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ゲームの中ですら先のことばかり考えて今を楽しめない人生なんて

 ぼくはゲームが好きだ。
 RPG、いわゆるロールプレイングゲームなんかは特に好きで、新しい発見があったり、仲間が増えたり、主人公のレベルが上がったり、レアなアイテムが手に入ったり、とても楽しい。

 最近のゲームはボリュームもあり、世界観やキャラクターの作り込みが凄いこともあって、とにかく没入感が高いものが多い。
 ゲームの世界を実際に冒険しているような体験ができる。

 主人公を操作するぼくは、その世界で謎を解き明かすべく、あるいは世界を救うべく日々敵と戦いを繰り広げる。

 
 とはいえ、没入感が高く、まるでそのゲームの世界で実際に自分が生きているような錯覚さえ覚えるほどであっても操作しているのは、ぼくである。
 主人公が筋骨隆々のスキンヘッドのおじさんでも、マントを纏った魔法使いの女の子であっても、操作しているのは、ぼくである。
 つまり、考え方は現実世界のぼく、そのまま。

 新しい街に到着すれば、全ての村人に話しかけないと気が済まないし、洞窟などでは取りこぼしアイテムなどがないようにじっくり時間をかけるし、取り返しのつかない要素やクエストがないか慎重に進めていく。
 そのうち膨大な数のクエストがリストになって蓄積していく。
 村人からの届け物をしてほしいという依頼とか、洞窟の魔物を退治してほしいという依頼とか、王様からの言付けを隣の国まで伝えにいく依頼だとか。
 取りこぼさないように、あらゆるクエストを受けるだけ受けて、そうするとクエストが増える一方である。

 そうこうしていると、だんだんと面倒臭くなる。

 村人から新しい依頼を受けている時に「次はこのクエストをやってレベルアップして、それから武器を作って」などと考えている。当然その村人が話している内容はほとんど頭に入ってこない。
 どんどん増えていくクエストに「あぁこれを全部クリアしなくちゃいけないのか…」という感覚さえおぼえ始める。まぁこれは年齢のせいかもしれないが。

 「あれもやらなきゃ、これもやらなきゃ」という考えが先行してしまい、このあとに起きることや、するべきことばかり考えてしまい、そのときを楽しめなくなってしまっている気がする。

 そのゲームの世界では勇者や戦士であっても、考え方はぼくのままだ。
 王様から伝説の剣を渡され王女を救うと強く誓う場面でも、勇者は頭の中で「次はあの街にいって、それでアイテムを売って、それから防具を強化して…」などと考えている。
 強大な魔物と退治して、いよいよ勝負が始まるという場面でも、戦士は頭の中で「勝てるかなぁ、不安だなぁ、ミスしないようにしなくちゃ…」などと考えている。

 なんとも頼りない主人公である。
 このクエストがなんだか面白そうだから先にやってみよう! 勝てるかどうかわからないけどとりあえず戦ってみるか! そのくらいの豪快さは持ち合わせていてほしいところである。

 
 ぼくはゲームを離れて現実世界で散歩に出かける。
 すると現実世界のぼくの頭の中でも考えが先行する。

「洗い物もしないと。掃除も。洗濯も。それから買い物、明日の仕事の準備も。本も読みたいと思ってたのがあるし、文章も書こうと思ってたのに」

 今日このあとのことに始まり、それが明日のこと、未来のこと、将来のことにまでつながる。

 考えが先行しすぎると腰が重くなる。
 先のことを考えすぎると不安になる。
 将来のことを心配しすぎると身動きがとれなくなる。

 明日のことを考えながら飲むお酒は楽しくないし、仕事のことを考えながらするゲームは楽しくない。
 将来のことばかりを考えながら生きるのは楽しくないし、不安なことを考えながら好きなことをしても楽しくない。

 ゲームの中ですら、ぼくは考えて考えて考えて、そうして自分で楽しさを半減させてしまうふしがある。
 別に負けてもいいし、取りこぼしがあったっていいし、好きなように遊べばいいのに。
 先のことばかりを考えていないで、目の前の物語やクエストを全力で楽しめばいいのに。
 

 考えてしまうとキリがない。 
 どうなるか不安はあるけど、とりあえず目の前にあるこれを思い切ってやってみよう。

 そのくらいの豪快さはあってもいいのかもしれない。
 
 だって、ぼくはこの世界の主人公なのだから。

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