佐藤優の本はブックガイドとしての有用性が一番高い(気がする)

「牙を研げ」を読んで、会社の中で「ガルルルル」と強くなるような本では正直ない、と思う。はっきり言えば教養本で、これを読んだからと言って急に出世するわけでも、部下がついてくるわけでも、仕事ができるようになるわけでもない。読んでから更に(自分の努力で)次のステップに繋げることで、教養(歴史や論理学、数学、地政学)を身に付け、そうすれば会社でもええ感じでしょう・・・という先の長い話なのだ。「会社でもええ感じ」というよりは、広い視点を身に付けることで「会社がどうでもええ感じ」になって生きやすくなる、というのが本当のところな気もする。

構成は相変わらず、講座の内容をまとめたものをつなぎ合わせたものなので、前にも読んだ気がするな・・・という内容もたまにある。が、この本は星の数ほどある佐藤優本の中では比較的私のおすすめ度は高い。何故ならば、読書指南として、各章に(あんまりお値段の高くない)取り上げた本のリストがついており、それこそ「次のステップ」へ行きやすい構成になっているからである。1章、2章はマニアックの極みで旧日本軍の「統帥綱領」だとか「作戦要務令」だとか、金日成の「世紀とともに」とか、果ては「愚管抄」に「神皇正統記」など、この流れで誰がチャレンジするのだろうか・・・という本のチョイスだが、論理学を扱う3章からはグッと庶民的になっている。私が気になった本は以下の通り。

個人的に一番面白かったのは「おわりに 体験的読書術」という部分。読書はマトリクスを作って、今から取り組もうとしているのはどこに当てはまるのか?を考えた方がよい、らしい。つまり「天井(達成の目安)あり・なし」×「仕事・趣味・教養」で切り分け、「天井なし×教養」なんて最悪で、しかもそれが語学だと絶対に身につかないらしい。通りで私のラテン語も進まないわけだ!(だれかラテン語検定作ってください。そしたら「天井あり」になるのです・・・)

本の選び方についても「書評は新刊メインだし、違う人でもプレスリリース元にして似たようなことを書いていたりするからあまり参考にならない」とのこと。その点、松岡正剛の「千夜千冊」は古い本も扱っているし、そもそもまとめて読もうとすると求龍堂の10万のやつ(高い!)か、文庫でも今時点で1300円×12冊、「追々80冊くらいになるかも」らしいので、やはり10万くらいの出費になるから「モトを取ろう根性」が働いてしっかり読むだろう、と。確かにね。あとはアウトプットの重要さや、ブックレビュー会などについても書いてあったが、ここでは割愛。

個人的に一番「会社で」役に立ちそうだと思ったのが、上司は選べないし、逆らえないが、部下はなんとでもできる、ということ。やる気のないやつは切り捨ててしまえばいいのだし(間違っても本を勧めたりしない)、変なやつは自分のチームに入れないようにすべき。プラスのメンバーの中で「ゼロ」のやつがいても基本は悪さしないが、たまに「×0」で全てを台無しにするから・・・というのは、うーむ、思い当たることが多すぎるな。

というわけで、直接的な牙は生えないかもだけど、なかなか面白い本でした。

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