哲学にだいぶハマり込んできたカエルの話

チャーリー君はクラウス君、ヨハン君と大仲良し。3人組の中では一番の年長の15歳です。彼にも池中元信という立派な名前があるのですが、アメリカのどこかの州でマスコットになっている魚の像にあやかってチャーリーと名乗っているのです。(いままで紹介し忘れていましたが、ヨハン君は1歳で、本名を青野利秋といいます。)ただ、チャーリー君は長生きで池から動けないことが災いして、環境ホルモンの影響により、ちょっとした女装癖があるのです。若いクラウス君やヨハン君は大して気にしていないのですが、チャーリー君と同年代の魚は皆、彼のことを避けていました。もちろん、チャーリー君自身は若い世代の友達が二人もいることで十分満足しているのですけどね。

さて、クラウス君とヨハン君が時間をかけて、草むらから池の端までやってきました。

「チャーリー君、チャーリー君」

クラウス君が手を叩きながら呼ぶと「ィヤッホー!」と元気良く池からチャーリー君が飛びでてきました。そして、二人で哲学の話をしていたと聞いた途端に「そんことを考え込んでいるから、未だ尻尾が取れないんじゃないか!」とチャーリー君が明るくクラウス君に指摘します。それはクラウス君がとても気にしていることなので、ヨハン君はドキッとしましたが、当の本人はそこまで気に留めていないようでした。

「だいたいね、君ら二人ともに哲学にハマられるとね、辛気臭くていけないや!」

チャーリー君の魅力はここにあります。非常にセンシティブで、場合によっては相手を怒らせたり、悲しませるようなことを言っても、なぜか許されてしまう人柄なのです。

「まぁ、でも2対1で哲学派が多数になってしまったからな!ここは僕も哲学漫談に加えてくれないかい?」

「チャーリー君に哲学は似合わないなぁ・・・」

ヨハン君はつぶやきながら、いままでの話をチャーリー君に説明しました。客観と主観の話、合わせ鏡の話、揺らぎの話・・・「そもそも、哲学の最初の問いは「なぜあるのか?」だよ。」とヨハン君。

「ある?ある、っていうのは「ここにある」とかそういうことかい?」と、熱心に聞き入っているクラウス君が尋ねます。

「そうだよ。その「ある」だよ。」

「つまり存在の不思議ってことだね!」チャーリー君が元気に合いの手をいれました。「確かに存在は不思議だな!」

クラウス君は存在の不思議さがいまいち理解できないので、ちょっと戸惑いましたが、チャーリー君は気にせず続けます。

「だってさ、僕ら出会うまではお互いの存在知らなかったんだぜ!ちゃんと存在していたのに!僕は君たちが生まれてくるずーっと前からこの池にいたのに!なのに君たちの中に僕が存在し始めたのは、僕のことを知ってからだろう?」「僕からしても同じさ!君たちが僕に会いに来るまでは、僕の中で全く存在しなかったのに!それこそ、僕にとって君たちの存在感は、まあ、実質ゼロだったわけだけど、つまりその辺の水草以下だったってわけさ!なのに、今は水草以上だ!これは不思議だよ!」

「認識も哲学を考える上で重要な概念だ」とヨハン君がポツリと呟きましたが、最期の方はチャーリー君がまた喋り始めたので、クラウス君には良く聞き取れませんでした。

「そしてさ、一度出会ってしまったら最期、その存在は消えないんだ!ついこないだまで、君たちが生きていることさえ知らなかったのに!いまではとても大事な存在だなんて!不思議だよ!そして、たとえ将来、君たちが僕の前からいなくなったとしても、君たちとの記憶は僕の中に存在し続ける!君たちの存在が僕の中で消えることはない!なんて不思議なんだ!」チャーリー君は絶叫して、1回転半の大ジャンプをきめました。

クラウス君にもチャーリー君の言わんとすることは分かりました。確かに、チャーリー君と出会うまで、正確に言えばチャーリー君の噂を聞くまでは、チャーリー君がこの世に存在するなど全く知らなかったのです。そして、今後チャーリー君と会わなくなったとしても、チャーリー君存在が自分の中から消えることはない・・・「確かにこれは不思議だ。一体どうすれば、出会った存在をゼロに戻せるのだろうか?それともどう頑張っても戻せないのだろうか?」チャーリー君に比べると(まぁ、チャーリー君と比べると誰でもそうなのですが)、少々後ろ向きな性格なクラウス君は「一度存在を認めたものを消す方法」について、腕を組んで考え込み始めました。


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