マガジンのカバー画像

"歴史" 系 note まとめ

1,166
運営しているクリエイター

2024年2月の記事一覧

國學院大學ポッドキャスト番組「学問のNUMA」 歴史学から切り拓く、教科書には載らない戦国時代<後編>

その時歴史を動かした!? 矢部教授の論文に世間が注目 第3回のゲストは、文学部史学科の矢部健太郎教授。<前編>では、戦国時代に起こった数々のイノベーションや織田信長と豊臣秀吉の知られざる素顔に迫りました。 <後編>では、矢部教授の人となりがわかるエピソードも。なんと、歴史学のNUMAにハマったきっかけは、歴史シミュレーションゲームの名作「信長の野望」なのだとか。同じく「信長の野望」にハマっていたタツオさんも乗っかって、話題は思わぬ流れに。2人のゲーム愛に宮田さんもたじたじ

【ニッポンの世界史】#29 「長い目」で世界史を見る:成長の限界・ノストラダムス・小松左京

終末論から生み出された新しい「世界史」観  「ニッポンの世界史」には、その時代の日本人のものの考え方や精神性のようなものが反映されているのではないか。  そのような観点に立ち、今あらためて1970年代をふりかえってみると、これまでみられなかった新しい種類の想像力が立ち上がり、それが日本人の歴史に対する考え方を変え、「世界史」の再定義に向かっていったのではないか、と思うのです。  まあ、1970年代のサブカルチャーや社会の変化については、すでにひととおり多くの人によって語り尽

出口治明・月本昭男対談 その2——博覧強記×碩学無双! “歴史と神話の交差点”を語り明かす

 2018年~2019年にかけて重ねられた、月本昭男さんと出口治明さんの対談。  1月に刊行された、月本昭男さんのNHKブックス『物語としての旧約聖書 人類史に何をもたらしたのか』は、発売10日で増刷が決まりました。そして2月26日、出口治明さんのNHK「100分de名著」ブックス『貞観政要 世を革めるのはリーダーのみにあらず』が発売されました。大好評をいただいてるお二人の対談のエッセンスを、引き続き、再構成してお届けいたします。  立命館アジア太平洋大学学長特命補佐・ライ

【ニッポンの世界史】#28 それぞれの「近代」批判:吉本隆明・阿部謹也・謝世輝

謝世輝のヨーロッパ中心主義批判  さて、今回は謝の世界史構想の全容に迫っていきます。  謝の構想を一言でいえば、「これまでの世界史はヨーロッパ中心主義的で、まちがっている」ということに尽きます。  たとえば、1974年の時点では次のように主張しています(謝世輝「世界史の構築のために」『歴史教育研究』57、1974、70-71頁)。  箇条書きににしながら、その特徴をあぶりだしてゆくことにします。 1.世界史にとって重要なのはアジア(東洋)だ  文明圏(文化圏)にわけて

山本芳久『愛の思想史』(NHK出版、2022年)を読んで。

 本書は類書のないキリスト教思想入門である。多くの入門書や概説書はある決まった枠組みを読者に提示することが多いのだが、本書はむしろどうしてそういう発想に至るのかという、その一歩手前の部分から説き起こす。その理由は本書が同名のラジオ番組をもとに書き下ろされたものだからであろう。噛んで含めるような語り口によってその惟一回の好機を掬い取ろうとする本書は、ともすれば難しく感じてしまうテクスト群を、実際に読み解くことを通して生き生きと読者に提示してくれる。  本書は著者の『キリスト教の

大英帝国の覇権を可能にした電信の歴史を語る『ヴィクトリア朝時代のインターネット』(1998)の紹介

科学技術ジャーナリストのトム・スタンデージ(Tom Standage)は、19世紀にモールス符合を用いて電信システムが世界中に広まり、遠隔地と電気信号で通信する時代を描いた『ヴィクトリア朝時代のインターネット』(1998)の著者です。この著作は、研究者向けの歴史学的な作品ではなく、一般の読者を対象としたものですが、その解釈は19世紀と20世紀の戦争の歴史を理解する上で興味深い示唆を提供しています。 Standage, T. (1998). The Victorian Int

『サピエンス全史(下)』(ユヴァル・ノア・ハラリ著)

【内容】 ホモ・サピエンスの過去、現在、未来を俯瞰する世界的なベストセラーの下巻。 ※ネタバレ(?)します。 【感想】 人類と何か? 神とは何なのか? 死は克服されるのか? チラリと頭をよぎることはあっても、普段は大きな話過ぎて、基本的にスルーしがちな話題を、凄く頭の良い学者が今わかっている最新の研究を絡めて語ったらどうなるのか? そしたら、やたらに面白く、今まで見えていなかった世界のありようが見えてきた… そんな本になっていました。 下巻は、上巻ほどのインパクトは

