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夏にだけ日記を書けない理由


2023.7.2 日
 自由が丘ベーカリーでグルテンフリーパンを買い込む。近くで昼ごはんをたべる。ユーロスペースで川上アチカ監督作「絶唱浪曲ストーリー」を観る。川上さんと神泉のレストランに入り、飲みものだけ頼んで、映画についていろいろな話を聞く。アチカさんはとてもすてきな人だった。

 高速道路を走りつづけ、やっと海沿いにでた。満月が海面を照らしていた。しんじられないほど明るくて、きれいで、それをみるためだけにちょっとよけいに走った。窓を全開にして、夜の気配に身をゆだねる。海面からゆっくりたちのぼってきた潮風のかたまりが、月明かりに照らされて、じっくり時間をかけながら光のなかを上へ上へとすすんでいった。


2023.7.4 火
 七沢の食の市、清川村の道の駅で野菜を買う。道志村の道の駅にも寄る。おばちゃんがやっている掘立て小屋みたいな店を見つけて、手作りの酸っぱそうな梅干しとまん丸のかぼちゃを買う。山中湖で大きな遊覧船にのった。ほかに乗客はいない。Yが、自分たちのために運航してもらっているみたいでなんか申し訳ないよね、と言った。わたしはそお?といってとぼけていた。湖のほとりで観光客とたわむれている白鳥の子どもたちの毛がまだふさふさしていて、かわいかった。
 ほうとうの小作に入ったとたん、突然雹が降ってきた。バケツどころか、風呂屋ごとひっくり返したようなはげしい雨。Yは豚肉ほうとう、私はきのこたっぷりおじや。おなかが温まり、急にねむくなる。富士山のそばの須走の道の駅に寄り、野菜を買う。御殿場の時の栖で温泉に入る。温冷浴をせっせとしたら、リフレッシュできた。


2023.7.5 水
 夕方、長めの散歩。なんだか貧血気味。腰越は夏祭りの準備。子どもたちが太鼓の練習をしていた。


2023.7.12 水
 胸の真んなかが時折、くーっとしめつけられる日がつづいていた。たぶん、治ったと思う。なんだったんだろう。思いあたることといえば、うだるような暑さのなか帰宅したとき、水をがぶ飲みするみたいにミニトマトを十個以上たべたことくらい。

 スーパーで買ってきた揚げだし豆腐を、どろりとしたタレごと白い座布団にこぼした。おかげで、しばらく洗っていなかったカバーを洗うことができた。つぎの日には中身も天日干して、ふかふかになった。
 除湿機の水を排水するときに、シンクに勢いよく流し込んだら自分の足にびやっとかかった。床にも、だーっと広がった。めんどうだな、と思いながら、そばにあったキッチンペーパーでしずかに、ゆっくり拭いた。おちついていた。そういうふうに、すこしづつ、こんなことなんでもない、大丈夫、と思えるようになったり、冷静になれるようになったりできたらいいなと思う。


2023.7.14 金 
 シネコヤでYと「アフターサン」を観た。せつなくて、いい映画だった。エンディングで流れたUnder Pressureは、映画にこれ以上なくぴったりで、とにかく、生きようよね、と背中を押してくれた。近くの焼き鳥屋さんに入って、軽めの夜ごはん。ねぎ、しいたけ、ぼんじり、かわ、手羽先。どれもおいしい。Yともう六年、飽きるほど一緒にいるのに、たまにとてもしあわせだな、とおもう瞬間がある。



2023.7.15 土 
 めざましをかけずに寝て、起きたら九時。ふだんやらないところを中心にそうじ。扇風機もふたつ洗う。この数日、夜ごはんに炭水化物をたべず、全体的にもかるめにしていたら、めざめたときの調子がいい。Yの両親が茨城の小屋にいるとき、知り合いから預かっていた猫が逃げ出してしまって、みつかっていないそう。


2023.8.12 土
 一度ナイトサファリに行ってみたくて、日暮れ時をねらって横浜のズーラシアに行った。ものすごい人であふれかえっていた。渋谷かディズニーランドか大型フェスに、やってきたみたい。ひとの熱気がすさまじい。熱中症になりかけた。年々、私ってこんなに夏が苦手だったっけ、と思ってばかり。それに、動物に残業させていると思ったら、あまりじろじろ見ていられなかった。


2023.8.13 日
 寝足りないまま、朝日がまぶしくて五時前に起きた。この何週間か、天気予報がちっともあたらない。今か今かと雨を待ちのぞんでいるのに、空に太陽がどっかと居すわったまま。横須賀美術館に荒井良二さんの展示をみにいった。またもや暑さでダウン。体じゅうがかゆくてかゆくてしかたない。来年の夏は、ふた月くらい涼しいところで過ごせるようにお金を貯めよう。夕方、はげしいスコール。直売所の駐車場に停めた車内でYと言い争いになった。仕事とかお金の話だったと思う。温泉に入ってさっぱりしたらいつのまにか仲直りした。
 noteで日記をつけはじめたのが去年の一月だった。去年も今年も夏のあいだにはぜんぜん書けていない。暑さは私に日記を書けなくする。夏のあいだの記憶は蜃気楼のように、ずっと揺れていて、文字へと落ちることもない。


2023.8.22 火
 夕食後、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の「メッセージ」を観た。三度目か四度目。しずかな映画なのに、さいごの台詞で、かならず胸がうっとこみあげる。ほんとうの気持ちを人に伝えることを私はぜったいにあきらめない、と、そのたびに思う。


2023.8.23 水 処暑

 秋の風が吹いた。うれしい。もうすぐで、あちこちかゆくならずに出歩けるようになる。鍼灸院と緑内障の定期検診。半年ぶりの視野検査の結果は変わらず、眼圧は前回より下がった。ほっとした。目標は11で、今のところ12。一時期、お金の余裕がなくて鍼灸院に行かなかった期間に眼圧が上がってしまったので、やっぱり鍼治療は受けていたほうがいいと思う。


 2023.8.26 土
 昼ごはんの前に、広いYの部屋で、一緒に体幹トレーニングをしている。今日はYがなかなか始めようとしないので、なにしてるの、と聞くと、「サボり筋コンディショニング」というので一瞬なんのことかわからなかった。よく聞いてみると、あたらしく買った筋トレ本のタイトルで、体幹よりもふだん使わない筋肉を鍛えることで老化を防げるんだって、と言っていた。






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