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にせんにじゅうのうた


 嗚呼、友よ。いま、君のために僕は泣こう。
 君の崇高な信念と、打ち砕かれし安寧とを、この胸に抱いて眠ろう。
 今、君の柔らかな手が恋しいのだ。
 今、君の暖かな瞳が恋しいのだ。
 僕はただ、紙きれ一枚、それから口伝いに君の死を知った。
 亡骸も、遺髪も、なにも見せないままに、君が骨になってしまってから、知ったのだ。
 君はだれかの命をこの身で助けんと、白い鎧を纏った戦士。
 眠らず、休まず、あらゆる君を犠牲にして、病魔の巣窟を征く天使。
 慈しみ深きサンタマリア。美しくも儚い君の命は尊いなにかを救ったか?
 嗚呼、友よ。いま、僕は何を恨むべきか。
 時と共に忘れ去られる同情が、権力の絡みついた美談が、君の息を吹き返すか。
 残されたこの世界の何を集めれば、君の功績は意味を生み出すか。
 遺影の中で微笑む君が最後に何を思ったか。
 空の棺桶にはもう、何の答えも残されていないのだよ。
 嗚呼、友よ。いま、君はもういないのだ。
 つらかったろう。おそろしかったろう。
 迫りくる死の影に、君はひとりで立ち向かい、そしてひとりで力尽きたのだね。
 声をかけてやれば、どんなに安心しただろう。
 手を握ってやれば、どんなに楽に眠れただろう。
 傍にいてやれば、何かを憎まずにすんだだろう。
 嗚呼、友よ。いま、君のために僕は泣こう。
 病の戦線に斃れた殉職者である君のために。
 未来を投げ打ち人類の希望となった君のために。
 ああ。ああ。友よ。この世にたったひとりのおまえよ!


 僕の涙は君を包んだビニールに弾かれて、君の素肌まで届かずに消えた。

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