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届かない声を届かせる方法、それは覚悟ー山川冬樹・個展「Frozen Screams 凍れる叫声」のライブパフォーマンスを観て感じたこと


届かない声をどう届かせるか、そこに覚悟はあるか。


山川冬樹・個展「Frozen Screams 凍れる叫声」は個展開催日に拝見しに行った。とても楽しみにしていた。なぜなら、最近の私のブームは「言葉の可視化」だからである。今回の作品の可視化の方法はいつもと違う。山川冬樹といえばパフォーマンスだったはずなのに、今回は「絵画」である。」

カンヴァスを支持体としてではなく「共鳴体」として扱い、大理石の粒子を敷いた画布に社会的・政治的文脈で発せられた人間の叫び声を響かせ、 その振動から現れた模様を樹脂で固めるという手法によって作品を制作します。

私にとって山川冬樹さんの作品は特別だ。それは私が瀬戸内国際芸術祭で大島作品を拝見したことがきっかけだ。

2022年、私は9年の東南アジア生活を終えて日本に本帰国した。後半はマレーシアで厳しめのロックダウンを経験した私は、2019年に大島を訪れた自分を心から誉めていた。なぜなら、大島を訪れていなかったら私の中で感染症に対する考え方、というか感染症に関わった人とはという考え方が劇的に変化したと思われるからだ。


ロックダウンといういわゆる「隔離される側」を体験した私は、感染症に関わる人たちの考え方を「隔離される側」から考えるようになった。その声がいくら届かないとわかっていても。


今回のこの個展は、「Frozen Scream #8 彼女の姉は名古屋入管で殺された。そのショックで彼女は立っていることができずに倒れこんだ。そして報道陣のカメラに向かって指をさして叫んだ。「今回は姉だったが、次はあなたたちの番だ」から製作されたとのこと。


ウィシュマさん死亡事件に関しても、私は個人的にとても心揺さぶられることがあった。なぜなら私自身、マレーシアで自分で入管に行ってVISAの申請、更新を行っていて、入管という場所にとても恐怖を抱いていたからだ。

入管での対応というのは正直どこの国でも恐ろしいほどに理不尽である。同時に入管の対応というのは場所、時間、そして同行する人によってコロコロ変わる。私自身も「え!なんで!前と言ってること違うじゃん!」と呆然としたことは数えきれないほどあった。

今年の10月、11月。寝ている最中「VISA更新の書類が足りない!!」と冷や汗をかいてガバッ!!!と何度も起きた。いきなり「VISA更新の手続きしてない!」と目眩がしたりした。そしてああ、もう入管に行かなくていいんだと気がついたら涙が出た。

もちろん本帰国してるのだから、何もすることなどない。でも更新時期には正直うなされた。今は1月なので、その症状はない。

私は結果的に更新がリジェクトされたこともないし、リジェクトに備えて当時の息子の学校の校長先生がレターも用意してくれたし、一緒に動いてくれたエージェントのマレーシア人は素晴らしく良い仕事をしてくれた。つまり、結果的には私は入管で酷い目にあったことはないのだ。でも、震えてしまうほどのダメージがあるのが入管だ。


正直、初回の訪問でこちらの作品を拝見した時、私自身はこの叫びの可視化に対して自分がどう受け止めればいいのか、入管に対する恐怖感が先に走ってしまって思考が逃げてしまっていたような感があった。
なのでこちらの作品の前でLiveパフォーマンスがあると聞いてこれは絶対に参加せねば!と思って速攻で参加表明した。


さて、パフォーマンス当日。


とても少人数の会場。どのようなスタイルになるのか、予習せずに参加した。

パフォーマンスはギャラリーオーナーの窪田さんが「大体1時間弱」と言った時に山川さんが「もっと短いです」とすぐに訂正した。
その答えの意味は終了後、よーくわかった。

あのパフォーマンスを1時間やったら、身が砕ける。

後日、配信があるそうなのでその配信をここに貼るとして、私自身の感想の動きを記録しておきたい。


<配信が開始されたらここに動画貼ります>


サンプリング機器がセットされたステージ。緊張感の中、パフォーマンス開始。最初は「叫び」の朗読と実際の叫びのシンクロ。実際の叫びを聞くと、胸が締め付けられる。そして叫びをサンプリングしたパフォーマンスが始まる。このような設備のアートパフォーマンスが未体験な訳ではないので、最初は正直そこまでの驚きはなかった。ただ、叫びを実際に聞くと可視化された叫びと音という五感中二感を刺激されるので、正直とてもしんどくなった。

同時に、この叫びはこのパフォーマンスの中でどのように成仏できるのかを考えると胸が苦しくなった。

そしてこの二感(視覚と聴覚)の間接的刺激の中のパフォーマンスなのかと思ったら、そこに山川さん自身の新たなる別の打撃が加わった。

この山川さんの間接的打撃は予想していなかったので正直驚いた。同時に山川さんがパフォーマーとしてこの打撃を行う様を二感の刺激の中で行うことで「この叫びについて向き合う覚悟があなたにはあるか?俺は行動してるぞ!」という覚悟感というか責任を背負った決心というか、この作品を世に出すんだぞという決意が直接的にこちらに響いてきた。

私は個展初日に「届かない声を可視化したら届くのかな、でも届かないのが現状だよな」と思い諦めを感じながら帰った。このパフォーマンスを体感しながらあの時諦めを感じた自分を心から恥じた。
この叫びが届かないってわかってるのならなぜ行動しない?と問われてるような気がした。


二感の刺激の中での新たなる別の打撃のパフォーマンスに圧倒された後、山川さんからのトークで最後、ウィシュマさんの妹さんの実際の叫びを皆で拝見してライブは終了。圧倒されたパフォーマンスのすぐ後でのニュースの動画の鑑賞は「これは現実なんだ」という突きつけ感があり、深く考えさせられた。


「それ、Chim↑pomの服だね!」と速攻で反応してくれて嬉しかったそうです。

表現に対しての覚悟、そしてその表現を鑑賞する私たちの覚悟について再度深く考えてみたいと感じた素晴らしい体験だった。
ぜひ個展にも足をお運びください。2月10日迄です。




最後に、山川冬樹さんの作品でぜひおすすめしたい動画を紹介したい、

実は、私と息子はこの作品の撮影のための村山悟郎チームに船で遭遇した。「あー悟郎くんみたいな大きな人がいるなー」と思ったらご本人でびっくりした。

山川さんとこの動画の話をした際、山川さんが「船に乗る際、悟郎くんが知り合いに会うかもって言ってました」って話していて思わず「それ私達です」って言ってしまった😅。

引用:大島_男木島 Inter-Island Timescapes

こちらの動画でのパフォーマンスも素晴らしいのだけど、後半部分の語りの部分も素晴らしいのでぜひ見てほしい。表現の後に表現をどう紡いていくか、表現はどう紡がれていくかの語りの部分はとても印象に残った。

現在はコロナの流行の波があるので、大島そのものになかなか行けないのが現状。2022年10月、大島行きを決意して決行した自分を自分で褒めたい。