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Aunt Hagar’s Blues/Aunt Hagar's Children's Blues

「ヘイガーおばさんのブルース Aunt Hagar's Blues」は、1920年にWC ハンディ(WC Handy)とジェイムズ・ティム・ブライマン(James Tim Brymn)によって書かれたブルース・ナンバー。ほかにも"Aunt Hagar's Children"や"Aunt Hagar's Children's Blues"という表記もなされる。「ハガー」の表記もあるが、ルイ・アームストロングは明確に「ヘイガー」と歌っているので、「ヘイガー」の表記に従うことにする。ただ、英語だと「ハガー」とも発音されるので発音しやすい方でよいと思う。

歌詞は、いわゆるストーリーテリングの形式で、大意としては以下の通り。「教会の助祭が「今日はラグタイムもスイングもやらない」と善き生き方の説教をすると、ヘイガーおばさんは飛び上がり、「そんな説教なんて無駄よ!シンコペーションを聴いたら、ブルースを聴いたら、勝手に動いちゃうわ!」と叫ぶ。そして「ヘイガーおばさんの子どもたちのハーモニーを聴けば古臭い教会のメロディもたちまち解き放たれる!さあ!ヘイガーおばさんのブルースを一緒に歌おう!」と続けられる。

歌詞に出てくる「黒人のヘイガーおばさん」はアフリカ系アメリカ人の文化的アイコンとして存在している。旧約聖書に「ハガル」、英語名でハガー/ヘイガーという人物が登場するが、それとは直接的には関係ないようだ。他方で、アフリカ系アメリカ人の文化のなかで繰り返しモチーフになる「ヘイガーおばさん」によって聖書に登場する「ハガル」が黒人であるという認識が逆に生まれたとされている。以下の書籍のチャプターが示唆に富むだろう。

また、1921年にトム・デラニーが作った「ダウン・ホーム・ブルース Down Home Blues」はこの曲に酷似しており、それが原因でハンディがかかわっていたブラック・スワン・レコードのハリー・ペイスとハンディの仲に亀裂がはいってしまうことになった (Hurwitt 2006)。

録音

Louis Armstong (NY July 12-14, 1954)
Louis Armstrong (trumpet, vocals); Trummy Young (trombone); Barney Bigard (clarinet); Billy Kyle (piano); Arvell Shaw (double bass); Barrett Deems (drums)
オールスターの録音。ニューオーリンズ/シカゴ・スタイルでとくにルイ・アームストロングのトランペットが伸びやか。歌も語りかけるように歌われる。

Grand St. Stompers (Brooklyn 21-22 March 2011)
Gordon Au (trumpet); Dennis Lichtman (clarinet); Matt Musselman (trombone); Ehud Asherie(piano); Rob Adkins (bass); Kevin
ゴードン・ウーのバンド、グランド・ストリート・ストンパーズの録音。かなり浮遊感のあるアレンジになっている。言葉を話すようなトランペットの演奏が素敵。インスト。

The Dime Notes (London 6 June 2016)
Andrew Oliver (Piano); David Horniblow (Clarinet); Dave Kelbie (Guitar); Tom Wheatley (Double Bass)
現代を代表するトラッド・ジャズのバンドの録音。グランド・ストリート・ストンパーズと比べると、かなりダンサンブルな演奏。ギターとベースが作るリズムが素晴らしい。

James P. Johnson (NY May 1945)
James P. Johnson (Piano)
ジェイムズ・P・ジョンソンは、こう言ったストーリーテリングのブルースをピアノで演奏するのが本当にうまい。短い録音なんだけど迫力のある演奏を聴ける。登場人物が目の前に浮かぶような演奏。

Eddie Condon Orchestra (NYC August 6 1947)
Eddie Condon (guitar); Jack Teagarden (trombone, vocalist); Wild Bill Davison (cornet); Morris Rayman (string bass); Johnny Blowers (drums); Pee Wee Russell (clarinet); Gene Schroeder (piano)
シカゴ・スタイルの絶対王者、エディ・コンドンのバンドの録音。ジャック・ティーガーデンが歌いトロンボーンを吹いている。ティーガーデンはいくつかこの曲を録音しているんだけどこれが一番いいかも。ピー・ウィー・ラッセルのクラリネットもニューオーリンズ/シカゴの模範みたいな演奏を展開している。ものすごくホットな演奏。

参考文献

Hurwitt, S Elliott. (2006). “Down Home Blues”. In Komara, Edward (ed.). Encyclopedia of the Blues. London: Routledge. p281.


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