「AI(愛)は掌に」 第七話

「冗談だよー。じょーだんー。」

冗談と言いながらも、庄司はクネクネと体を動かし、時々照れるように顔を手で覆ったりする。
久楽は心底、庄司に対して嫌悪感にも似た、苦い目線を流石にぶつけるほかなかった。

庄司は久楽の目線に気付き、おどけた様子から比較的、真面目な顔に取り繕う。先程のパターンでは無いことを祈る久楽。
その久楽の表情を見ても、庄司の表情は変化させず「さすがに同じパターンはしないよ」と小さく呟いた。そして更に続ける。

「…顔も声も分からない相手に深入りは禁物だよ。文字なんていくらでも取り繕えるからね。」
「それは一体どういうこと…」

久楽の言葉が言い終える前に、むしろ自分の台詞を言った後には庄司は久楽から目線を外していた。
その視線の方向は会議室のドア。
久楽の「それは一体どういうことなのか」という問い掛けを言い終える前に、ドアは開き、部屋に次元が戻ってくる。

「お待たせしました。では、こちらのスマホと今月のバイト代ですね。」
「え?あ、ありがとうございます。」
「…庄司、お前何を話してたの?」

久楽の様子がおかしいと感じたのか、次元は庄司の方を見て問いただす。

「久楽君は実は男が好きなんじゃないか、を確かめてましたー」
「訳がわからんことを言うな。」
「テヘペロー。さてさて、久楽君、また来月に会おうねー。」

庄司はドアを開けて、久楽の退出を促す。その様子を見て久楽は、庄司はこの場に置いてこちらからの問い掛けに答えてはくれないのだろうと悟り、大人しく帰ろうとする。

「…失礼しました。また来月に。」
「えぇ、また来月に。」
「ばいばーいー。僕に会えないからって寂しくて泣いちゃダメだよー。」

ガチャン

庄司の台詞を聞き終える前に、ドアを閉める久楽。
それは久楽の庄司に対する不信感のあらわしなのか、それとも考え込み、自分の世界に入った故に周りの声が聞こえなかったのか…

「ついにツッコミの言葉さえも消えた…というか無視された…」

単純に庄司への対応が面倒臭くなったのか、それは誰にもわかることではなかった。
一つわかるのは、久楽のその対応によって両膝を地面につけて、ガックリと落ち込む庄司が存在すると言うことだけである。

「お前、何を喋ってたんだ?」
「久楽君は優しいなーって話です。ほら、久楽君がバイトをするって決めた時の話をしたんですよ。」
「あぁ、失言かましかけたお前に、しなくてもいい同情をした話な。」

「せんぱーい、もうちょっと僕の扱いを優しくしてくれません?いや、それは別にいいんですけど。久楽君は優しすぎるから、深入りしちゃいそうなんですよねー。ねー、先輩。何で喋っちゃいけないんですか?この仕事のこと。」
「それは今の所は社外秘だからって、説明したろ?」
「そーですけどー。」

次元の説明に納得しきれていない庄司は不満げな顔をする。

「何も知らないからこそ、データが取れるんだ…仕方ないんだよ。今は。」
「仕方ないっていう割には先輩も割り切れてませんよね。その顔。」
「ほっとけ。」

重い表情をする次元、頬を膨らませて不満げな顔をする庄司。
しばしの静寂が流れる一室。

静寂を切り裂くノック音が部屋に響く。
ドアを開けて入ってきたのは、尾上である。

「次元さん、バイトをしたいという方がいらしてますが…」
「ん?あぁ、通して下さい。」

尾上は了承したと頭を下げて、意思表示をする。そして、程なくして部屋に入ってきたのは大学生くらいの若い男性。
男性は次元と庄司の2人を見て、勢いよく頭を下げて挨拶をする。

「どうもはじめまして!久楽から話を聞いてやってまいりました!是非ともかわい子ちゃんとお知り合いに、あ、いや、御社の業務に興味がありやってまいりました!」
「不採用で。」
「はやい!」

次元は一言告げると席に座る。
あまりの不採用に早さにショックを受けたのは悠仁、久楽の友人である。
次元は誰に伝えるでもなく、呟く。

「バカの相手は一人で精一杯だよ…」

その横でキラキラした目で悠仁を見る庄司も呟く。

「すごい親近感が…先輩、採用しましょー。ねっ。」

次元はこれ見よがしに大きなため息を付いて、悠仁に話をする。

「とりあえず、お話だけ聞きましょうか…とりあえず…ね。」

そう言うと、悠仁を席に座るよう促して、話をする準備をする。

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