「AI(愛)は掌に」 第十三話
庄司が悲壮感に満ちた顔で会議室に戻ってきた。
おそらく、こっぴどく尾上に叱られたのだろう。それも、自業自得ともいえる発言が発端では有ったが。
庄司は部屋に入るや、これまでの空気とは違うことを察した。小さく「…先輩?」と呟くも、それを上書きする言葉が会議室に響く。
「…この仕事の真実?」
久楽の問いかけである。
庄司は久楽の言葉に目を見開き、久楽と次元の顔を二度三度と見返す。何の話をしているのか、尋ねようともしているが、あえて黙ってことの成り行きを見守ろうとしている。
そんな庄司の様子に気付くこともなく、久楽は初めてこの会議室に訪れた時のことを思い返す。
庄司さんに、急に声を掛けられたことがキッカケで知ったバイト。メールをして、お金をもらえる。変な話だった。正直、耳を疑った。出会い系とかのサクラなのか?と、そう思いもした。
顔も声も知らせないのはそういうことなのかな、と。
でも、男も女も関係なくメールをしてる。別に男を騙すために、女を装っているわけでもない。ただ、自然体にメールをしていただけ。個人情報さえ気を付ければいい。それだけだ。それだけでお金が貰えた。何度も不思議には思っていた。だが、出会い系のサクラでもない。
ただ、この仕事が何なのか、ヒントはあった。
主に庄司さんから。
企業秘密なのかなんなのか、理由はともかく、庄司さんが一度口を滑らせて、次元さんが大声を出して、続きを言わせまいとした。
あの時の庄司さんの言い掛けた台詞は、実は覚えている。まだ。ハッキリと。
その後の庄司さんもおかしかった。
「…顔も声も分からない相手に深入りは禁物だよ。文字なんていくらでも取り繕えるからね。」
庄司さんは言った。深入りは禁物。文字なら取り繕える。これの意味することは?
知らない人と仲良くなりすぎたらいけないから?
なぜ?そういう仕事ではないのか?
文字なら嘘は何とでも付ける?
顔は何故見せられない?
声は何故出せない?
その理由は?
理由?
そんなことは薄々気付いていた。
ただ、考えなかっただけ。
考えないようにしただけ。
それを真実と受け止めたくないから。
それが真実であって欲しくないから。
庄司さんは言い掛けた。
その続きは何を言うつもりだったか。
…簡単だ。
「『AI』ですか。」
「AI(artificial intelligence)」
「人工知能」
機械が人のように物を考え、動く。
SF作品でよく見る言葉だ。
機械が友達のようであったり
時には敵であったり
人工知能の進化で機械が反乱を起こす、そんな話もSFではよく聞く話だ。
機械は感情を持たない。
全てプログラムだ。
笑っているように見えたって
怒っているように見えたって
泣いているように見えたって
全てプログラムによって「作られたもの」だ。
「人間らしく」「より人間らしく」「もっと人間らしく」
学習して、学習して、学習して…
計算して行動するだけ。
感情じゃない。
計算だ。
計算高いだけだ。
本能なんか無い。
おそらくこの仕事は
人工知能の相手をしているだけ。
より、学習するために
より、会話が出来るように
より、人間に近くなるために
より、人間のフリが上手くなるために
そして騙すために…
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