化が正反対の日本人にどのように宣教するか、が書かれている。戦国時代ということはともかく、日本人は今とそこまで変わらない感じがした。

何度もヴァリニャーノは「ヨーロッパと正反対」であることを書く。例をあげれば、西洋では喪服は黒や紫だが、日本では白。日本では西洋と反対に、黒が喜ばしい色。ヨーロッパ人が良いとか美しいと思うものが日本人には耐えられない。逆もしかり。感情を抑制する日本人、すぐ思ったことを表現する西洋人。何もかもが反対である。

日本人は、穏和で思慮がある。とても礼儀正しい、すべてにおいて極めて清潔、信じられないほど忍耐強い・・。世界が終わってもその文化や生活を変えないだろうから、ヨーロッパ人が日本人に合わせなければいけない、と。

面白かった事の一つが、来客に対するおもてなし、贈り物、お返しの文化が大変だといっているところ。身分に応じてお茶やつまみを出さないと恥をかかせたことになるらしく

「我々の修院では、来客を好都合にもてなし得ないとて、日本人修道士の間では、いつも決まった手順で長い争いと口喧嘩が起こる

確かにおもてなしは日本人でも大変。そしてなにせ大赤字の日本イエズス会にとって、このおもてなしやプレゼントの出費が馬鹿にならず、キリシタン同士はこの「悪習」はやめて、手土産なしでお願いしたいと何度も話し合ったらしい。だが実際バテレンたちが手ぶらでいくと残念がられて、

「日本の習慣に従えばこれは無礼であるに加え、日本人と司祭達の間の友愛は行為で示さるべきで、友愛の徴としてなんらかの贈り物をするのであるからもしこれが日本で禁止されると友愛は言葉だけのものとなり実質が伴わない」とのことらしい。

他には、ヴァリニャーノには鳥のえさ入れにしか見えないのに、信じられないほど高価な茶器や、ただの刀に日本人が価値を見出すのが理解できなかった。しかし日本人にわけを聞くと、ヨーロッパでは何にも使えないただの石(宝石)を大事にするが、茶器や刀は利用できる。と言われた話も興味深い。

ヴァリニャーノは、

「日本人が良い素質を備え、優れた数多の天性を保持していることは、驚嘆に値することであって、私が見たあらゆる諸国民の中では、彼等は もっとも道理に従い、道理を容易に納得する国民である。」と日本人を高く評価した。

実際ヴァリニャーノが来る30年前、ザビエルや、ザビエルと一緒に来日したトーレス神父も同じ考えで、トーレスは肉は食べず着物を着て過ごすなど日本文化に合わせた布教をして成功していた。しかしトーレスが年老いて引退し、亡くなるころ新しい布教長にカブラルが赴任。カブラルとともにオルガンティーノも来日し彼は京都地方を担当する。日本好きのオルガンティーノは、日本文化に合わせた方法で布教し、信長のバックアップもあり京都近郊ではキリシタンは増えた。しかしカブラルは、日本を理解せずヨーロッパのやり方を押し付けたため、九州のキリシタンとバテレンたちの間は険悪なムードだったらしい。実際ヴァリニャーノが来日してキリシタン大名・大村純忠に謁見すると、「バテレンたちは日本文化を敬わないし不快」などと散々文句を言われる始末。神社の破壊も不本意だが言われるがままにやったとのことだった。ヴァリニャーノが自分たちは外国人なので許してほしいというと、

「そのことについては、あなた方に同情するし、一年や二年なら我慢するが、幾年も立っているのであるから我慢できない。」

「日本の風習や礼儀を覚えないのは、覚える気がないし気に入らないから。日本にきた以上は日本の風習に従うべき。日本の風習を覚えないのが、その能力が欠けているためなら、日本人はそれほど無能なあなたがたを師とすべきではない」とばっさり。しかし純忠の言うことはもっともだった。

カブラルは、ヴァリニャーノに日本での視察を切り上げてさっさとゴアへ戻るように言っていたらしいが、オルガンティーノは京都へ視察に来るように要請。畿内を視察したヴァリニャーノはカブラルの布教方法が間違っていると気づき激しく対立、カブラルを解任。日本の布教方法を細かく決め、在日宣教師に、服装以外は全面的に日本文化に順応することを命じた。

日本人に無礼な態度をとってはいけない。急いで歩いたり、物珍しげにあちこちみたり、話しながら手をたくさん動かしたり、大声をだして笑ったり、笑いすぎるな。軽々しく人の家に赴くな・・日本はこうした礼儀や作法を重んじるから、そうしなければ、愚かな者と思われるし軽蔑される、と。

初めて日本と西洋が出会った時代、日本社会で外国人のバテレンたちが順応して日本で活動し、一から築き上げていくことの大変さ。そしてヴァリニャーノの日本や日本人に対する洞察力。読み応えあって面白かった。



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