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風邪と漢方薬

 全国的に「かぜ薬」が不足しています。
 西洋薬も東洋薬も需要が供給を上回るような状況で、処方薬の一部には供給制限もかかっています。一時期より少しマシですが、まだ混沌とした状況は続いているように感じます。

 さて、「ゆっくり効いて体質を改善していく」というイメージを抱かれやすい漢方薬は、元々は急性期にこそ使われる治療手段でした。代表的な古典的医学書傷寒論しょうかんろんは主に急性疾患、特に感染症の治療を論ずる書物です。慢性疾患や体質改善はほぼ同時期に編纂された金匱要略きんきようりゃくに詳しく、これらを起点に様々な研究が重ねられ今日に至ります。

 もちろん中医学、漢方医学も万能ではありませんが、古典から理解して使いこなすことができれば、風邪のような病態には非常に切れ味鋭く高い効果を発揮します。 

 先日、1歳を目前に控えた娘が39℃を超える高熱を出したときには速やかに桂麻各半湯けいまかくはんとうを与えました。抗炎症効果および体温のセットポイントを下げる働きのある石膏を少量加え、桂麻各半湯加石膏として2回飲ませたところ、翌日には解熱し、石膏を除いて1回飲ませると、咳は残るものの相当に回復しました。RSウィルス感染のようでしたが、その後は特に薬を使わずに4, 5日で全快に至りました。

 次いで発熱したのは息子です。
 月曜の午後に39℃の熱で保育園から呼び出しがかかり、その足で小児科に連れて行って検査で某感染症ではないことを確認。治療方針は大きく変わりませんが感染予防の観点から保育園や職場に影響があるため、一応調べます。

 ここからは漢方の出番です。

 低月齢期のひどい夜泣きの頃から漢方を駆使してきましたから、息子も漢方には慣れたものです。

 娘と同様に、小児の風邪に頻用されるアレでいこうかと息子に提案します。

「今日は桂麻各半湯なんてどう?」

「うーん、ちょっとちがうかな。かっこんとうかせんきゅーしん!がいい。」

「ああ、葛根湯加川芎辛夷かっこんとうかせんきゅうしんい?いいよ。」

 逆に提案されました。

 しかも結構良いチョイス。

 桂麻各半湯は「桂枝湯」と「麻黄湯」を半分ずつ合わせた処方で、実証と虚証の間くらいの薬です。典型的には風邪の初期から数日経過した頃に用いる薬で、皮膚にかゆみを伴ったり熱がすっきりしないようなときに使います。

 そのときの息子はバリバリの実証(元気がある)。脈をとりますと、浮、実、数。熱がこもって汗をかいていない。それに頭が痛いようです。これは典型的な葛根湯の証です。

 では川芎辛夷は何かというと、これらは鼻に効く生薬です。副鼻腔炎に頻用される処方で、どちらかというと慢性期に使う薬ですが、急性期にも応用可能です。

 なんかちょっと鼻声の息子。鼻水は出ていませんが、鼻詰まりがあるようです。


 結局、息子の提案を了承して葛根湯加川芎辛夷を飲ませました。ちょっと辛いね、といいながら飲み干す息子。翌日火曜日には解熱し始めて、水曜朝にはすっかり元通り。保育園に行くことが出来ました。


 漢方薬とて薬ですから、適当に使うと危ないこともあります。上手に使いこなせれば、これほど心強いことはありません。

 …熱、下がって良かった。


 拙文に最後までお付き合い頂き誠にありがとうございました。願わくは、季節の変化に負けずに貴方の健康が保たれますように。


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