時代劇レヴュー⑩:燃えよ剣(1970年、1990年)

放送時期:1970年(全二十六話)

放送局(制作会社)など:テレビ朝日

主演(役名):栗塚旭(土方歳三)

原作:司馬遼太郎

脚本:結束信二


1970年にテレビ朝日系列で放送された連続ドラマで、今なお新選組ファンの間では評価の高い作品である(ソフト化されており、古い作品の割に視聴も容易である)。

原作は司馬遼太郎の同名小説で、その原作の雰囲気を活かした結束信二の脚本の精度も高く、数ある新選組の映像化作品の中でも一二を争う秀作と言える。

そしてこの作品の最大の魅力は、土方歳三演じる主演の栗塚旭で、歴代最高の土方歳三と言って良いくらいのはまり役で、司馬遼太郎の描く土方そのものと言えるほどの完成度である。

栗塚の土方は喧嘩師と新選組副長の塩梅がちょうど良く、原作者の司馬遼も納得のキャスティングだったと言うのも頷ける。

他のキャストも、舟橋元の近藤勇、島田順司の沖田総司、先日物故した名和宏の芹沢鴨、外山高士の伊東甲子太郎など、イメージ通りのキャストが多い。

このうち栗塚・舟橋・島田の三者は、同じ司馬遼太郎原作、結束信二脚本、テレビ朝日放送の「新選組血風録」(1965年)からの続投であるが(この作品も新選組を題材にした映像作品の中では評価が高い)、島田順司はこの時は三十代と言うこともあってやや「老けた」総司であるものの(笑)、雰囲気は抜群である。

舟橋元の近藤勇は、原作の感じからするともう少し軽薄の方が良いと思うが、他の作品からすると比較的バランスの取れた人物像になっている。

他のキャストで言えば、脇役や悪役を演じるような方々がメインの隊士を演じている印象である。

後、中野誠也演じる山崎烝がかなり目立っているのも、他の作品にない特徴であろうか。

狂言回し的な存在である裏通り先生役の左右田一平と、伝蔵(壬生屯所の八木家の使用人頭のような感じの人物で、裏通り先生同様架空の人物)役の小田部通麿との掛け合いが毎回絶妙で、これも見どころの一つだったりする。

ずっとコメディリリーフ的存在だった伝蔵に、泣けるエンディングが用意されているのも、「リリカル」と評される結束脚本の特徴であろう。

リリカルと言えば、特に終盤は泣ける展開が多く、とりわけ第二十二話の流山で近藤と土方が別れるシーンは出色であった。

新選組崩壊の鳥羽伏見の戦いから箱館戦争のエピソードに時間をだいぶ割いているのも、個人的には良かったと思う。

一部史実と異なる描写もあったと言うか、谷三十郎や松原忠司の死は時系列がだいぶおかしいし、新選組の全十番編成のタイミングも史実とは異なるが、そのあたりは所謂「演出上の都合」と言うもので、そこまで目くじらを立てるほどでもないであろう。

ただ、河合耆三郎の死だけは大幅な脚色が加わって史実とだいぶ異なるので、個人的には気になったが、このあたりは結束信二のこだわりなのであろうか。


なお、「燃えよ剣」この他にも複数回映像化されており、その中で私が過去に視聴している1990年のテレビ東京放送版についても、ついでながらここで言及しておく。

1990年の正月5日と6日の二日連続、前後編で放送された長編時代劇で、主役の土方歳三は役所広司が演じている(2019年現在、この作品はVHS版が存在するだけでDVD化はされていない)。

原作の前半部のウェイトが比較的高く、土方が伊東甲子太郎一派を粛清する油小路の決闘までが本編のメインで、それ以降のエピソードはエピローグ的に挿入されるだけである(特に第二部は全体的に展開が駆け足で、一つ一つのシークエンスがやや雑である)。

役所広司の土方は非常にエネルギッシュで、それはそれで魅力的であるが、司馬遼太郎の描く土方とはどこかイメージが違い(役所の演じる土方は、かなり感情を顕に出すキャラクタに描かれていた)、どうもしっくり来なかった(原作が『燃えよ剣』でなければ良かったと思うのだが)。

原作の長さに比して放送時間が短いせいか、長坂秀佳の脚本がいまいちなのか、ストーリーとしては全体的に面白みに欠け(ただ、長坂秀佳の脚本にしては珍しく、原作にある描写以外での史実との相違、特に時系列がおかしな所がほとんどない)、個人的に唯一見るべきものとしては故・石立鉄男が演じる近藤勇くらいである。

個人的な印象であるが、石立鉄男のキャラクタのせいもあって、この作品の近藤勇は司馬の描く近藤の軽薄なイメージに最も近く、個人的にはベストキャスティングである(あくまで司馬遼太郎の描く近藤に限った話であるが)。

土方と関わる三人の女性(いづれも司馬が創作した人物)には、小川知子・萬田久子・岡田奈々がキャスティングされており、個人的には岡田奈々が好きなので、序盤で退場してしまうキャラクタ役なのがちょっと惜しい(笑)

後、全編通じた土方の剣のライヴァル・七里研之助(これも司馬が創作した人物)を中康治が演じているが、1986年にNHKで放送された「宮本武蔵」(この作品もいづれ取り上げる予定であるが)では役所が武蔵役、中が佐々木小次郎役であったので、それを意識したキャスティングであろうか。


・追記(2023年4月21日)

2022年に司馬遼太郎の『燃えよ剣』を原作とした同名映画(原田眞人監督・岡田准一主演)が公開された。

同じ監督・主演、かつ同じ司馬遼原作の「関ヶ原」(2017年)が原作をかなり改変していたのに対し、こちらはほぼ原作に忠実な作品であるが、原作が長編であるために一つ一つのシークエンスが雑な感じになってしまった印象であった。

これはこの作品に限らず、長編の原作をうまいこと二時間半程度の作品に過不足なく収める難しさと言うのはあるだろうが、ただそれにしても大河ドラマの総集編ばりの非常にあっさりした内容であった感じは否めない。

主演の岡田准一は、個人的には本作の土方よりも、「関ヶ原」の時の石田三成の方がイメージに合っていたように思うが、これについても司馬遼の原作の土方のキャラクタの個性がかなり強いので、なかなか原作にぴったりと言う配役が難しいのかも知れない(上記1990年版の役所広司にしたってそんな感じ)。

配役の中では、鈴木亮平演じる近藤勇が一番良かったように思う。

上記1990年版の石立鉄男ほど崩していないものの、近藤が持つ軽薄さと人望の厚さの塩梅が非常に良かった。

作中の衣装とか髪型とか、考証的な部分についてはかなり凝っている感じがあって、その点は個人的に好印象。

後、これは演じる岡田のキャラクタのせいかも知れないが、ストーリー自体は原作に忠実である反面、土方がだいぶ原作よりもマイルドで「優しく」なっている印象を受け、過去の映像化作品では法度に違反した隊士を容赦なく粛清していく冷酷さと、それ以外での部分でのギャップが対比されることが多かったが、本作はそうした「鬼の副長」の要素が少し物足りなかった。


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