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服飾と建築02 ヴァージルアブローを言語化する

2021年11月28にVirgil Ablohがなくなった。彼は建築と服飾を横断する人であり、個人的に気になり続けていたが、著書を読めど深く言語化することはなかった。結局のところ、どこら辺が建築的かは誰も言語化してくれていないので僕なりに言葉にしよう。そもそもは個人的に毎日行なっている(正確にはボスに言われ)毎日デザインを読む一環をまとめたものなので箇条書きになってしまうが所々に考察を挟みながら、言葉にしていきたい。

話の流れとしては彼が影響された建築、店舗、家具、服飾を順番に読んでいき、何が建築的なのか、服と建築に対して何をなし得たを結論付ける。

建築に関して

Mies Van Der Rohe, Illinois Institute of Technology/ Crown Hall


ヴァージルアブローがクロスアローロゴを作る際に水平垂直が影響されたと言っている学生時代の建築学生のキャンパス。
イリノイ工科大学のマスタープランを作ったミースの22棟あるうちの一つ。
鉄とガラスでできており、ミースの「ユニバーサルスペース」を達成するために構造体の梁が外に飛び出していて、無柱空間を成立させている。可動間仕切りによって自由に空間を使うことができる。


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https://www.google.com/search?q=%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%82%A6%E3%83%B3%E3%83%9B%E3%83%[…]UKEwjTlP-9zMH0AhWGAt4KHZkPB9cQ4lYoAHoECAEQEg&biw=1772&bih=814
それまで組積造で窓が小さいヨーロッパの建築から工業化によって大空間、壁が必要でないなどのゲームチェンジャーとしての面白さと縛りから解放された自由さがミースとヴァージル は似た様な印象を受ける。それの工業化によって可能になった水平垂直の抽象的な表現が美しい。

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イリノイ工科大学のキャンパスセンター

ヴァージルアブローの出身校であるイリノイ工科大学のキャンパスセンター。「レム・コールハースのマコーミック・トリビューン・キャンパス・センターは私の興味と関心を掻き立て、私のファッションにおける成功への扉を開いてくれた。」と言っていたらしい。
Back Ground:元々は学内の上を私鉄が通る学生用の駐車場であった場所にキャンパスセンターに作る計画。東側に住宅、西側に大学があり、2つの境界を明確に表現できる新しいセンターが必要とされた。真ん中にはミースが設計したコンズビル(1954)がある。

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Design:大きな二つの手法として
・敷地を通過する電車の騒音を解決するために建物の上を通過するステンレス鋼管を設けることで線路の530フィート(160 m)のセクションを囲ったチューブの支持構造から完全に独立することで電車が通る振動を最小限にしている。OMAは元はさらに巨大な計画をしていて、元のデザインには、ボウリング場、バスケットボールコート、スケートパークが含まれていた。
・高架の歩道橋に飛び込むために傾斜し、線路を支えるために現れる工業的な構造を持った屋根を設けることで線路下の狭い空間を意識させないような設計をしていてそれが内部空間全体を構成するきっかけとなっている。
ミースの建築を取り込んで学生用の食堂にしていたり、扉を作らず、色で境界を分けたり、さまざまなプログラム要素がすべて屋根に囲まれていたりしたり改めて見ると面白いなと思った。
またヴァージルが建築的であると言われていた理由が漠然としていたけれど、建築内部のオレンジであったり、工業的な表現が大きく影響されているように思えて面白い。
https://arquitecturaviva.com/works/centro-de-estudiantes-mccormick-tribune

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Dezeenのインタビューによればこの二つはヴァージル が影響を受けた建築らしい。共にヴァージル の母校の校舎であり、名建築である。特にOMAのキャンパスセンターの影響はとても強く見て取れる。off-white™️を設計していたFamily New York(今はもうないが)はOMA出身であるし、後述するマイアミのフラッグシップストアはOMAの研究機関AMOとともにデザインしている。

Off-White Flagship Store Miami / Architects: AMO; Designers: Virgil Abloh


Off-WhiteTM小売の世界を再定義するためにデザインされたフラッグショップ。
床から天井までの可動壁を用いることによって公道をストアの中に引き込み、パブリックスペースとして機能する。フラッグシップストアは、訪問者に交流とブランドエンゲージメントのための物理的なコミュニティスペースを提供することにより、現代の配送センターとしてのアイデアを形にしている。パブリックスペースは、パブリックアートの展示、ミニキャットウォーク、音楽パフォーマンスなど、さまざまなプログラムを想定することによって都市に開く。ファサードのShopをブランドの象徴的なオレンジのXに重ねる事で、単なるショップでないことを表現している。Off-whiteの工業的なデザインの読み替えを空間に落とし込んだデザインは全てにキャスターが仕込まれていて、店舗の奥にあるオープンストックに移動した家具を収められるようになっている。ぱっと見は Off-Whiteの工業的なデザインに強く目がいく印象があったが、よく観察するとそこに都市との関わりを持とうとしていたヴァージルはやはり建築出身である。

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AMOとのプロジェクトは都市へのアプローチがメインになっていてヴァージル が都市に対して興味があったことが窺える。

