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【第3回イベントレポート】ジェンダー・セクシュアリティ、政治・選挙...社会的にタブー視されているテーマについて会社の課題として取り組むには?|パナソニック ふつう研究室のあゆみ(後編)

こんにちは!Social Business Lab運営事務局です。

わたしたちは毎月1回、SDGsをはじめ、サステナビリティやジェンダー、ウェルビーイングといった社会的なテーマに関連するプロジェクトを、企業の中で担当する「人」たちとともに考え、学びを共有する勉強会を開催しています。

世の中に新たな考え方を提示するような「あのプロジェクトの裏側」を分析し、実際にそのプロジェクトを担当した関係者から具体的な取り組みについて共有していただくことで、うまく行ったことだけではなく、失敗や「もっとこうしたらよかった」といった視点、どのように社内を巻き込み、プロジェクトを形にしていったのか?など、プロセスから紐解くことで考え方を知り、それぞれの活動や日々の仕事に活かすことができる場を目指しています。

今回はパナソニック 執行役員の臼井 重雄さんをお迎えして開催された第3回勉強会の後編をお届けします。
イベントレポート前編はこちらからご覧ください。

ープロジェクトのあゆみ中期・プロジェクト社外に発表した後の社内の反応や臼井さん感じた効果
追い風吹いてきたかも!期

臼井さん
:YOUR NORMALの展開として、銀座で実施した展示会で、他社のデザインのトップの方に「どうやったらこのような自由なことができるんですか?」と聞かれたことがあったんです。このプロジェクトは、社外から反応がよかったことで、社内の人が気付き、反応がよくなったプロジェクトの典型のような気がしますね。特に硬めの会社だと、議論しても進まない時、社外からの声ってすごく効果的だったなと思いました。これは特別なことじゃなく我々の生活の近くにあったことにみんなが気付き始めると、目くじらを立てる話ではなく真剣に考えなきゃいけない課題だ、と変化しました。

銀座で開催された展示会の様子


吉田(学校総選挙 / SBLメンバー)

:展示会の時に来られた社外の方はどういった方たちが最初にいい反応してくださったんですか?

臼井さん
:他社のデザイン部門のトップの方が、自社のデザイン部門で社会課題に取り組みたいけど直接利益につながらないのでなかなか活動できない、という話をしてくれたり、何も言わずにこっそり見に来てくれた社内のマーケティング部門のトップもいました。クリエイティブの力で、みんなのモヤモヤをムービーやプロダクトで視覚化して分かりやすくビジュアライズしたことが、周りの人のスイッチを入れたんだと思います。

吉田(学校総選挙 / SBLメンバー)
:社会テーマは難しいから分かりやすく発信しよう、と実行してしまうと、問題が矮小化してしまったり、一長一短の部分もあるなと思ってるんですが、デザインの部分はどのように気をつけていますか?

臼井さん
:クリエイティブについては二人に任せていましたが、ある高校の先生から、YOUR NORMALのムービーを使って授業をしたと、熱のこもったメールをいただいたことがありました。そういうメールは僕達の自信にもなったし、あの1通のメールを追い風にして、世の中がこういうことに対して当たり前になっていると社内を納得させることもできました。

大谷(Creative Studio koko / SBLメンバー)
:この映像やコピーの制作においては、制作過程でコミュニティへのヒアリングを設けたんです。通常、公開前のクリエイティブを外部に見せたり、意見をもらうという工程を踏むことはないのですが、テーマとしてもその過程を入れておきたかったので。その点も大事な部分だったかと思います。

東江(ふつう研究室 / SBLメンバー)
:若い人たちや課題の当事者の方々の意見も含めて、いろいろな人と話しながら進めた過程は大事だったと思います。

白鳥(ふつう研究室 / SBLメンバー)
:メールに関しては、すごく嬉しかったですね。「そんなに都会じゃない地域で性的マイノリティーの人が周りから見えづらい中、いつも表層的な教育になっちゃうけれど、本質をちょっと話せた気がする」っていうコメントにグッときて、すぐに大谷さんにもシェアしました。CCCさんは、プロジェクトをローンチ後に活動がやりやすくなった反応は何かありますか?

