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【レビュー】 映画 『石だん』

岡山の児島を舞台にした映画『石だん』(桑田浩一監督)を観た。
「児島を盛り上げたい」という監督の思いが詰まった作品だ。

主人公の女子高生、木村なつき(福井柑奈)は「歌手になりたい」という夢を母親に反対され、苛立つ気持ちを学校の不良グループと付き合うことで晴らそうとしていた。

ストーリーは、病に侵されながら「児島八十八ヶ所巡り」をしている中年の男、片山勤(大滝明利)が、なつきたちにからまれ、怪我をするところから始まる。

各地の寺社を周り、御朱印を集めることが趣味の自分にとって、まずこの「児島八十八ヶ所巡り」が興味深かった。お遍路と言えば四国が本場だが、江戸時代、四国に行くお金や体力がない人たちのために、四国八十八ヶ所の距離を短くしたミニ霊場として作られたのだという。

もちろん映画にもいくつかの寺が登場するが、中でも印象的だったのが、般若院奥の院である。イチョウの葉が降り積もった神秘的な光景を、ぜひ実際に見てみたいと思った。

さてストーリーは、最悪の形で出会ったなつきと片山が、思いがけず巡礼を共にすることになり、次第になつきの気持ちに変化が生まれるという展開。

二人がなぜ八十八ヶ所を一緒に周ることになったのか。
無事周りきることができるのか。
そして、なつきの夢の行方は。
そこはご自身の目で確かめてほしい。

児島の美しい風景と共に、シンプルな中に訴えるものがすっと心に染み込んでくるような作品だった。

「夢」と言うと、何だか青臭い気がして敬遠する人もいるかもしれない。
しかし、自分自身に深いところで問いかけたら、程度の違いはあるにせよ、誰にだってこの世を去るまでに叶えたいこと、成し遂げたいことがあるのではないだろうか。
ストーリーの最後の片山の言葉は、なつきにかけたものでもあるし、観ている私たちにかけられたものでもあったように思う。

先が見通せない。
そんな時代だが、いや、そんな時代だからこそ、自分の夢に向かって、一歩一歩進んでいきたいものである。
そう、「石だん」を一段一段登っていくように。


追記(2022.06.13)
映画『石だん』が「ハンブルク日本映画祭賞」を受賞されました!
おめでとうございます。

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