【ニッポンの世界史】#27 忘れられた世界史家・謝世輝(しゃせいき)とは何者か?—万博・ヘドロ・ポストモダン

3つの不信  アジア初の国際博覧会であった大阪万博は、1970年3月15日から9月13日までの183日間開催され、国内外から116のパビリオンが参加しました。総入場者数約6421万人は、当時として史上最高の記録でした。  グランドテーマは「人類の進歩と調和」。共存が難しい「進歩」と「調和」を掲げ、人類の高い理想を追求するものでしたが、戦後日本の歴史は、1970年を境にとして、大きな転換点を迎えることとなります。  図式的に書けば、次のようになるかもしれません。  ① 西

『フェミニスト経済学』から政治・経済・歴史を捉え直す①

2023年10月に弊社から発売された長田華子・金井郁・古沢希代子編『フェミニスト経済学――経済社会をジェンダーでとらえる』の刊行を記念して、2023年10月13日に座談会を開催しました。その模様をお伝えします。②以降は弊社PR誌『書斎の窓』でもお読みになれます。 〈座談会参加者〉 長田華子(茨城大学准教授)・金井郁(埼玉大学教授)・古沢希代子(東京女子大学教授)×岡野八代(同志社大学教授)・満薗勇(北海道大学准教授) 異分野の研究領域とフェミニスト経済学金井 はじめに、こ

9.京都盆地と奈良盆地は湖だったのか? 

京都の古い資料を見ていると京都盆地はかつて湖だったといいう文言をよく目にします。奈良盆地に関しても、以前の関西高低差大学の講義終了後の質疑応答で、「奈良盆地には、万葉集が詠まれた時代に湖があったのですか?」という質問があり、「湖と呼べる規模のものがあったかは懐疑的だが、今度調べてみますね」とお答えし、私・新之介の宿題になっていました。地形のなりたちを遡っていくと京都や奈良にも海水が侵入した時期がありましたが、それらは何十万年も前の話で、インターネット上にはその痕跡として湖が残

【ニッポンの世界史】#26 テクノロジーと精神文化:マクニールの世界史は、何が新しかったのか?

世界は3つの文化圏でできている?  さて、ここで視点をいったん”公式”世界史の動向に戻しましょう。  1970年度の学習指導要領改訂では、前近代には三大文化圏(ヨーロッパ、イスラム、中国)に分けて学習していく文化圏学習が導入されたのでしたね。  しかしこの分け方に対しては当時から批判もありました。 ・ヨーロッパは多数派を占めた宗教の名前から「キリスト教文化圏」といわないのに、なぜイスラム文化圏と呼ぶのか? ・「イスラム文化圏」はアフリカ、中東だけでなく中央アジアやイン

【ニッポンの世界史】#25 越境する中国史:陳舜臣のユーラシア的想像力

 この評伝で紹介されているのは、1970年代の大衆歴史ブームを土壌として、日本を超える視点から、イスラムと中国を繋ぐ立場を果たした作家、陳舜臣(1924〜2008)です。  この陳舜臣という人が、「ニッポンの世界史」の再定義に、どのようなかかわりをもったか、今回はこれをみていくことにしましょう。 中国史の案内人  陳の魅力をひとことでいえば、まるで見てきたかのように中国の歴史を解き明かし、現代世界とのつながりを意識させるところにあります。    本籍は台湾にありましたが

【ニッポンの世界史】#24 世界史にとって、1970年代の「大衆歴史ブーム」とは何か?

1970年代の大衆歴史ブームの担い手は誰か?  まずは前回のふりかえりから。  1970年に高校の学習指導要領が改訂され、世界史A・Bが世界史に一本化されるとともに、「文化圏」学習がはじまったのでした。  改訂された新学習指導要領が実施されたのは1973年からのこと。  これに基づくカリキュラムと教科書により教育を受けることになったのは、1957年より後に生まれた高校生たちです。  1957年生まれは「ポスト団塊世代」ともいわれ、ギリギリ東京五輪の記憶があって、多感な時代

【ニッポンの世界史】#23 「国益」のための世界史へ:なぜイスラム世界は「文化圏」に格上げされたのか?

格上げされた「イスラム世界」  1970年度学習指導要領では「イスラム世界」が、ヨーロッパ文化圏、中国の文化圏とともに、単独で世界の「三大文化圏」のひとつに数えられるようになりました。  この「格上げ」の背景にあるのは、やはり戦後の研究の進展により参照できる情報が増えたということが大きいでしょう。  もともと西洋生まれの「世界史」において、イスラムの扱いは貧弱で、その傾向は、西洋的世界史の影響を強く受けた発足当初の世界史も同様でした。  そこでは、西洋文明が まるで”主