見出し画像

【腸内細菌】大坂の陣に学ぶ、腸粘液層の重要性

X(Twitter)で少し前に投稿したポストに思った以上の反響をいただいたので少しばかり深掘りしたい。

引用元はシンバイオシス研究所(@shinbiosis)さんのポストで、
「Akkermansia muciniphilaは食物繊維欠乏マウスにおいて食物アレルギーを悪化させる」ことをグラフデータを添付して、腸内細菌と食物アレルギーの関連性について投稿されています。

犬猫にも食物アレルギーはあって、むしろ積極的に診断・治療を行っているうちに腸内細菌叢(腸内フローラ)が重要であるとの認識に辿り着いた私としては、決してマウントとかではなく!只々この行間を埋めたい欲求にかられて、引用ポストを行った次第です。(本当ですよ!笑)

食物アレルギーとディスバイオーシスを繋ぐキーワードには、制御性T細胞を活性化する酪酸、そしてそれを産生する酪酸菌が有名ですが、実は粘液層もとても重要な役割をもっています
今回はそのあたりを、戦国時代の合戦に見立てて解説したいと思います。


食物繊維と腸内細菌のただならぬ関係

上記のポストのとても分かりやすい図解がこちら。

『すべての臨床医が知っておきたい腸内細菌叢(内藤裕二著 羊土社)』より引用

食物繊維が少ないと、粘液層が薄くなってしまい、粘膜に達する腸内病原菌が多くなっているのが見て取れますね。
これは粘膜からの分泌が減っているのではなく、本来食物繊維を餌にしている腸内細菌が、食物繊維不足だと粘液糖タンパクを食べてしまうからだということが分かっています。

《食物繊維は腸内細菌の餌になって健康に良い》というのはよく聞く話ですが、むしろ摂らないことが病気の元であると言えるレベルです。

図にアレルゲン物質は記載されていませんが、重要なのは粘液層が腸粘膜を守るバリアになっているということで、粘液層が薄くなると、アレルゲン物質を含むあらゆる成分が、粘膜に届きやすくなることを示しています。

粘液層を城の構造に例えると?

合戦に例えるなら腸粘膜は城壁です。
病原体、アレルゲン物質はそれぞれ、"兵士(足軽)"と"火薬”でしょうか。
敵兵が城壁を越えて侵入することはつまり《細菌感染》で、火薬による破壊は《炎症》を意味します。

籠城する側としては、城壁に近づいてほしくないし、火薬が飛んでこない距離まで離れて欲しいですよね。ではその役割をしている粘液層は…?

そう、【堀】です!(正解!)

大阪城と堀

日本の多くの城にはその周囲を囲う堀がありますが、その目的は『敵の侵入を困難にすること』です。
道頓堀ダイブでも危険なのに、幅も広く深さも分からない堀に、甲冑を纏って飛び込むとか、正気の沙汰じゃないですよね。
当然、武将も兵を無駄死にさせるだけだと知っているので無闇矢鱈に攻め入りません。(今程の射程距離のない)鉄砲も石垣に阻まれて城の本丸にダメージを与えるには及びません。
堀は城を守るのに欠かせない構造なのです。

そして同じく、粘液層も腸粘膜を守るのに欠かせない構造です。

粘液層が分厚ければ、病原体もアレルゲン物質も腸粘膜まで届きません。

ちなみに、私は免疫力とは『籠城戦の強さ』だと思っていて、要は病原体がいなくなる(撤退する)まで侵入を許さなければ勝ちです。
逆に除菌やワクチンで抗体を作るなど<病原体を倒す>方策は『野戦』ですが、全軍出陣して城を空にするのは捨て身の策で、敵の先鋒を叩く程度にしておくのが無難です。理想は"難攻不落"。この話はまたいずれ。

堀を攻略したあの合戦

(※注:私の歴史知識は漫画とゲームと少しばかりの大河ドラマ程度のものなので、ガチ歴史勢の方はご容赦を。)

堀を破壊したことで難攻不落の城を落城させた合戦といえば、
大坂の陣】です。

冬の陣?いや夏の陣?
分からない人はレキシの『真田記念日』で勉強しましょう(名曲です♪)

大坂の陣(おおさかのじん)は、江戸幕府と豊臣家(羽柴宗家)との間で行われた合戦。大の陣とも表記する。大坂の役(おおさかのえき)とも呼ばれている。 慶長19年(1614年)の大坂冬の陣(おおさかふゆのじん)と、慶長20年(1615年)の大坂夏の陣(おおさかなつのじん)から成る。

Wikipedia[大坂の陣]より

徳川家康の幕府軍による大坂城への包囲戦で、大坂城は炎上落城し豊臣家の滅亡に至る戦国時代最後の大合戦ですね。

先の冬の陣(和議による終戦)後、講和内容に「二の丸、三の丸を破壊し、惣構の南堀、西堀、東堀を埋めること」がある。
習慣的には、大抵は堀の一部を埋めたり土塁の角を崩すだけ、外周の外堀だけを埋めるという儀礼的なものですが、徳川側はこれをすべて埋めてしまいます。

これは後の夏の陣への準備で、堀を失った大坂城の防御力はガタ落ちします。豊臣方は籠城戦では勝つ見込みが無いと判断、総大将の首を討つ機会のある野戦にて徳川軍との決戦を挑むことになり、敢え無く敗れてしまうのです。

大坂夏の陣図屏風、城右側に堀がない

粘液層を壊させるな

合戦の勝敗は財力、武力や戦略、政治的背景など様々な要因があって、堀の有無だけで決まるものではないでしょうが、それでも兵は溺死を恐れることなく攻め入ることができ、火器の射程距離が近づいたことは相手に脅威になったでしょう。

そう、粘液層を失うことは病原菌やアレルゲンの腸粘膜へ侵入を促し、腸管免疫を活性化、炎症を引き起こすことを容易にします。

一過性の炎症なら、また修復して健康を取り戻せます。
良くないのは粘液層の菲薄化が常態化して常に病原体やアレルゲンに暴露されている場合。
慢性炎症が惹起され、炎症による組織損傷と修復へのエネルギー消費を繰り返し消耗していきます。

どうすれば良いでしょうか?

まずは食物繊維をしっかり摂りましょう!特に水溶性食物繊維(いわゆるネバネバ食材)がオススメです。
そして食物アレルゲンが分かっている場合は摂取を控えること。
とにかく腸に優しくを心がけましょう。
粘液層という堀を作り、城の防御力を高めることが免疫力向上に繋がります。

戦略家の方なら、「粘液層を食べる菌を倒せば良いじゃないか」と思うかもしれませんね。
つまり抗生物質を使うこと。でもそれは悪手です。

抗生剤は悪玉菌だけをピンポイントで殺すことはできません。善玉菌も巻き込まれてしまいます。
謂わば《大量破壊兵器》、その先にあるのはディストピアならぬディスバイオーシスです。

ディスバイオーシスについての過去記事はコチラ⇧

野戦に討って出るのは最後の手段ですよ、まずは援軍を要請しましょう。
安易に抗生剤に頼るのではなく、まずは発酵食品やサプリメントで【善玉菌】を補う方が上策です。

腸内細菌は同盟関係です。
適切な距離を保ちつつ、友好関係の維持に努めましょうね。
敵に回すと身を滅ぼしますよ。

【参考書籍のご紹介】

すべての臨床医が知っておきたい腸内細菌叢(内藤裕二著 羊土社)

とても読みやすいので、臨床医でない方にもおススメです!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?