石井(学校総選挙 / SBLメンバー)
:立ち上げの1回目のテーマを「政治」にしたんですね。当初は弱気でしたが、もうど真ん中でやってみようと、どの政党を支持するのかについて調査をしました。結果として1万票を超える方達が参加してくれて「なぜ1万以上もの投票数が来たのか」についての話をした際に、報道でも取り上げられたんです。10代、20代、選挙権を持たない人も含めて、今の政治に対して思っていることを発信できたことが良かったことだったのだと思います。

ープロジェクトのあゆみ後期・プロジェクト3年目の課題とは?
これからどうしていけば良いのだろう?期

白鳥(ふつう研究室 / SBLメンバー)
:今までは小さくプロジェクトを始めて、プランも短期間で行ってきたので、これからどうしていくのかが課題だと思っています。社外に対してつながりを持つ観点で行動していますが、社内でいろいろやらないといけないこともあるし...臼井さん、私たちには何が求められていると思いますか?

臼井さん
:最初は分かる人たちだけで話していたのが、分からなかった人たちも理解してくれるようになり、「さあ、これから」というのが今の状態だと思うんです。そうすると違う切り口で似たようなことを社内でやる人たちが各所で出てくる。ばらばらにやると会社として取り組む意味もよく分からなくなってくるから、それらの活動を束ねていくことがすごく大事かなと。小さいと確かに早く動けるけど、大きくして遠く、長く続けていくフェーズに入ってきてるんじゃないかな。次の一手は二人だけの価値観ではなく、同じ考えの人たちや知恵を集めて、ちょっと違う切り口を見つけることかな。はじめは理解されないけれど、理解された途端に同じような動きが出てくることは、プロジェクトではよくあるケースですよね。

内藤(学校総選挙 / SBLメンバー)
:臼井さんがふつう研究室の活動を2年ぐらい見てこられて、どのような部分をこのプロジェクトの手応えとして感じてますか?

臼井さん
:確実に賛同者は増えてるんだろうなというところや、美容機器のCMなどに変化を起こしたり、このプロジェクトから影響してるものがたくさん出てきたことですね。小さい活動がたくさんあるのはすごく大事だけど、そうすると、ばらばらといろんな発信をしてしまうのでここからのフェーズでは幹みたいなものを作って、それらを束ねてもっと大きな活動になるといいなと思います。

吉田(学校総選挙 / SBLメンバー)
:パナソニックさんは世界中に社員さんがいらっしゃるじゃないですか。それぞれ文化も異なると思うんですけれども、ふつう研究室が世界の社員さんたちにとっても影響を与えるためにはどういうことが必要なのでしょう?

臼井さん
:世界的に見ると、日本が一番こういうトピックを扱うのが難しい。一番難しいところからスタートしたのかもしれないですね。この考え方をスライドして別の地域で取り組んで、また全然違う反響を得て進めていくやり方もあると思います。

白鳥(ふつう研究室 / SBLメンバー)
:私たちみたいに問題提起をする人がどんどん増えていって、その上で自分らしく生きることの選択肢をみんながどうやってシェアするかを考えながら続けていって、塊になったり、ばらけたりを繰り返す感じなんですかね。

臼井さん
:盛り上がると衰退しちゃうから、変に盛り上がらない方がいいんじゃないかと思います。センシティブなテーマだし、深くて長い課題だから、この活動に日が当たるというよりは曇りのち晴れのイメージでしっかり長く続けたいですね。

石井(学校総選挙 / SBLメンバー)
:ふつう研究室が主体的に、社会に向けて発信をして影響を与えていくこともあれば、一方でパナソニックさんという大きな会社だからこそ、例えば、3年で社内が変わることを目指して何のアクションが効果的なのか考えることも大事なのかなと思ったり。一方で動画を作って外に発信をしてくことは、また違った動き方になってくるのかなと。本当は両方できるのがいいと思うんですけど、人数やパワーも限られる中、叶えたい最後のゴールは変えずに、方法論をもう少し絞る必要があるのかな?と自分達のことを含めて思いました。

