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【読書録】『1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法』山口揚平

今日ご紹介する本は、山口揚平氏の『1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法』(2019年、プレジデント社)。

山口揚平氏は、ビジネスコンサルタント。ブルーブルー・マーリン・パートナーズ株式会社代表取締役。本書のほかに、著書に『なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持ちだったのか?』『10年後世界が壊れても、君が生き残るために今、身につけるべきこと』などのご著書がある。

この本を手に取ったきっかけは、山口氏のtwitterでのツイートが私のタイムラインに流れてきて、その内容に興味を持ったことだ。とりわけ、「世界が3つの層に分かれつつある」という見解を示した以下のツイート。

この3分類は、今の世の中をとても上手に説明できていると感じた。そして、この方の考えていることをもっと知りたいと思った。

そこで、山口氏の著書の中で、比較的新しい本書を読んでみたのだ。

以下、例によって、特に印象に残ったくだりをまとめたうえで、感想をメモしておく。

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第1章 思考力はAIを凌ぐ武器になる

●21世紀の「頭の良さ」:
情報量より、いつでもグーグル検索して答えを引き出せる「うろ覚え力」
短期記憶力よりも、人に何でも聞ける「愛嬌力」
「問いを問う力」「つながりを見出す力」「物事をイメージする力」「ストーリーテリング力」
●現代日本で最も賢いのは芸人
●21世紀、知識はお金を生まないが、コストを下げるために使われる
●「思考と情報のパラドクス」:情報が増えれば増えるほど人は思考しなくなる。
●「情報デトックス」で強制的に思考する時間を作る。「思考量>情報量」という状態を維持する。
●「考える」とは、概念の海に意識を漂わせ、情報と知識を分離・結合させ、整理する行為。
●メタ思考:一旦上位概念(メタ)を考えてから各論に落とし込んでいく
●すべてのものは一見、分かれているように見えるが、実は有機的につながっている。そしてそのつながりの中に潜む本質を問い続けることこそ、最も有効な解を見つける手段。取り入れた情報をもとに、意味を見出すべく、つなぎ合わせる。
●考えることはコスパが高い
●考えることで固定観念から解き放たれる
●考える目的:「代替案を出すこと」「具体案を出すこと」「全体像を明らかにすること」「本質を見抜くこと」
●本質的とは:「普遍性(応用がきくこと)」「不変性(時が経っても変わらないこと)」「単純性(シンプルであること)」

第2章 短時間で成果を出す思考の技法

●「考える」「書く」「話す」の3つのサイクルの確立
●あらゆる知識にアンテナを立てる
●本は大きな助けとなるが、問題意識はあくまでも自ら生み出す必要がある
●頭をクリアにする環境を整える(油を変える、掃除)
●本質的な思考は、左脳と右脳の不思議で微妙なバランスによって生み出される洞察力
●MECE(Mutually Exculsive and Collectively Exhaustive)
●二項対立、目的と手段、原因と結果
●ロジックツリー
●コーザリティマップ
●最後は考えるのをやめてみる

第3章 2020年から先の世界を生き抜く方法を考える

●今後の日本:単一社会はコミュニティに分化する。コミュニティでの言語は価値観、信用、貢献、品位。お金は異なるコミュニティ間の言語。仕事の定義は労働からコミュニティへの貢献へ変わる。コミュニティは「共同体」から「経済体」へと進化し、外部に対して価値創造(貢献)するようになってますます発展する。
●お金よりも信用を貯めるほうが有効
●他者への貢献(価値創造)の蓄積が信用となる
●価値=(専門性+正確性+親和性)/利己心
●価値を作り出す要素は時間。どれだけ短期間で価値を生み出すかが決め手となる
●時間を生み出すのは健康(エネルギー)
●お金による「文脈の毀損」が問題。数字による取引が発生することによって、つながりや物語といった価値ある文脈が漂白されてしまう
●時間がお金の代わりをする。時間は個人の信用に帰属する数字。
●時間主義経済、記帳主義経済、信用主義経済
●マジョリティとマイノリティの比率が逆転し始めている
●タテ社会からヨコ社会、マルチコミュニティの社会へ
●ヨコ社会では信用や文脈が重視され、信用がお金を駆逐する。コミュニティの中では信用を中心とした経済システムが有効に働く。お金を使わないので「文脈の毀損」を防げ、健康で心地の良い生活が送れる。
●超国家のコミュニティに多層的に所属していく。リソースをどのコミュニティにどれくらいの割合で割くのかを真剣に考えるべき
●強いコミュニティに入る、コミュニティの創業メンバーになる。
●自分というアイデンティティは他社との関係性によって成り立つ。柔軟に戦略的に人格を使い分ける。
●地方に拠点を作る。都市はQOLが低い。結局人は土から離れては生きていけない。
●ボランティアは信用主義経済や贈与経済を成り立たせる基本要素
●21世紀に人が一番お金をかけるのは、プラスのピアイフェクト(好影響)を与えてくれる人材を側に置くこと。「臨在りんざい」(仏教用語で優れた人のそばにいることを指す)。関係こそが健康と幸福のすべて。
●仕事は労働から「貢献」へシフトする
●「存在」していること自体が仕事となることもある。一緒にいて気持ちの良い人となる。
●ネットワーク社会では専門性が容易に調達できるようになる。業界という枠組みを超えて橋渡しすることで新しい価値を生み出せるハイブリッド人材の価値は乗数的に上がる。
●ロールモデル、マスター、メンターを持つ。愛嬌、使えるヤツと思われること、素直さ。
●活路は「地方」と「海外」
●これからの時代、信用は個人で作るもの。正社員はリスクでしかない。
●求められた仕事に対して相手の期待しに20%上乗せする。逆に言うと自分の思考と知識の限界から8割のレベルで十分な仕事を選ぶことが上司やクライアントへの誠意
●20代は修行期、30-40代は孤軍奮闘期、50-60代は一国一城期と、守破離しゅはりの順に、人生で3回は非連続的にキャリアを変え、出世魚のように生きていくのがベスト
●失業率は「労働解放率」。人生の目的を「生存」から「創造」へ転換する。労働者根性を洗い流すため、あえて1~2年ニートになってみる。自分だけの指標を設計し、小さな記録を続ける。少しずつ大きく社会的な目標が生まれ、貢献をお金に変えることができるようになる。仕事と仕事を組み合わせてさらに大きな価値を生み出す。それがビジネス創造。
●仕事は遊び。ビジネスは価値と信用を創造するゲームにすぎない。
●天才性(深いレベルでの自分の強み)を知る。自己分析は徹底的に行う。周りからよく褒められる言葉は天才性のヒント。ユニークな存在を目指す。
●あらゆる分野で微成長する人生は楽しい。「何でもできる」「何でもやってみよう」という姿勢が大事。興味を持ったことを片っ端からやればいい。
●人間は物質としての生物だが、それだけをもって生命とは呼べない。個人と個人の間にあるものが生命。人と人との間に紡ぎあげた意識の通わせ合い、関係、思い出。
●「個人」という言葉は意識の境界を便宜的に表現したものに過ぎない。多くの人が「自分」だと思っているものは、有機的なつながりの「結果」。
●無機的な世界から生命という有機的本質に回帰する。個体と個体の間に漂う生命が主役になる。人は濃厚な意識の交流こそ健康と幸福の源泉であると再発見するようになる。
●幸せとは物量のことではなく一体性。人と心がつながったとき、期待と実態が一致しているとき、人は幸福を感じられる。
●今後は、努力もコスパも意識せず、今あるもので満足する「期待値コントロール力」が主流の時代になる。
●人間の不幸には2種類ある「自分に降りかかる不幸」と「他人に降りかかる幸福」。後者の不幸を誘うSNSはやめるべき。

