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アンドロイド転生867

2119年8月30日 午後2時過ぎ
イギリス:ハスミ邸
(訪問59日目)

ユリエはいつものようにリョウを玄関で出迎えたが笑顔が一瞬で強張った。呆然となる。彼の顔があり得ないほど腫れ上がっていたのだ。
「ど、どうしたの⁈な…何が…あったの⁈」

リョウは苦笑したが痛みを感じて顔を押さえた。ユリエはリビングに向かって叫んだ。
「あなた!エマ!セバスチャンも来て!」
3人が何事かとやって来た。

エマはリョウを見て絶句した。まるで激しく殴られたかのように顔がパンパンになり、青痣だらけだ。所々傷がある。目も唇も腫れていた。
「ど、どうしたの…」

リョウは顔を顰めた。微笑んだのかもしれないがそうは見えなかった。執事アンドロイドのセバスチャンが繁々とリョウの顔を眺めた。
「医療サイトにアクセスして照合しました」

全員が頷いた。執事は続ける。
「擦過傷は8箇所。4箇所内部出血しており、腫脹しています。今直ぐに冷却し抗炎症剤の投与が必要です。病院に行くべきです」

リョウは慌てて首を振った。
「だ、大丈夫です」
「身体が傾いています。痛みを庇っているのだと思われます。病院に行くべきです」

「いや、本当に…大丈夫です」
「大丈夫じゃないだろう!」
エマの父親のコウイチが叱り飛ばした。ハスミ家族は渋るリョウを車に乗せると病院に運んだ。

20分後。リョウの顔には抗炎症剤配合の冷却クリームが塗られていた。身体にも青痣が大小多数あり、医師から点滴を勧められてベッドに横になっていた。幸いにも骨折はなかった。

コウイチが眉根を寄せた。
「一体、何があったんだ?」
リョウは打ち明けられなかった。ミアの元恋人の暴力の被害に遭ったなどとは。

だから経験を交えて取り繕うしかなかった。
「じ、実は…ペイを騙し取られそうになりまして…拒否したら襲われて…」
3人は目を丸くした。

だがやがて納得する。人畜無害に見えるリョウだ。簡単に騙せると思ったのだろう。
「日本は平和だからな。日本人がターゲットになりやすいんだ。今後は気を付けたまえ」

ユリエはリョウが気の毒でならなかった。こんなに痛い思いをしてまで家に来たのだ。祈祷師としての役目を果たすために。なんて真面目な人なのだろうか。またリョウの株が上がった。

ユリエにとって、リョウは娘の救世主だ。大事な人物なのだ。何とか労わってあげたかった。
「リョウさん。お食事はどう?食べられる?うちに戻ってお粥でもいかが?」

リョウは慌てて手を振った。
「とんでないです!病院に運んで頂いて感謝してます。もう充分です」
「そんな事を言わないで。ね?」

ユリエと夫は顔を見合わせて頷いた。
「何なら暫くうちに泊まってもいいのよ。ね?そうしなさい。1人なんて大変だもの」
リョウは目を丸くした。

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