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映像翻訳者が厳選! ネット配信サービスでいますぐ観られる「 グッドバイブスな洋画10選」 【はじめに】

2019年2月に開催された第91回アカデミー賞で『ROMA/ローマ』というメキシコの作品が10部門でノミネートされ、監督賞、撮影賞、外国語映画賞を受賞して大きな話題になりました。というのも、この映画はネットフリックスによって制作されたものだったからです。動画配信サービスのオリジナル作品が賞レースに名を連ねるのはアメリカのアカデミー賞史上、はじめてのことでした。

ここ数十年で、映画を観る環境は大きく変わりました。私が若かったころ、アメリカで公開されたハリウッドの話題作が日本で上映されるまでには、半年から1年近く待つのがあたりまえでした。ヨーロッパのアート系のものになるとさらに忍耐が必要で、好きな監督の新作の噂を映画雑誌で知っても、それがミニシアターなどで上映されるまでに何年も待たされることさえありました。

そんな状況のなか、30年ほど前からピデオよりもはるかに映像がきれいで音のいいレーザーディスクが登場し、それがDVD、ブルーレイへと進化していきます。同じころ、BSやCSでは映画を専門に放映するチャンネルも増えはじめ、家庭向けの音響設備や大型テレビの普及も手伝って、ホームシアターという言葉が聞かれるようになりました。このころから、映画は家でも十分に楽しめるものに変わっていきます。

さらにここ数年のあいだに、インターネットを使った定額制の動画配信サービスが次々と登場し、気がつけば、パソコンやスマホでも気軽に映画を観られる時代になりました。

『ROMA/ローマ』のオスカー受賞は、まさに、そんなメディアの変遷を象徴する出来事だったのです。

私はもともと「映画はスクリーンで観るべき」というこだわりをもっていました。90年代のミニシアター全盛期には、新作の情報を雑誌『ぴあ』で調べあげ、毎週のように都内の映画館をハシゴして、年に100本以上はスクリーンで観ていました。本数はともかく、当時はこれが特別なことではなく、そうしなければハリウッド以外の作品を観る手段がほとんどなかったのです。

いまでもそのポリシーを捨てたわけではありません。ですがここ数年で、そこまでこだわらなくてもいいかもしれない、と思うようになりました。なぜなら、ネットフリックスのような配信サービスで検索してみると、ハリウッドの大作から、かつて私がミニシアターで観ていた「単館系」と呼ばれるマニアックな作品まで、驚くほどラインナップが充実していたからです。

20年前にミニシアターでしか観る機会のなかった映画は、たとえどんなにいい作品でも上映期間が終われば忘れ去られてしまいます。そのあとDVDなどで発売されたとしても一部のマニアしか買いませんし、廃盤になってしまったものも少なくありません。

でもいまは配信サイトでパパっと検索すれば、マニアックな作品でもかなりの確率で見つけられます。スクリーンで観ることにこだわらなければ、大好きな作品をいつでも繰り返し観ることができるのです。

こうして便利になった世の中の恩恵にあずかり、いまでは私もなつかしい作品をネットからどんどん掘り出しては家で楽しむようになりました。

好きな映画を好きなときに好きなところで観る!

これが現代の映画鑑賞のスタイルなのです。

ただ、自分であれこれ検索するうちに、それほど映画にくわしくない人の場合、出会える作品には限りがあることに気づきました。マイナーでもすばらしい作品はたくさんあります。でもその存在を知らなければ、なかなかたどりつくことはできません。そこで「山ほど映画を観てきた私なら役に立てるかもしれない!」と考えました。

しかも私は映像翻訳の仕事をしています。映画ファンとしての視点と翻訳者としての経験、この両方を使って「ネット配信でいますぐ観られる洋画10選」を書いてみたいと思ったのです。

ところが、実際に選び始めてみると、星の数ほどある作品の中からおすすめの10本を厳選することは、想像以上に難しいことがわかりました。

そういえば私は「これまで観た中でいちばん好きな映画は何?」と聞かれるたびにいつも答えに困っていました。なぜならば「いちばん好き」な映画がたくさんありすぎるからです。

おそらく「生涯で好きな映画ベスト10を教えて」と言われたら、多くの映画ファンが私と同じように悩むはずです。ですから、選ぶためにはジャンルや時代や国別など、何らかの「縛り」が必要だと思いました。

私がたまらなく好きな映画の中には、とても重いテーマだったり、あまりに衝撃的すぎて、観おわってからしばらくは、日常に戻れなかったりする作品もあります。スクリーンではなく、お茶の間で楽しんでもらうことを想像すると、暗めの作品をあえて紹介するのもどうかと思います。何かこのブログにふさわしいテーマはないかとあれこれ考えるうちに、2年前に出会った1冊の本のことを思い出しました。

それは、倉園佳三さんの『グッドバイブス ご機嫌な仕事』です。

この本で倉園さんは、右肩上がりの成長志向がよしとされる社会のなかで、つねに競争を強いられ自分らしさを見失いがちな人や、未来への漠然とした不安から、けっしてしあわせとは思えない現状から抜け出せずにいる人など、生きづらさを感じているあらゆる人たちに向けて「本来の自分を取り戻し、平安に日々を過ごす。グッドバイブスで生きる」ためのヒントをいろんな角度から提示してくれています。

そして、そこに書かれていることは、私がこれまでに心を打たれた映画に登場する人物たちの苦悩と、彼らが最後にたどり着く答えに通じるところがとても多いと気づいたのです。

倉園さんはよく「この本には、じつはあたりまえのことしか書いていない。だから同じことを言う人がいて当然だ。だって真理はひとつのはずだから」と言っています。

『グッドバイブス ご機嫌な仕事』は、私たちが「なんとなくそうかな」と思っていても、うまく表現できない大切なことを、倉園さんらしい語り口で見事に言語化してくれています。これはまさに、映画の監督や脚本家、役者や制作に関わる人たちが作品をとおして彼らの思いを表現するのと同じです。

というわけで、このブログでは『グッドバイブス ご機嫌な仕事』に書かれたテーマに共通するメッセージをもつ映画のなかから、興味をもったらすぐにネット配信サービスで観ることができるものを紹介していきます。

あなたがグッとくる映画に出会えますように!

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