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【後編】校長先生インタビュー 「10年先をみて、半歩先にいく改革を。」#ナガノ学校改革プロジェクトvol.3

こんにちは。NPO法人青春基地・代表の石黒和己です。今回は、この「ナガノ学校改革プロジェクト」で誰よりも外せない人物こと、長野市立長野中学・高校の菅沼校長先生にインタビューしています。

前編では、市立長野の校長に至るまで、どのような背景や思いがあったのかを辿ってきました。「教員は、実は最初から馴染まないのよ。」と笑うエピソードが印象的でした。(前編インタビューはこちら
後編では、生徒たちの主体性を育むには「実は教員側に反省すべきことがあるのでは?」と教育改革の核心にインタビューが進みます。「先生」のあり方をキーワードにしつつ、これからどうしていきたいか、展望を聞きました。

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写真:中央が菅沼校長先生。聞き手は、青春基地代表・石黒と、酒井。両サイドなんかちょっと似てます。

<菅沼尚・すがぬま たかし>
1956年9月18日長野県生まれ。63歳。2018年4月から市立長野中学校・高等学校校長。
最初の赴任校は、長野県立蓼科高校。その後県立長野高校、伊那北高校、中条高校など県内の公立高校で教諭や教頭・校長を担ってきた。専門教科は地歴・公民。また高校サッカーの指導者としても活躍し、長野県のJ3リーグAC長野パルセイロの前身である長野エルザの設立メンバーの一人でもある。2014年4月〜2018年3月では教育次長に就任し、文科省から出向していた教育長・伊藤学司さん(当時)とともに、長野県独自の新設科目「信州学」の設置などを通じて、地域と繋がった学びづくりを進め、よりよい学校の姿を模索してきた。

まず一番は、先生たちが探究を楽しむこと。

―ここからは、「これから」について聞かせてください。今これからに向けて、どう考えていますか。
すぐは難しいと思うけれど、一番は、一年間探究の時間を、先生方が楽しみながら、自分でどう関わるかを探っていくというところだと思います。

ー今は、変わっていくことの葛藤や難しさがたくさんありますね…。
青春基地との協働で改革をすすめていますが、やはり中心のストーリーは学校で描かないといけないわけで、そこにどう人が関わっていくかを組み立てなければいけないけど、まだまだ具体的に描けていないというのが正直なところ。まあ3年のうちかな。当然来年度はまた違う形に変えていかないと、と思っています。
そのなかでもまずは、探究の授業を面白いと思える先生がどれだけ増えるかだと思っています。社会の変化に応じて教育の流れとしては、探究中心になることは間違いないと思うんですよ。そこは自信を持っています。だとすれば、早く探究の方法を身につけた方が得じゃないですか。そこは私からのメッセージです。
ですから、できるだけスムーズにそちらの方向に持っていけるようにしないといけないのですが、まずは先生方が、楽しみながら探究できるかどうかです。

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学びは一人でやるんではなくて、他者と関係をむすびながらするもの。

―楽しむことは、私たちも何より大切にしていることです。ただ学校のなかにいると、なかなか先生たちが自由に楽しむというより、いろんなことに縛られていて大変だなあと苦労を目の当たりにしています。
縛られているねえ。特にこれまでは、先生の専門性や好きな分野よりも、生徒の進学を意識してそれに対応した「やらなくてはいけないこと」をいかに身につけさせるか、が大きかったんだと思います。
でもこれからは身につけさせるよりも、いかに「学びの魅力」を伝えるか。それをきっかけに「どう学ぶか」が身につけられればいいなと思います。

それから、学びは一人でやるんではなくて、他者と関係をつくりながら学んでいくことが、より大事になってくると思っています。
今、学問自体が単独では成り立たなくなってきていて、「つなぐ」部分が大切になってきていると思うけれど、学校のなかではそれが止まっちゃっていて、この「つなぐ」という発想をどれだけ持てるかどうかが我々自身の課題なのかなあ。

―つなぐ、ですか。
これとこれを結びつけると、こういう風になるみたいな発想があるじゃないですか。全く違った分野や人を、結びつけることで新しいものが生まれてくると思うんだけれど、教員自らそういう発想がなかなかできないですよね。

