サリンジャー 生涯91年の真実

書影

このサリンジャーの、600ページ超におよぶ伝記について、どのように感想noteを書こうかといろいろ考えてみたところ「読みながらとったメモをもう少しわかりやすくして、そのまま書いてみよう」ということになった。

まず、これまでの読書感想noteのリンクを列記してみる。「キャッチャー」~「ハプワース(このサンドイッチ)」は原著が出版された順番。日本語で読めるものは、ほぼすべて読んでいると思う。

キャッチャー・イン・ザ・ライ
https://note.com/seishinkoji/n/nc68eddbaf5d1

ナイン・ストーリーズ
https://note.com/seishinkoji/n/nc2ca9a4dd097

フラニーとズーイ
https://note.com/seishinkoji/n/nbf9bc5024e7f

大工よ、屋根の梁を高く上げよ シーモア―序章―
https://note.com/seishinkoji/n/n445e2914e9fe

このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる ハプワース16、1924年
https://note.com/seishinkoji/n/n7d22a211bfc2

小説以外では、

翻訳夜話2 サリンジャー戦記
https://note.com/seishinkoji/n/nedb1b948fe04

映画「ライ麦畑の反逆児」
https://note.com/seishinkoji/n/nbc33d6c99ad8
※この映画は今回のnoteで以下に語る本書を原作として作られた

最後に「僕なりのサリンジャーの楽しみ方!」書いています。

*****

そして、本書(伝記)の感想の前にいくつかの注意点(前置きが長くてすみません…)

【注意点】
・およそ「 」の中は小説のタイトルや、短篇集(もしくは中篇集)のタイトルを示す
・【 】の中はこのnoteを書いている僕(=誠心)の思ったこと
・①などは章の数字に相当(飛ばしている章もあります)
・25などはページ数のこと
・--- はその章に書かれている概要(主観で拾ったもの)
・「ナイン・ストーリーズ」と「フラニーとゾーイー」等に含まれる短篇のタイトル訳は、このnoteでは野崎孝訳のもので記載(ナイン~は柴田元幸訳もあり、フラニー~は村上春樹訳もある ※ちなみに僕は柴田訳と村上訳のそれぞれでしか読んでいない)【例】野崎は「バナナフィッシュにうってつけの日」と訳し、柴田は「バナナフィッシュ日和」と訳した。野崎は「ゾーイー」と訳し、村上は「ズーイ」と訳した。

それでは以下に、感想やメモ、です。

① 坊や(サニー)
25 サリンジャーと母親の強固な絆
49 フィッツジェラルドに共感(逆にヘミングウェイにはいつも反発)

② 抱いた夢
54 作品の中の、著者のエゴを覆い隠す大切さ

⑤ 地獄
--- この章が最長。戦争でも書き続ける凄み【この本全体は、自伝というより短篇解説も多くマニアック。いろんな作品同士の関わり合いも明確。研究し尽くされている】
188 戦争は宗教の覚醒の場
219 終戦。書く力。兵士たちに書いた「キャッチャー・イン・ザ・ライ(以後:キャッチャー)」のラストシーンと、ホールデンの語る打ち明け話について。

⑦ 自立
--- 「ナイン・ストーリーズ」の各作品とニューヨーカー誌への掲載について
255 静かな新居へ引っ越し
260 「バナナフィッシュにうってつけの日(ナイン・ストーリーズに収録)」好評(ニューヨーカー誌に)

⑧ 再確認
--- 【この本は全体的に、作者がサリンジャーの肩をもちすぎている感じがある(訳者もその点はあとがきで指摘している)】
281 成功してかけてバランスを失う(?)
282 ヘミングウェイ批判と謙虚と、自分と作品を分ける姿勢(↑054同様に)
284 うっかり教祖化されて以後うんざりする【サリンジャーの良いところだと感じる】
289 「エズミに捧ぐ-愛と汚辱のうちに(ナイン・ストーリーズに収録)」は、軍人に向けての作品

⑨ ホールデン
--- 【全体的にいろんな短篇との結びつきが書かれているし「キャッチャー」はお清め的な作品、もわかるが切り口が理屈っぽい。村上春樹&柴田元幸解説はもっとすっと入ってきたのだが】(上記の「翻訳夜話2」のURLをご参照)
295 「キャッチャー」執筆のために禅をとりいれる
300 戦地を旅したサリンジャーの原稿
305 宣伝と瞑想は相いれない
324 「キャッチャー」の神髄

⑩ 十字路
336 質素を好む生活へ
339 理性とは宗教(恋を遠ざけようとして宗教をとり入れる)
344 「キャッチャー」以後はアメリカにある空虚を題材とした宗教作品がメインとなっていく
349 謙虚と無私
350 尼僧は「ド・ドーミエ=スミスの青の時代(ナイン・ストーリーズに収録)」にも「キャッチャー」にも出てくる【母なるもの?↑025同様に】。「ド・ドーミエ=スミスの青の時代」は禅と悟りの物語。
363 執筆と瞑想の場所を確保
370 「テディ(ナイン・ストーリーズに収録)」は失敗作とみて今後はちゃんと印刷されうる宗教作品を…と意気込む

⑬ ふたつの家族
--- クレア(サリンジャーの一時の妻の一人)の孤独。サリンジャーの信仰にはついてゆけず。しかしサリンジャーは、1955年は理想の働き(書き)っぷり。
--- 【全体的に小説と自伝をつなぎあわせようとする意志が強い?エゴを覆い隠す姿勢とは矛盾?】