彼自身が建築物を設計することはなかった。彼がもし、建築を作っていたならばそれはおそらく都市と関わりを持っていたモノであるだろう。もしかしたら名建築がサンプリングされた様なモノだったかもしれない。彼がいない今、想像する他ないのだが。

家具に関して

服のスケールと建築のスケールの間のデザインをデザインしていく中でモノの読み替えや3%の操作を家具でも行なっている。

Grey Area

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ヴァージル が初めてデザインした家具シリーズ。産廃用のメッシュパレットを思わせる様な工業的なデザインの読み替えが行われていたり、プラスターボードを積み重ねることでものを支えたり、制作の途中で止めた様な印象を作っている。

https://canary---yellow.com/framing-grey-area-furnitures/

TWENTYTHIRTYFIVE/Virgil Abloh Vitra

建築を学んだアブローの思春期と住宅環境の相互作用を表現したインスタレーション
2部構成になっている
第1部“過去 / 現在(PAST/PRESENT)”では、ティーンの両親の家や学校の教室などにあったような家具が置かれている。
第2部の“明日”では、ティーンが成長し、思い出や経験、文化的かつ社会的影響を盛り込んだ自身の製品を創り出した35年の住居空間が広がる。
ヴァージルのデザイン手法である既存のデザインの3%を変えることで今までになかった差異を感じさせることがうまくいっているような面白さがある。
ジャンプルーベのアントニーチェアの素材を変えるだけでカーブしたフレームが見えてくる面白さや、プチポテンスのシェードを変えるだけで工業的な印象を作っているところが面白い。
。またその表現がインスタレーションのDIY的なコンセプトを表現しているように思える。
https://www.vitra.com/ja-jp/about-vitra/news/details/2019-virgil-abloh-vitra

基本的に家具に関しては服飾同様にワンコンセプトで構成している。基本的に普段そこに使われない様な要素(工業製品であったり、現場でよく用いられる色)が多くモノの読み替えが多い。

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Grey Areaも基本的に元ネタがわかる様に各々の要素をサンプリングして組み立てている印象がある。コルビジェの LC2をメッシュで再構築することなど改めて考えると、ファッション的でありしかし彼のバックグラウンドからするとそれはデザインの軸なのであろう。

服飾に関して

そんなこんなで畑から耕してみた。次はヴァージル が関わったoff-white™️とLouis Vuittonを読んでいきたい。

off-white™️ 2016SS

ラッシングベルトを流用したインダストリアル ベルトはdroogの代表的な棚を彷彿とさせる様な印象をうける。既存のモノを組み合わせることによって差異を作っている。

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https://www.firstview.com/collection_image_closeup.php?of=43&collection=43393&image=6167105#.YblpsH3P1TY

Louis Vuitton 2021AW

https://jp.louisvuitton.com/jpn-jp/magazine/articles/men-fall-winter-2021-show-paris#

典型的なイメージを持つ多彩なパーソナリティ──作家、芸術家、放浪者、セールスマン、ホテルマン、ギャラリーのオーナー、建築家、学生など──それぞれを定義する存在となっているユニフォームを掘り下げたコレクション

まず見なければならないのは、ミースのバセロナパビリオンのオマージュであるランウェイ のセットである。本来であれば自律的に作られていくランウェイ がファッションに横行する模倣と改変を感じさせる皮肉さを持っている。芸術強盗の比喩的概念を通して表現され、確立された芸術界から生まれたものとは異なる文化遺産の基盤が再流用される様子を作っている。ダッパーダンがハイブランドのブートレグを作った様に建築のブートレグとしての意味を作っている。

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彼はこのシーズンでマンハッタンの摩天楼、都市のスケールがそのまま身体まで小さくなった様なジャケットを作っている。感覚的な性質としての都市と、実在する対象として服飾を掛け合わせることで空間を作り出している。

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https://jp.louisvuitton.com/content/dam/lv/online/stories/fashion/M_Fa_RW_Show_FW21_v2.html/jcr:content/assets/looks/LV_FW21_look_21_DII-640w.jpg


昨今の工業的なエレメントを工法の視点で組み合うことで感じられる印象はヴァージルのデザインに近く感じることが多い。そこがファッションの不確かなコンテクストの集積とは違い、droog design 以降の家具のデザインの様な影響を感じる。ヴァージル が最も評価されるべき点はオランダのデザインや建築、特に服飾的でない潮流と明快さを服飾に持ち込んだことだと僕は考えている。

最後に

改めて言語化すると気づきが多く、今後服飾と建築を考える上で大いに参考になった。しかし建築と家具の視点から捉えてみたものの、ヴァージル はアフリカ系アメリカ人のカルチャー、マイケルジャクソンやHiphopのサンプリング(ものを組み合わせて元ネタがわかるデザインすることはおそらくここから来ている)などをコンセプトにしてることが多い。一概に建築だけを引っ張ってきてデザインを説いているわけではない。彼はあくまでも自身の変えられない出自をポジティブに変換していくことで自身をデザインしていた。もっと彼の作品が見たかった。ご冥福をお祈りします。



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