君には言えない。

短編シナリオです。

「君には言えない。」

《登場人物》

小田真理華(16)高校2年生。
佐藤詩乃(16)高校2年生。
高橋陽介(16)高校2年生。

《本編》

○高校・外観(夕)
   アジサイの花が色鮮やかに咲く校庭。

○帰り道(夕)
   赤い傘の小田真理華(16)と青い傘の佐藤詩乃(16)。
   雨の中、傘をさして歩く真理華と詩乃。
真理華「詩乃、告白すべし!」
詩乃「私は別に……」
真理華「思ってるだけ?」
詩乃「でも……」
真理華「詩乃の一番の理解者が味方なんだから。この私に任せなさい!」

○高校・外観(日替わり・朝)
   アジサイの花が雨に濡れている。
   赤い傘を差した真理華。
真理華「(アジサイの花を見つめて)……」
   そこへ高橋陽介(16)が紺の傘をさしてやってくる。
高橋「小田さん。何見てるの?」
真理華「アジサイ」
高橋「綺麗だね」
真理華「知ってる? アジサイの花言葉」
高橋「知らないけど」
真理華「私も!」
高橋「なんだそれ」
真理華「ねえ! 高橋君って、彼女いる?」
高橋「はっ……!?」
真理華「あ。誤解しないで! 私、ジャンケンで負けちゃって……それで!」
高橋「ふざけんなよ……」
真理華「でどうなの?」
高橋「いると思うか?」
真理華「好きな人は?」
高橋「……」
真理華「そうだよね。あっ!」
   真理華、高橋の頭に触れる。
高橋「(ドキリとして)えっ? なに?」
真理華「毛玉ついてたから」
高橋「あっ、サンキュー……」
   照れ臭さを隠すように去っていく高橋。
   それを見つめる真理華。
   その二人の様子を遠くから詩乃が見 ている。

○同・教室・内
   机に頬杖をついて、ため息をつく詩乃。
   真理華が向かいの席に座り、詩乃の顔を覗き込む。
詩乃「……真理華、高橋君と話してた」
真理華「あー。見られていましたか?」
詩乃「二人。楽しそうだった」
真理華「おやおや? やきもちですかな?」
詩乃「……」
真理華「高橋君と話したの、詩乃のためだよ」
詩乃「……私のため?」
真理華「高橋君、付き合ってる人いないって。私のリサーチ!」
詩乃「ほんと……?」
真理華「だから、一気に告白だ!」
詩乃「でも……。私は遠くから見てるだけで十分っていうか……」
真理華「私にいい作戦がある!」

○同・運動場(夕)
   グラウンドに雨が降り注いでいる。

○同・昇降口(夕)
   それぞれ傘を持った詩乃と真理華。
真理華「名付けて傘忘れちゃった大作戦!」
詩乃「それ、ほんとにうまくいくかな?」
真理華「うまくいく!」
詩乃「怖いよ……無理。やっぱり無理」
真理華「そこは頑張らないと! 無理してでも高橋君の傘に入るくらいの勢いだよ!」
   真理華は、詩乃の青い傘を取りあげる。
真理華「作戦は実行あるのみ!」
   真理華、詩乃の肩を叩いて、物陰に身を隠す。
   立っている詩乃、雨空を仰ぐ。
   そこへ傘を持った高橋がやってくる。
高橋「佐藤さん。おつかれ」
詩乃「あっ、高橋君……その……」
高橋「どうしたの?」
詩乃「う、うん。それが、私……実は、傘忘れちゃって……」
高橋「えっ、今日ずっと雨らしいよ」
詩乃「困ったなって……」
   詩乃と高橋は並んで空を見上げる。
高橋「……もし、あれだったら、入ってく?」
詩乃「えっ……?」
高橋「傘……」
詩乃「悪いよ……」
高橋「遠慮することはないと思うけど」
詩乃「ホントに、いいの……?」
高橋「困ったときの助け合い」
詩乃「ありがと……」
   詩乃、高橋のさす傘に入る。
   高橋と詩乃、二人並んで、歩いていく。
   見送る真理華。
真理華「ウソ……。成功しちゃった……」
   赤と青の傘が手から落ちる……。

○高校・外観(日替わり・朝)
   雨の中、傘を差した真理華がアジサイの花を見ている。
   そこへビニール傘をさした高橋がやってくる。
高橋「小田さん。あの……」
真理華「なに?」
高橋「いや、大したことじゃないんだけど。佐藤さんのことで……ちょっと」
真理華「詩乃のこと?」
高橋「その……佐藤さんって、付き合ってるやつとか、いるのかなって……」
真理華「……なんで?」
高橋「えっ……?」
真理華「それ、高橋君が気にすること?」
高橋「いや、その、俺……なんていうか……」
真理華「いるよ!」
高橋「え……?」
真理華「彼氏。詩乃には彼氏、いるから」
高橋「そっか。ありがと……」
   足早に去る高橋。
   高橋の去った方を見つめる真理華。
   雨に濡れるアジサイたち。
   反対方向から高橋から借りた紺の傘をもってやってくる詩乃。
詩乃「やっぱり高橋君って優しいね。でも迷惑かけちゃったなって……傘、返さないと」
真理華「高橋君。困ってたよ」
詩乃「どういうこと?」
真理華「さっき聞いたんだけど、実は高橋君、本当は彼女いるんだって。それで変な誤解されたら、って」
詩乃「え!? じゃあやっぱり傘借りたの、マズかったよね。私、どうしよう……」
真理華「ここはきっぱり諦める。それが一番」
詩乃「でも、高橋君の彼女に誤解されるのも、嫌だし。私、返してくるよ。ちゃんと返さないの、逆に変に思われても困るし」
真理華「え!? 待って! それこそ、高橋君に迷惑だよ」
詩乃「でも。このままになんてできないよ」
詩乃、かけ去る。
   その場にしゃがみ込む真理華。

○同・長廊下(朝)
   高橋を呼び止める詩乃。
   詩乃から差し出される紺の傘。

○同・外観(朝)
   アジサイを睨みつけている真理華。
   詩乃がやってくる。
詩乃「真理華。どういうこと? 私に彼氏いるとか、高橋君にも彼女なんて……」
真理華「移り気、浮気、無常……」
詩乃「え……?」
真理華「アジサイの花言葉」
詩乃「真理華……私たち親友でしょ?」
真理華「親友……だから……嫌われてほしかったの!」
   真理華は雨の中を駆け去る。

○道(朝)
   雨の中、走る真理華、息を切らして立ち止まり、泣き崩れる。 

            (おわり)

今後の執筆と制作の糧にしてまいりたいと思います。