⑭ ゾーイー
434 「大工よ、屋根の梁を高く上げよ」のあとの「ゾーイー」だが宗教的抑制はもはや効かず(抑えようと意識はするが)。(グラース家の長篇小説は結局、最後まで書かれず)
【「大工よ、屋根の梁を高く上げよ」より「ゾーイー」の方がすばらしかったが<僕は村上春樹訳の「フラニーとズーイ」で「ズーイ(ゾーイー)」を読んだ>これは訳者の違いによるもの?or僕の宗教的観点から?】
442 クレアが家出から戻る。一緒に旅行してほしいなど条件を提示しサリンジャーは了承。
450 エゴが美を見失う
451 ゾーイーはホールデンを除けば最高の人物【共感】
455 チキンスープのありがたさ。離れること ※サリンジャーは自由を書くことで不自由になっている

⑮ シーモア
465 禁欲的隠遁者としてのサリンジャーへの神話性が世間で強くなる
466 1950年代、若者による「キャッチャー教」

⑯ 暗黒の頂き
--- 【「フラニーとゾーイー」は、当時は(当時だから)批判にさらされたのかもしれない。村上柴田のサリンジャー戦記(↑上の方のURLの先の)は最高】
→この16章でも最終的には「フラニーとゾーイー」は名著と締めくくられている

⑰ 孤立
525 文壇関係からのサリンジャーへの諸々のバッシングに対して、読者が味方してくれた

⑱ 別れ
--- 「ハプワース16、1924年」に向けて。「ハプワース16、1924年」自体も難解になってきている。1965年のこの作品は「作家としての」サリンジャーの自殺を意味するのかもしれない(以後、死ぬまでの45年間、サリンジャーは新作を発表しなかった)
--- 【晩年につれて、本書の解説が分析的で難解になってきている。作家の人生については知らない方がいいことも多くありそう。作品自体はディテールも楽しめるもの】
528 成功よりも祈り

⑲ 沈黙の詩
561 発表する気がなくても熱心に執筆を続ける。1970年代のアメリカでは自然信仰(生活・医療)が盛り上がり、サリンジャーの生きる姿勢が見直される
568 書き続けるが、発表しないでいると、すばらしい平安がある
569 発表とはプライヴァシーの侵害である
578 ジョン・レノン殺害(レノンの殺人犯はキャッチャーの愛読者で、殺害直後も地べたに座ってキャッチャーを読み始めた)以降のファンからの手紙にサリンジャーは不信感をいだく
587 彼の著作は彼の祈りだけの世界

⑳ ライ麦畑をやってきて
616 4行目~抜粋(本書最後の3行)「J・D・サリンジャーの人生の悲しみと未完成を、著作にこめられた思いとともに検証することによって、我われは自分自身の人生を再検討し、自分自身の人間関係を見なおし、自分自身の誠実さをたしかめてみなくてはならない。」

*****

【総じての感想】
やはりアーティスト「サリンジャー」は生涯、繊細であり、強烈な戦争体験を経て、へこんだまま、戻らないまま、生きたように僕には映る。
つきなみな言い方にはなるが、多くの彼の経験はそのトラウマのフィルターを介し、宗教やそれに類するもの救済を求めるが、見事にがんじがらめになり、自らを蝕んでいった。
途中でしばしば書いたけれど、村上さん柴田さんによるサリンジャーへの焦点の当て方の方が幾分おもしろかった。難しい話はそこそこにして、僕はぱらぱらと「ナイン・ストーリーズ」のいくつかの短篇を読み返したくなった。「バナナフィッシュにうってつけの日」はもちろん、「笑い男」なんかも。
本書の568ページにあるように「発表しない方が心の平安が得られる」という境地には、僕自身、強い関心をもった。
「騙されてはならないし、騙されたくない」
今後もサリンジャーとともに、僕はそのことを思い出すのだろう、と思う。

【僕なりのサリンジャーの楽しみ方!】
まず「キャッチャー・イン・ザ・ライ」を読む。そのあと余韻に浸る。なんならもう1回よんでみても良いです。次に「ナイン・ストーリーズ」を読む。おもしろさを感じつつ、首を傾げる部分も出てくるかもしれない。でもきっと、あとからじわじわきます、くる方には。そして次に「フラニーとズーイ」を読む。個人的には「ズーイ」が傑作です。(野崎孝訳は「大工よ、屋根の梁を高く上げよ」しか読んでいないけれど、翻訳からずいぶんと時間がたっているし色褪せた感もややあったので、キャッチャーは村上訳で、ナイン~は柴田訳、フラニー~は村上訳で読むのがおすすめかもしれない)そして一番最後に映画「ライ麦畑の反逆児」を観る。ここまで!(「大工よ~」以降は急に難解になってくる感じもあるので…)
あ!「翻訳夜話2 サリンジャー戦記」もとてもおもしろいですよ!
ご参考いただけますと幸いです m(_ _)m

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【著書紹介文】
『キャッチャー・イン・ザ・ライ』によって全世界的に知られる作家となったサリンジャー。1965年に最後の作品を発表して以降、沈黙を守りつづけ、2010年に91年の生涯を閉じた。
本書は死後初めてとなる伝記で、『ナイン・ストーリーズ』『フラニーとゾーイー』などの代表作をはじめ、単行本未収録の初期短編や未発表作品まで網羅的に紹介。同時に、ノルマンディー上陸作戦での従軍体験、ウーナ・オニールとの恋と破局、最初の結婚、出版社やマスコミとの軋轢……謎につつまれた私生活を詳らかにしていく。
膨大な資料を渉猟し、緻密な追跡調査を行い、さまざまな新事実をあきらかにしたサリンジャー評伝の決定版!

(著書紹介文と書影は https://www.shobunsha.co.jp より拝借いたしました)

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