米商務省産業安全保障局(BIS)、アップデートカンファレンス基調講演 輸出規制の展望

国家安全保障と高度産業技術に関する問題を取り扱い、米国の輸出拡大と大量破壊兵器の拡散防止を図る米商務省産業安全保障局(BIS)は、3月27日から29日にかけてBISアップデートカンファレンスを開催した。

BISが公表したアレン・F・エステベス産業安全保障担当商務次官による基調講演の要約は次のとおり。


輸出規制の進化

BISは十数年にわたり、国家安全保障とテクノロジー、通商を結びつけて活動してきた。

国家安全保障のツールとしての輸出管理の重要性の高まりは、軍事的に有用な技術の力学を反映している。1980年代、米国の研究開発は国防資金により推進され、半導体の主な買い手は国防総省だった。今はそれが逆転した。防衛産業のエコシステムは、有用なイノベーションを民間に求めている。

技術の急速な進歩を考えると、輸出規制は消極的であってはならない。輸出規制は、アクセスを妨害し、コストを増加させ、規制を回避する取り組みに対抗することを目的としている。

BISはロシアと中国の脅威に対抗し、より安全なサプライチェーンの形成を支援し、多国間関係を強化するため、国際パートナーと緊密に連携してきた。輸出管理は他国と協力する時、最も効率的に機能する。

ロシアとウクライナ

BISは、ロシアの本格的なウクライナ侵攻に対抗するため、38の同盟国やパートナーと連携し、広範な輸出規制を課す積極的な行動をとっている。侵攻開始時点では米露の貿易量が比較的小さかったため、この多国間アプローチは極めて重要だった。

2022年2月24日から2023年12月31日まで、輸出執行局(OEE)はロシア向けの559件の貨物(総額2億8,400万ドル以上)を差し止めた。また、ロシア、中国及びイランへの迂回に関する捜査を優先するため、破壊的技術ストライクフォースを立ち上げた。

また、エンティティリストを活用してロシアの物資入手を制限するだけでなく、第三国のエンティティも制限している。 2022 年 3 月以降、900 件以上のエンティティ リストが追加され、そのうち 636 件がロシア、29 件がベラルーシ、 250 件が 30 以上の第三国である。

BISはロシアが輸出管理を回避するためのネットワーク構築に乗り出すよう仕向け、同盟国やパートナーと協力して、これらネットワークを発見して、破壊するために行動してきた。

そして、BISは国務省や財務省、民間部門と連携して、ロシアが米国の半導体産業にアクセスできないよう制限している。

中国

政府の国家安全保障戦略と情報機関の年次脅威評価が明らかにしているように、中国は米国の価値観と安全保障上の利益に対する最も重大な挑戦となっている。

しかし、ロシアと中国との関係は大きく異なる。米中間には国家安全保障上の懸念を伴わない相当量の貿易が存在しているので、可能な限り関与を続けることが国益に通じる。

輸出規制は国家安全保障の手段であって、経済的保護主義の手段ではない。BISは中国が軍事力増強と人権侵害を進めるために入手しようとしている品目を輸出規制するよう求めている。

そこで、2022年10月に主要な重要技術と新興テクノロジーに関する規制を導入した。ついで23年10月には規制を改正し、有効性を評価する作業を続けている。BISはこれら規制が、結果として、米国の技術面でのリーダーシップを損なう可能性があることを理解している。現政権は同盟国と協調しながら、米国が孤立しないようにすることを最優先としている。

中国に関するエンティティリストは、現政権で300以上を追加した。軍事目的や人権侵害の組織に加え、ロシアの軍需産業基盤を支援する100以上の組織も含まれる。

BISは2023年4月、華為技術向けの輸出管理規則(EAR)に違反したシーゲート・テクノロジー社に3億ドルの罰金を課した。これは単独の罰金では史上最高額となる。

BISは2023年、司法省と協力して破壊的技術ストライクフォースを設立した。同部隊はワシントンDCでの政府機関間の情報支援を受けて、全国17か所に捜査官と検察官を配置し、違法な調達ネットワークに対する捜査を行なっている。

今年1月には、4人の中国人が、最終的にはイランのイスラム革命防衛隊に米国製の電子部品を不正輸出するという長年の活動を摘発し、起訴した。

進化する国家安全保障へのアプローチ

BISのアプローチは次のように進化してきた。

第一に、戦略的な観点から輸出管理を考えている。
第二に、過去数年間にわたり、同盟国やパートナーと精力的に関与してきた。
第三に、ライセンスの適用に戦略的アプローチを採用している一方で、個別の関係者に対処・法執行している。
第四に、輸出規制と並行して、新旧様々な手段を活用して、多角的に国家安全保障を推進する。

将来に向けたBISの取り組み

BISは次のような問題点を抱えている。

  • インフレ調整後、BISの中核的輸出管理機能に対する予算は2010年以来ほぼ横ばい

  • しかし、同じ期間に、米国の輸出総額は約 62 パーセント増加し、BIS ライセンス要件の対象となる輸出は 2014 年以来約 126 パーセント増加

  • BISのライセンス業務は、2012 年の年間約 20,000 件から 2 倍になり、年間 40,000 件以上

  • BIS の法執行機関は、年間 3,000 万件以上の輸出取引を監視し、全世界からの脅威に対抗するための職員は150名

  • BIS職員は、ライセンスの審査と執行業務の両方において、 2006 年と 2008 年に導入された時代遅れのシステムに依存


本記事は、日本で初めての経済安全保障ニュースサイト「Seculligence|セキュリジェンス」がお届けしています。2024年のサイト公開まで、noteで記事を配信していきます。