見出し画像

【声劇台本】068「白く深く」

「白く深く」
《人物》
藤田琴美(17)高校2年生。美術部。
森山トオル(17)高校2年生。陸上部。

《本編》
琴美のMO「白い吐息を漏らす。冬の夕暮れ。私は高校の部活帰りに、いつもの交差点でトオル君が通りかかるのを待っていた。彼のランニングコースの休憩地点が、この交差点であることを私はよく知っている」

トオル「(走ってきて、息を切らしながら)藤田? お疲れ!(と呼吸を整える)」
琴美「トオル君も! 今日も走り込み? 感心だね」
トオル「藤田は? いま帰り?」
琴美「展覧会終わったから。もううちの部活は暇なんだ」
トオル「それはうらやましいことで」

琴美のMO「そういって、トオル君はストレッチを始めた。彼がまた走り出すまでの束の間の時間。それが私たちの交流の時間だ」

トオル「藤田ってさ。最近、よくこの交差点にいるよな」
琴美「いたら、悪い?」
トオル「いや、別に。よく会うな、と思っただけ」
琴美「私、この場所、特別好きだから」
トオル「え? 交差点のファン?」
琴美「違います。ここから見上げる《空》が好きなの」
トオル「空?」
琴美「青くて白くて、広くて大きくて、あ!あそこに飛行機雲!」
トオル「あ。ほんとだ。空なんて今まで気にしたことなかったなあ」
琴美「こうやって、創作のインスピレーションを養っているのです!」
トオル「ただの暇人かと思ってた」
琴美「ひどーい」

琴美のMO「彼の休憩はそろそろ終わる。私の大切な時間もそろそろ終わる」

トオル「じゃあ、俺、戻るわ」
琴美「うん。頑張って!」
トオル「あ。俺も、今度から、休むとき、空見るかな」
琴美「飛行機雲が見えたらラッキーだよ」
トオル「へえー。じゃあ、今日はラッキーか。またな!」

琴美のMO「走り去る彼の後ろ姿を見つめながら、私は、自分の息の白さが深くなっていることに気がついた」

(おわり)

今後の執筆と制作の糧にしてまいりたいと思います。