見出し画像

アンドロイド転生862

2119年8月20日 正午
東京都台東区上野:ミシマ邸

つばさ幼稚園は敷地1000坪の中に園舎と職員宿舎。そして遊具、遊技場、砂場、ミニアスレチック、プール、池が造設される。更に敷地を囲んで四季折々の緑や花を植樹する予定だ。

現時点で園舎と職員宿舎が完成している。男性型のアンドロイドがやって来てミシマ夫妻に声を掛けた。設計士で現場監督だそうだ。2人は監督と共に行ってしまった。

ユイが工事現場に向かって指を指す。
「あそこの職員宿舎にチアキ先生は住む事になるんだけど、全部が完成するまでは本宅ね。私達と一緒に住むんだよ」

サクヤがチアキの腕を引っ張った。
「先生!案内するから部屋を見て!」
チアキはこんな風に自分を認めてくれるのが嬉しかった。唯のマシンではないと実感するのだ。

サクヤが飛び跳ねるように先導する。屋敷に入り、やがて扉の前で立ち止まった。
「チアキ先生は僕の隣なんだよ!」
「有難う御座います」

ユイが目を輝かせた。
「私はこっち。奥の部屋」
教育者になると決めてから引っ越して来たそうだ。約1ヶ月前の事らしい。

チアキは自分の部屋に足を踏み入れて見渡した。陽が燦々と当たる部屋はアンドロイドでも嬉しいものだ。クロゼットには幾つかの服が吊るされていた。前もって送っておいたのだ。

荷物を片付けると、またサクヤが引っ張る。屋敷の中庭にあるうさぎ小屋に案内された。成獣以外にも沢山の子供がおり綿毛のようで愛らしい。
「僕が担当だからね。教えるね」

サクヤは動物が好きでよく面倒を見た。誰よりもうさぎ達の事を把握している。うさぎはすくすくと健康に育ち代を重ねた。今後はチアキに育て方を教えるのだ。だから先輩なのだ。

チアキは繁々とサクヤを見つめた。子うさぎを抱く優しい眼差し。愛らしい顔立ちに利発な目元。上手くやっていけそうだと嬉しくなった。 
「はい。サクヤ先輩」

ふたりの背後から声がした。
「サクヤ様。先生がいらっしゃいましたか」
ナニーアンドロイドだ。人は12歳まで育てられるのだ。あと2年である。

「先生。ナニーのユキだよ。雪の日に生まれたんだってさ。ユキ。チアキ先生だよ」
アンドロイド達は微笑み合った。チアキは彼女に自我が芽生えてくれたら嬉しいなと思う。

それからの日々は順調だった。園内の工事が着々と進んで池や遊戯場が造られていく。ミシマ夫妻は何度も現場監督と話し合い、全てがより良い仕上がりになりそうだった。

ユウサクは度々行政に訪れた。その間チアキは妻のトモミと姪のユイと共に物語りを選んだり、歌や楽器の練習をした。踊りなども独自に開拓していった。サクヤも喜んで参加する。

全員が一丸となって取り組んだ。幼稚園は必ず良い施設になる。園児達の情操教育に役に立って、いつか子供らが巣立った時に想い出の一頁になるのだ。やる気と希望に溢れていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?