―やっぱり、特に高校だと「教科」が強いということがあるんでしょうか。教科一つひとつが縦割りになってますよね。
そうだねえ。教科という狭い世界だけに入っちゃってると、なかなか他のものと結びつけるという発想にはならないですよね。人の発想が変わるきっかけというは、自分自身の経験とか体験が大きくて、その幅を広げないとなかなか難しいですよね。

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―だから菅沼先生は現場に足をいっぱい運ぶのですか。学外の取り組みをいつも見に行かれているし、私たちとの授業も、ほかの先生を上回るくらい生徒と関わっていますよね(笑)
外に出かけると面白いなあと、ヒントがいっぱいあるなあと思っています。
これは我々の問題でもあるんだけど、学校に届く「外の情報」というのは進路関係の特定の塾や企業からの情報がほとんどなんですよ。もちろん学校のために届けてくれている情報なんだけど、やっぱり自分から取りに行く情報とは違うな、と感じますね。
たとえば、高大接続、大学入試改革などと色々言われていますが、自分で取りにいけば「ああこういうことなんだなあ」と理解できる。なかなか取りに行くのは大変だけれども、受け身の情報が全てだと思ってしまうのは大間違いだし、やっぱり受け身の情報はちょっと遅れているなって感じがしますね。

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将来の学校では、「学年」をなくしたい?

―今後の野望というか、具体的にこの学校が3年後こういう姿になっていたらいいなと考えていることはどんなことですか。
学年をなくすことかなあ。今後さらに個別最適化が進むのであれば、むしろ学年という区切りは関係ないのではとないかと思っています。ちょっと3年後は難しいと思うけれど、異年齢の協働学習をベースにして、学年をなくしていきたいなあ。

―異学年での学びですか。
そうそう、まず英語でやれないかなあと。英語こそ、スタートの時期も学習環境も個々によって大きく違うじゃないですか。実際に「学年ごとにやるのってどういう意味があるの?」と英語の先生に聞いてみたんですけど、「ないです」みたいなこと言うからさ。「じゃー、できないかな?」と話してますけど、まあどうなるかは分かりません(笑)

―たしかに、もともと学年ごとに区切るというシステムは、近代以降の人口増加のなかで、より効率的に教える環境が必要になってきて確立された制度でした。
この学校の「総合学科」という学校種は25年前にできた制度なんだけど、これは「個の選択」を尊重した新しい高校として生まれたものなんです。実際に普通科に比べて選択科目が多く、自分で選択できるようになっているけれど、さらに個の選択を豊かにするために、これ以上教科の選択肢を広げていくには、学校の中では限界がある。
だから「個の選択」の方法の一つとして、学年を外すことで、今あるリソースのなかで学校が余裕をもって多様性をつくれないかと。ただ当然、学外での学びも選択肢として入れて、幅を広げられないか考えていきたいですね。

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―「多様性」 これからの学校を考えるうえで、大事なキーワードですね。
今、学校のなかで起こっている問題って、もっと違う世界を知って、異年齢の人と交わる経験をすることで、解決できる問題も実はいっぱいあるんじゃないかって思うんです。
たとえば生徒たちの友人関係を見ていると、両方まずいなと思っていても動けないんだよね。それで最悪の状況まで至って、大人が入らないと解決できなくなる。
たぶん同じ価値観じゃないと一緒になれないみたいに思ってしまっているんだよね。でも、みんながみんな同じような価値観なんてありっこないわけで、いろいろな関係や価値観がある中でどうやっていくかが大事じゃないですか。この難しさは、多様な関係をつくっていけば、自分でいくらでも乗り越えていけるんじゃなかと思っています。

―ぜひ異学年での学び、やりましょう!生徒の多様性を、学年をまたぐことでつくるというのは、先ほどの「つなぐ」という学びとも繋がっていますね。
課題探究も異学年一緒にやる方が面白いかなと思っています。高校生だけじゃなくて、中学生も入れてみたいです。中学生のほうが案外縛られずに進められたりとか、年齢が上の子たちは、他学年がいるからこそリーダーシップを発揮したり、いろんな新しい動きが生まれそうだよね。中学、高校と学びがだんだんつながっていけるようになるといいなあと思っています。

