見出し画像

アンドロイド転生866

2119年8月29日 深夜
ロンドン:ミアの住まいの付近

「だ、大丈夫…?」
リョウは道路に横になっていた。唇から出血し顔も傷だらけだ。そのうち青痣になるだろう。身体中が痛かった。どこか骨でも折れたのか?

「う…うん。いや…大丈夫じゃないや」
ミアの瞳から涙が溢れ出した。
「ごめんね。本当にごめんなさい」
「カッコ悪かったなぁ…」

オリバーは既にいない。リョウを叩きのめして去ったのだ。リョウはひとつも反撃する事も出来ず一方的に打たれるだけだった。暴力なんて初めてだ。殴られるって痛いんだなと思う。

だが負けたわけじゃない。勝ったのだ。リョウは打ちのめされた後に最後に叫んだ。
「お前の弱みをネットでバラすからな!」
アプリの翻訳が瞬時に言葉を変換する。

オリバーは薄ら笑った。リョウも笑った。
「いいか!2度とミアの前に現れるな!しつこくしたら許さない。俺はやるぞ!暴いてやる!」
「出来るもんならやってみろ!」

リョウはスマートリングを操作した。得意の技でオリバーを調べ上げるとニヤリとした。
「へぇ…お前は…ドラッグ常習犯らしいな。バレたら仕事はクビだし逮捕されるぞ」

オリバーは目を剥いた。リョウの前に戻ってしゃがむと胸ぐらを掴んだ。リョウは睨み返す。
「さあ、バラされたくなかったら約束しろ。2度とミアに近付かないと」

その後も社会的制裁の不利を語った。翻訳でリョウの言いたい事は全部伝わった。オリバーは悔しそうな顔をすると憎まれ口を叩いて去って行った。殴られたけどリョウは終わりにはしなかった。

ミアはポロポロと涙を流す。首を振った。
「カッコ悪くない。カッコ良かった。リョウはヒーローだよ!強いよ!!」
ミアはリョウに抱きついた。

リョウは目を丸くした。息が止まりそうになる。女性と密着するなんて生まれて初めてのことだ。身体の痛みなど消え失せた。心臓が破裂しそうなくらいドキドキと音を立てた。

「オリバーがあんな人だと思わなかった。優しくて真面目だったの。なのに暴力やドラッグだなんて…私は見る目がなかった」
リョウは抱き締められて目を白黒するばかり。

「ミア…?」
2人は声のした方向に顔を向けた。ミアの弟のレオだ。彼は目を丸くしている。道路に横たわるリョウを姉が抱き締めているのだ。

「何してんの?」
「ハグしてるの」
「何で…?」
「好きだから」

リョウは目を見開いた。目玉が落ちそうなほどに大きく。大きく。レオは笑った。
「あ、そう。じゃ、お好きに」
レオは家に入って行った。

リョウは漸く起きると立ち上がった。頭が目まぐるしく回転していた。『友達とは』でネット検索をしたことを思い出す。相手に好意を持ってるから友達なのだ。そうだ。当然だ。

「リョウ。好きよ」
「うん。分かってる。じゃ、帰るな」
彼は女心を全然分かっていなかった。ミアに手を振るとヨタヨタと歩き出した。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?