臼井さん
:例えば、よくメディアに出てくる家族像、お父さん・お母さん・子ども二人が家族団欒してる状態って、実際は数パーセントしかいない家族の形。これから高齢化や単身家族が増えていくといわゆる「標準」とされていた家族像は少なくなるなか、社会に対して「性」についての問いかけをしていることで、パナソニックが作るプロダクトやサービスにも何らかの影響が絶対にあるはずなんです。実際に提案が世の中に出て人に触れた時に、さまざまなあり方を包括していくために、言葉にするだけじゃなく、形にして変えていくことが必要ですよね。

ー手触り感がないと言われたとしても、未来のことを話しているのだからそれは当たり前。

Q. 活動をスタートさせるためのヒント

臼井さん
:ほとんどの人が「今どうなのか?」っていう話をするんですけど、「今」って言ってる瞬間から「今」も過去になっているじゃないですか。だから、どのくらい先の話なのかを設定した上で、これからどうなのか、という視点で話をすることですかね。当時いろいろと心配されたけど後からは理解してくれてる人たちもたくさんいたので、時間軸がずれていただけなのかなと。スタートする時にどこを目指すのか、時間軸を頭に入れておいたらいいんじゃないかなと思います。「君たちの言ってることは手触り感がないんだよね」と言われることもあると思うのですが、それは当たり前です。未来のことを言ってるんですから、手触りがあったらそれはもう未来の話じゃない。手触りがある時にはもう遅いという話だと思うんです。テーマが不安というよりも、まだ見えない不確実なものだったから、心配だったということが大きかったかもしれないですね。でもこの取り組みは、これからのことをみんなで考えることそのものが大事、ということだと思いますね。

石井(学校総選挙 / SBLメンバー)
:今や来年のことは経営層も何となく想像ついているけれど、5年後、10年後って想像ついてないんですよね。だから、同じ土俵でディスカッションができると思っていて、わかんないからこそこうなるんじゃないか、こうなるよっていうところを伝えることもできるだろうし、それに対しての納得感も一緒に作り上げることができるのかなと。時間軸について議論することは、すごくよい方法だなと思いました。

臼井さん
:未来なんて予想しても仕方ないんだから、最終的にはスタートさせる人の熱量だと思いますね。この人たちをどうにか助けたいとか、一緒に寄り添って考えていきたい、というような思いがスタートだし、継続していくうちに熱量が下がってしまうと、スタートしても減速してしまう。何でも早くやろうみたいな風潮があるけど、深くて長い課題なので、たまに立ち止まって周りの変化を見て焦らずにやっていくペースも必要だと思っています。

社会的にタブー視されていたり、“なんとなく触れにくいもの”とされてきた「性」のテーマを、会社としての落とし所を見つけるのではなく社会の未来のために声を上げ、パナソニックだからこそできる方法で発信していく。大きな会社ならではのあゆみから、多くを学ぶことのできた回でした。


🗒学びになった4つのポイント

◯取り上げるテーマをまず「知りたくなる」ように
:プロジェクト実現の過程で社内や経営層が壁になっている場合、GOサインを出す側にそのテーマについての情報や知識がない場合が多い。まずはテーマそのものに興味や関心を持ってもらうために「なぜやりたいのか」熱量と知識を伝え続けることが大切。

◯会社の既存の強みに紐づけてみる
:既にある会社の強みをプロジェクトに取り込んだり、社内での立場を生かしてプロジェクトを進めると社内の支援を得られたり、社内を巻き込むことができる。

◯社外の反響や反応を追い風にする
:社外から反応がよかったことで、社内の人が気付き、会社全体として取り組むことができる。特に社内が硬めの会社では議論しても理解してもらえない時、社外からの声は効果的。

◯時間軸を未来に置き話をする
:社会的イシューは経営層の想像のつかないくらい先の未来へ長い継続的な話なので
「今」ではなく「これから先どうなのか」という時間軸を合わせて議論をすることで同じ土俵で話し合いができることがある。

Social Business Labでは、今後も気になるプロジェクトの担当者をお呼びし、ともに学ぶ時間を作っていきます。ぜひTwitterをフォローの上、次回のイベントもチェックしてみてください!

企画 / 編集:Creative Studio koko

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