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―では、これが最後の質問です。菅沼先生がずっと自由である秘訣、あるいは自由ゆえの悩みを教えてください。(笑)
ははは。わたしはとても普通だと思ってるんだけどねえ。ちょっと真面目な話、「10年先をみて、半歩先にいく」ということを言っています。常に、10年後はこうなるだろうから、それに向けてこの先こうやっていけばいいな、というのを具体的な動きにしなくては、と思っています。それを少しずつやってきたつもりでは、いるんだけどね。

しかし、ここんところ動きがめちゃくちゃ早いじゃないですか。150年ぶりの大改革期になってきているのは間違いないと思うので、ここをどう頑張るかが鍵だと思っています。
何故なら、その頑張り方次第で、教育に興味がある人たちが集まってくれる可能性があるんじゃないかと思うからです。これからは教員一人ひとりが頑張っただけではダメだというふうに思っていて、全国的に見ても、教育にエネルギーがあるところには、また人が集まるみたいなことがありますよね。つまり、市立長野高校だけよければいいのではなくて、長野市全体で魅力のある教育に向けて動き始めると、さらに魅力ある人たちが集まってきてくれると思うのです。

見本として先陣を切り、ここから新しい学びを広げてたい

―ここでの取り組みが、学校の中でこういう学びが実現できるんだという、スタンダードになっていけば本当に嬉しいですよね。
そうそう。他の学校がやりたいなと思った時に、たとえば信州大学や県立大学にちょっと声をかければ高校に関わっていけるように、うちが力になって広がっていけるといいですね。大切なのは、市立長野高校だけが良くなるんじゃなくて、うちでできた取り組みが、地域全体でどうできるかを考えていくことです。ここは市立ですが、県立の高校もふくめて考えていきたいところです。

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―知を開いていく、と。まさに私たちも、新しい教育のかたちの可能性を感じ、予算確保が十分でないままここでの3ヵ年プロジェクトを一念発起しています。ここから広がっていくことこそ、意味があると思っています!
ほんとですね。一つは見本として、先陣を切るべきだと思ってます。新しい当たり前をつくっていけたらいいなと思います。あとは違う高校の生徒同士が一緒にプロジェクトをやったり、新しい高校同士の関係が生まれていったらいいよねえ。

とくに、いわゆる「進学校」と言われている学校であっても、「国公立大学○○人合格」というような数字だけではなく、地域とのつながりとか、芸術とか、様々な領域で自分の長所を伸ばし、次のステージに進んでくれたらいいなと思っています。
だって「国公立、何人合格」なんて賞味期限が切れかかっていますよ。確実に年々価値が下がってます。たとえ国公立に入ったとしても人生保証されるわけでもないし、この枠組み自体が以前とは大きく変わってきています。この価値だけに頼っていたら、時代遅れです。そういう時代だと思います。

編集後記
NPO法人青春基地代表・石黒和己&酒井朝羽
子どもたちの可能性や、これからの時代における教育の重要性を誰よりも感じているからこそか、今回のインタビューでは、校長の力強い言葉にたくさん出会うことができました。「学年をなくしたい」という子どもの個を生かしたアイディアは、さっそく今後の課題探究において、まずは中学3年生と高校1年生の授業を合同でやってみようと動きが少しずつ生まれています。
本インタビューを実施した8月から半年ほどが過ぎて、学校改革の渦中では嬉しいニュースも、ちょっと大変な状況も起きていますが、このインタビューの校長の言葉に立ち返って、引き続き、試行錯誤を続けていきたいと思います。

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ナガノ学校PJ1

<ナガノ学校改革プロジェクト>
vol.1:教育学部生のわたしが教師にならなかった理由
vol.2:【前編】校長先生インタビュー「ある生徒が教えてくれた、改革の原点」
vol.3:【後編】校長先生インタビュー 「10年先をみて、半歩先にいく改革を。」



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