顧客が先か信念が先か

先日、ある会議で面白い質問を受けました。普段、僕が話していることについて、1つ1つは全て理解できるし納得できるが、いくつか矛盾を感じたとのことで。

このグループでは、今「どんな価値を提供するのか」という視点からスタートアップの計画を立てています。スタートの段階が特定の製品やサービスを作ろうというものではなく、異分野の優秀な人たちが集まり、何かしたいと考えたとき、提供すべき価値は何か(どんな社会にしたいか)というところから始まりました。

この会議の中で、僕が講義で学生さんに、マーケティングについて説明するとき、「誰のどんな笑顔が見たくて、そのために何ができるのか」と説明していると話しました。
この話もグループの皆さんに響いたようで、「誰のために」というキーワードが重視されました。

ところで僕は、企業のCIを担当するとき、経営者自身が本当にやりたいこと、人として何を成したいかということを突き詰めて考えてもらいます。言わば経営者自身の「目的」を明確にします。

これらの3つについて、例えばマーケティングの言葉で表したとき、1つ目は「バリュードリブン」、2つ目は「ユーザーイン」、3つ目は「パーパス」と、それぞれスタート地点が違い、矛盾して見えます。
そのためどれを重視しているのか、また状況によってどれかを選択しているのかという質問でした。

今回はこれらをどのように考えているのか、説明したいと思います。

・価値重視の視点
「どんな価値を提供するのか」は、プロダクトアウト、さらに言えば‘手前味噌’にしないための考え方です。特にものづくりにありがちな問題点ですが、「自分たちの製品は品質が高い」と考えることで、社会が求めているものとかけ離れているのに、「良さがわからない消費者が悪い」という考えに陥らないようにするためです。
実際の問題として、今「経験価値」や「時間価値」が重視されている中で、僕は生み出すべき価値について「どんな時間を過ごし、どんな気持ちになるのか」という、提供するべき価値を明確にしなければ、その製品やサービスが何をもたらすものなのかがわかりません。
さらに言えば「価値基準」を示すことが企業の役割になります。だからこそ「価値」を示すことが重要になります。

・対象重視の視点
現代の多様な価値が存在する状況では、マーケットインのような手法は、一定以上の市場規模を占めている企業以外、実現することができません。しかもそうした大企業ですら、自社のターゲット(どんな人に)を明確にしています。
それならば、特に大きな市場を獲得することができない中小企業であれば、なおさら「誰に」というのは絶対に明確にしなければなりません。
加えて「誰のどんな笑顔」というのは、自分が「価値」を提供したい相手を明確にして、どのような便益(時間と感情)を提供するのかを明確にするための考え方です。

現実的な問題として、人が求めるものは様々なので、全ての人に好まれることを行うのは、ほぼ不可能です。
講義などでは、「品質」について、クオリティや価格、購入のしやすさなどを挙げますが、現代のクオリティには、品質や価格が上がるほど、その背景となる意志(パーパス) や、提供者の人間性などまで含まれています。
だからこそ、「誰に」というのは、「どんな価値観や信条の二人に」というのを明確にする必要があります。

・目的重視の視点
先日、面白い話を聞きました。
まちづくりに携わる友人が、とある有識者の方から言われた話とのことですが、「政治家や社長になりたいという人間は信用できない。やりたいことがあって、それを実現する職業がたまたま政治家なら信用できる。」とのこと。

全くもって同意見です。

ここまで、「価値」や「誰のため」ということを記しましたが、事業を行う上で、経営者自身が、「誰の何を」実現したいか、つまり「何を成し遂げたいか」が明確でなければ、その事業はうまくいかないでしょう。そして、その組織が、共通の目的を持って協力できる体制は作れないでしょう。

これは以前、他の記事でも書きましたが、理念にせよ、パーパスにせよ、経営者自身が普段から考えていないことを「コピーライティング」しても、実現するわけがありません。そんなものは簡単に見透かされてしまいます。

実際に僕地震も、経営者の方に限らず、言葉の真意が「透けて見える」ということを何度も経験しました。以前は言葉を鵜呑みにして、失敗したこともありましたが、人の姿勢を見るようになって、関わるべきではない人が解かるようになりました。

このように説明すると、実は3つの異なる視点が、実はちゃんと繋がっていることが解ると思います。

結局のところ、「目的」が明確であることが一番大切だということです。

これをマネジメントやマーケティングに照らし合わせた視点が、今回紹介した3つの視点になります。


何が目的なのかを見定めることは、全ての人にとって大切なことだと思います。

ここで挙げた3つの視点が、皆さんが目的を見定めることに役立てば嬉しいです。

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