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Ain’t Nobody’s Business but My Own

この「エイント・ノーバディズ・ビジネス・バット・マイ・オウン “Ain’t Nobody’s Business But My Own”」の作詞作曲者はアーヴィン・テイラー(Irving Taylor)になってて1950年に書かれたことになっている。後述するように、この曲は、おそらくアーヴィン・テイラーが "Ain't Nobod's Business"という作詞作曲者不詳のトラディショナル曲を元に作った曲だと思われる。ちなみに「テイント・ノーバディズ・ビジネス・イフ・アイ・ドゥー "Tain’t Nobody’s Bizness If I Do"」とは別の曲あるいは親戚関係の曲。

歌詞は、もっとも録音されているバージョンだと「シャンパンも薬も、おれには関係ないことだ (Ain't nobody's business but my own)!君がどんな成金っぽいふるまいをしようとも誰にも関係ないことさ(Ain't nobody's business but your own)。」と言った内容。

誰が曲を書いたのか?

さて、冒頭で記したように、本エントリーで扱っている「ノーバディズ・ビジネス・バット・マイ・オウン」はトラディショナル曲からできたジャズ・ブルースの曲である可能性が高い。これには、いくつかの根拠がある。

黒人音楽の歴史家であったポール・オリヴァーの記述において"T'aint Nobody's Busisness But My Own"という曲が記録されている (Oliver, 1984)。この曲の作曲者はわからないし、いつ曲ができたのかも具体的にはわからない。また、楽譜がついていないためメロディもわからない。だが、少なくとも、このときに記録された歌詞はつぎの通りである。

I went to see my Hanner (ハナーを見に行ったんだ)*1
turn tricks in the manner(芸をしていたんだ)
T'aint nobody's business but my own(そんなことは俺には関係ないけどな)

Don't care if I don't make a dollar(稼げなくったっていい)
Je'so I wear my shirt and collar(おれはシャツを着るだけさ)
T'aint nobody's business but my own(おれの好きにさせてくれ)

*1 Hannerという表現がなにを意味しているのかわからなかった。
最初の文字が大文字になっているから人物の名前か?mannerと韻を踏むためのものかもしれない。

こうして見てみると、曲の内容だけではなく、最後のパンチラインが、このエントリーで扱っている「ノーバディズ・ビジネス・バット・マイ・オウン "Ain’t Nobody’s Business but My Own"」と同一であることがわかる(ちなみにTaintはIt ain't、つまりIt is notの口語的な短縮系)。

ポール・オリヴァーが残した曲に関連してさしあたり2つの録音を指摘したい。1928年8月にフランク・ストークス(Frank Stokes)は、上の歌詞に非常に似た録音("Ain't Nobody's Business")を残している。また、ミシシッピ・ジョン・ハート(Mississippi John Hurt)も同年2月に同じ曲を録音している。これらの録音ではメロディも現在の「ノーバディズ・ビジネス・バット・マイ・オウン」によく似ている。

さらに、ウィリー・フォード(Willie Ford)によるギターの弾き語りが、アメリカ民族音楽の含蓄家ジョン・ロマックス(John Lomax)とルビー・ロマックス(Ruby Lomax)によって1940年10月に行われたフィールド・レコーディングとして残されている。このときのタイトルは"Nobody's Business"となっている。また、この記録は連邦図書館に保存され、CDにもなっている。

ジョンとルビー・ローマックによる記録。こちら

これも実際に聞いてみると、いま知られている「ノーバディズ・ビジネス・バット・マイ・オウン」(このエントリーの曲)と歌詞とメロディが同一と言っていいほど似ている。

このような録音史を踏まえると、テイラーが作詞作曲者であることにかんして、2つ考えられる。

  • テイラーが"Ain’t Nobody’s Business"(元々あった曲)にメロディの付け足しと歌詞の手直しをし、「ノーバディズ・ビジネス・バット・マイ・オウン 」(このエントリーの曲)を発表したので、テイラーの作詞作曲となった。

  • たまたま同じ歌詞とメロディができたので、そのままテイラーが「ノーバディズ・ビジネス・バット・マイ・オウン 」(このエントリーの曲)の作詞作曲者となった。

おそらく1つ目だと思う。なぜなら2つ目を裏付ける根拠があまりにも乏しいからだ。であるならば、「ノーバディズ・ビジネス・バット・マイ・オウン」は、トラディショナル曲の改変という認識が妥当ではないかと思う。

親戚関係の曲

ここで冒頭に書いた「テイント・ノーバディズ・ビジネス・イフ・アイ・ドゥー "Tain’t Nobody’s Bizness If I Do"」との親戚関係について述べておく。「イフ・アイ・ドゥー」は、ポーター・グレンジャー(Porter Grainger)とエヴァレット・ロビンス(Everett Robbins)によって書かれたヴォードヴィル曲だが、実は同じ作詞・作曲者不詳のトラディショナルを下敷きにしている。ただ「ノーバディズ・ビジネス・バット・マイ・オウン」が直接的に「テイント・ノーバディズ・ビジネス・イフ・アイ・ドゥー」の改作としている表記もあるがこれにかんしてはおそらく誤りと見てよいだろう。両者は同じ曲を元ネタにしているのだから親戚関係のというわけである。

少なくともつぎのことは言える。もともと作詞・作曲不明で歌い継がれてきた元ネタ曲"Ain't Nobody's Business"ないし"T'aint Nobody's Busisness But My Own"、あるいは"Nobody's Business"という曲は2つの曲の元になっている。第一に「テイント・ノーバディズ・ビジネス・イフ・アイ・ドゥー "Tain’t Nobody’s Business If I Do"」である。第二に、このエントリーで扱われている「ノーバディズ・ビジネス・バット・マイ・オウン "Ain’t Nobody’s Business but My Own"」である。であるならば、この2曲は同じトラディショナル曲をルーツに持つ曲ということになる。

2つとも同じ曲をルーツに持っているというのがさしあたりの結論。

録音

先ほどのフランク・ストークスとウィリー・フォードの録音のほかにいくつか録音が残っている。タジ・マハールのライブ録音がいくつかあるが、とくに弾き語りのものはウィリー・フォードの録音にとても似ている。ジャズの録音だとなんと言ってもルイ・ジョーダンとエラ・フィッツジェラルドのデュエットがいい。さらにウェスタン・スイングの録音もあり、それはケイ・スターが歌っている。とってもよい。最近の録音だとRyan Tennisがタジ・マハールのバージョンを下敷きにして歌っている。それとDuo Gojoがマヌーシュ・ジャズで録音している。

Duo Gadjo (San Francisco 2008)
Isabelle Fontaine (Vocal, Guitar); Jeff Magidson (Guitar, Vocal); Simon Planting (Bass)
イザベル・フォンテーヌとジェフ・マジソンのデュオにサイモン・プランティングが加わった録音。ルイ・ジョーダンとエラ・フィッツジェラルドの録音を下敷きにしたもの。

参考文献

  • Lomax, J. A., Lomax, R. T. & Ford, W. (1940) Nobody's Business. Natchez, Mississippi.

  • Oliver, Paul. (1984). Songsters and Saints: Vocal Traditions on Race Records. Cambridge: Cambridge University Press.


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