感想

「3時間働いておだやかに暮らす」。なんとも俗っぽいタイトルだ。ゆるいFireのススメ的な本に見えるだろう。

実際に本を手にとったところ、タイトルが俗っぽいし、表紙デザインも、巷によくある自己啓発書っぽいなと感じた。だから、正直言って、それほど期待していなかった。

しかし、読んでみると、腹落ち・膝打ちする箇所が多く、どんどん引き込まれていった。結果として、とても多くの学びが得られた。

本書でいう「おだやかに暮らす」というのは、「テキトーに働く」とか「ラクに暮らす」ということではない。

おだやかに暮らすために3時間働く、というときの「働く」は、他人に命じられるままに時間を切り売りして労働力を提供するという、旧態依然とした労働の概念ではない。

そうではなくて、個人の天才性を伸ばし、それを生かして、所属するコミュニティーにおいて信用を構築し、無私の精神で他社貢献を行い、価値を創造するということだ。

これは、ボーっと生きてきたごくフツーの人々にとっては、難易度の高いことだと思う。

物事の本質、有機的なつながりや、個々の事象の上位概念をとらえるメタ思考ができることが大切になってくる。本質的な思考力、洞察力を養う必要がある。とにかく、自分の頭で考えることが重要だ。

そして、そのためには、周りの情報に惑わされずに、自ら問いを立てて、見えないつながりを探り、本質をとらえることだ。

さらに、そのためには、情報デトックスがとても大事だ。このインターネット社会、AI社会においては、情報量が膨大で氾濫しており、何事においても即レスが求められ、じっくりと思考をする機会が失われていると感じる。意図的に情報を遮断しないと、情報の海に呑まれてしまい、何も考えず、馬鹿になってしまう。情報デトックスにより強制的に思考する時間を必要性作ることの重要性に、完全に納得した。

お金は信用に回帰する、というくだりにも共感した。貨幣や金融システムは、信用のもとに成り立っているが、最近では、金融システムは不安定になり、暗号通貨という新しい決済手段も普及してきている。旧態依然とした「お金」が、いつまで安定的に信用を維持し続けられるかもわからない。

それよりも、身近なネットワークやコミュニティーに時間を使い、無私の心で地道に信用を築き、他者に貢献し、価値を創造する。そういう生き方のほうが、おだやかで豊かであり、幸福の源泉となる。

所属する会社の利益増進のために、何も考えずに邁進するよう洗脳されてきた(私のような)社畜にとっては、根本的でハードなマインド変革を迫る本だ。

私のまわりで、社会的に成功していて、素敵だなと憧れたり、人格的に尊敬する人たちについて考えてみると、この本の言うとおりだった。彼ら、彼女らには、厚い人的なネットワークやコミュニティがある。他者に役立つことを考え、他者の利益ために進んで行動している。利己的でも打算的でも全くない。だからこそ、人から好かれ、尊敬され、結果的に、富や機会に恵まれているのかもしれない。

自分の未来をどうデザインするかは、結局のところ、自分次第。自分ならではの天才性を発見し、それを活かして、関係性をつくり、新しい価値を創造するというマインド。日本では、教育現場においても、企業社会においても、そういうマインドを養う機会がなかった。そのツケが、失われた数十年だ。

マインドコントロールをされるのに慣れた多くの日本人にとって、本書の提唱する生き方をせよと言われても、突然、荒波に押し出された小舟のように、戸惑うことだらけであろう。しかし、本書を手引きとして、楽しみながら自己変革に取り組むことのできれば、何かと不安要素の多いこの時代を、真に幸せに生きることができると思う。

ご参考になれば幸いです!

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