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ダイバーシティ世界史Vol.2 アメリカ合衆国のアルメニア人

古来、人や物がさまざまな地域を行き交い、多様な文化が各地で織りなされてきました。そんな世界各地に見られる多様性(ダイバーシティ)の事例を、世界史の流れの中に位置付けつつご紹介していきます。

1.アルメニア人ってどんな民族?

アルメニア人は、カスピ海と黒海にはさまれたエリア(コーカサス)に暮らす人々。
現在のアルメニアよりも広い範囲にあたるアゼルバイジャン、ジョージア、イランにかけての山々で、共通の文化を育みました(現在の地域は下の地図のクリーム色の地域)。

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東西シルクロードと、南北を結ぶ交易路の「十字路」にあたる地域であり、古くからビジネスが盛んにおこなわれました。
世界で最も早くにキリスト教を「国の宗教」とした民族でもあります。


アルメニアのキリスト教は、古い時代の特色を多く残しており、あの聖地イェルサレムにも「アルメニア人専用エリア」があるんです。
イスラーム教徒の地区からアルメニア人地区へと抜けていくと、喧騒から静寂へ、落ち着いた雰囲気が印象的です。


これは聖ヤコブ主教座聖堂の内部(筆者撮影)。

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見慣れた教会芸術とはいくぶん違ったタッチですね。

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アルメニア文字が用いられています(筆者撮影)。

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周辺の大国に占領される時期が続きますが、故郷を離れても自分たちらしさを失わず、腕利きの商人として活躍します。

日本マクドナルドの藤田田さんは、かつて世界には次のようなことわざがあると紹介しています。

商売が巧いとされる華僑3人が束になっても、1人のインド人には勝てるかどうか。そのインド人が3人束になっても、1人のアラブ人と同じぐらい。そのアラブ人が3人束になっても、1人のユダヤ人には敵わない。しかし、そのユダヤ人が3人束になってかかっても、1人のアルメニア人には敵わない

このことわざの真偽は確かではありませんが、各地に移住を繰り返し、ビジネスの「つながり」を形成していったアルメニア人は「コーカサスのユダヤ人」ともいわれ、商業に強い民族としてその名を轟かせていたのです。


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2. なぜアメリカにアルメニア人が?


商売上手のアルメニア人は、時代が下るとオスマン帝国(1300年頃〜1922年)という西アジアの首都でも、御用商人として活躍しました。


右からユダヤ人、ギリシア正教徒、アルメニア正教徒の大商人(「トゥッジャール」とよばれ、活動が保護された)。林佳世子『オスマン帝国の時代』山川出版社、1997年、78頁。



シンバルのメーカーでパーカッション関係者なら誰でも知っているジルジャンも、オスマン帝国時代のアルメニア人のメーカーにルーツがあります。

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吹奏楽の経験のある方なら、「アルメニアンダンス」は定番中の定番ですね。

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すでにアルメニア人は、新大陸への入植の波に乗り、すでに17世紀にはヴァージニアに定住した者がいました。

その後、19世紀後半から20世紀前半にかけてアメリカが世界のビジネスの中心に躍り出ると、アメリカに渡るアルメニア人も急増していきます。

その後、ロシアでの迫害、オスマン帝国で「アルメニア人虐殺」(1915年)がふりかかると、難民としてアメリカに向かう人も加わりました。彼らは初め出身地別に身を寄せ合い、異国の地で自分たちの習慣を守ります。


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イェルサレム旧市街に貼られたアルメニア人虐殺に関するビラ



その後アルメニアがソ連の支配下に入ると、「ソ連になじめない」という人々はアメリカに渡りました。


また、中東の情勢が緊迫すると、イラン革命のときにイランから、さらにレバノン内戦のときにレバノンから、難民としてアメリカに向かいました。


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3. 現在のアルメニア人

アルメニア人にルーツをもつアメリカ人は50万人近くにのぼるとみられています。


そのうち4割以上がロサンゼルスに分布し、その郊外グレンデールは「リトルアルメニア」とも呼ばれます。

ビジネスで成功をおさめたアルメニア人も多く、例えばカーク・カーコリアン氏はラスベガスを建設したリゾート業界の大物。ルノー・日産とGMの提携を実現させようとしたことでも知られます。

小説家サローヤンにも根強いファンがいます。

ほかにも政治家や格闘家、役者や音楽家として活躍するアメリカ系アルメニア人も多数いらっしゃいます。

アルメニア系の苗字の後には、たいてい「〜ヤン」とか「〜イアン」が付きますので、だいたい見当がつきますね。

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4. まとめ

こんなふうにアメリカ社会に溶け込み活躍しているアルメニア人ですが、トルコとの間には先ほどの「アルメニア人虐殺」をめぐる歴史問題を抱えています。

アルメニア人虐殺」を記念するイベントも、近年は盛り上がりを見せていて、毎年4月24日にはロサンゼルスでも大きなパレードが実施されます。

日本ではまだあまり馴染みはありませんが、中東で存在感を増すトルコの抱える懸案であるだけに、知っておいても良さそうです。


(みんなの世界史)

このたびはお読みくださり、どうもありがとうございます😊